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16、【その頃の魔界2】兄視点2
しおりを挟むレンファが黙っていたので知らなかったが、シュゲルク王子は日頃からレンファにしつこく閨房相手になってくれと懇願していたらしい。
ついに断りきれなくなったレンファは渋々了承し、歓喜のあまり閨で暴走したシュゲルク王子のせいで尻を裂く大怪我を負ったのだ。
慌てて迎えに行った俺達が見たのは、見た事もない程泣き叫ぶ痛々しい弟の姿と、その周りをオロオロと徘徊する憎きクソ王子の姿だった。
俺達はすぐにレンファを回収し、治癒魔法の得意な魔族を連れてきて速やかに傷を回復させレンファの部屋を結界でガッチガチに固めた。
その後シュゲルク王子は懲りずに何度もレンファの部屋へと侵入を試みたようだが、その都度結界に弾かれ父と俺達兄弟により王宮に送り返される。
あまりにしつこいので父が王妃様に訴えると、レンファを可愛がりいずれは息子の誰かの伴侶にと考えていた王妃様は、シュゲルク王子の所業に怒り罰として百年の縛刑に処して下さった。
しかし、その刑もじき終わる。
そうなればまたレンファはシュゲルク王子に襲われ、悪夢の再来となるだろう。
父は己の自己満足のせいでレンファを傷付けてしまった事を心底悔み、陛下に相談する事にした。
その結果、レンファを人間界へと一時的に避難させようということになったのである。
正直今回の事も母にも事前に事情を話していれば、ここまで怒ることはなかったと思うのだ。
何しろレンファが尻を裂かれた際一番怒り狂ったのは母である。
その時は怒りのままに精霊界へと向かい、自身の兄である精霊王に助けを求めると言う暴挙に出た。
そして精霊王は母に連れられ、私室に籠もるレンファと対面した途端一目で恋に落ちた。
それ自体は母も目くじらを立てるような事はしなかった。
むしろ「わたくちのレンちゃんは魅力的だから仕方ないわね!」と喜んでいたくらいである。
しかし運悪くその時精霊王は家臣にせっつかれ自らの伴侶を探していた時期で、これ幸いとそのままレンファに求婚し、助けるどころか母を無視して精霊界に連れ去ろうとしたのだ。
それを見て母は当然憤怒する。
なりふり構わず精霊王に噛み付き、レンファを奪われまいとそれはもう無茶苦茶に暴れまくった。
自分が精霊王を連れてきたくせにと思うかもしれないが、これが精霊族であり母なのである。
母の怒涛の攻撃によりなんとか精霊王からレンファを死守したが、それ以来レンファは精霊王からも絶えず魔法文にて求婚され続けている。
「もーっ!レンちゃんはわたくちがお腹を痛めて産んだ子よ!?どいつもこいつも、レンちゃんをわたくちから引き離すなんて何様なのよ!!レンちゃんの、一番は、わたくちなの!わたくちが一番レンちゃんの事を理解ちてるのよ!こうなったら人間界に乗り込んでレンちゃんを取り戻して来るわ!!」
母はそう叫び怒りのままにしまっていた羽を出現させる。
また面倒な事に…!と俺も流石に青ざめていると、突然レンファの椅子の上にポンッとポチが姿を現した。
「あらっ、ポチ!あなた一人で帰って来れたの?」
「わんっ!」
そのすぐ後に空からふわふわとすずらんの花が一輪降ってくる。
母がそれを慌てて掴み取ると、手のひらの上でみるみるうちに手紙へと変わり、食い入るようにそれに目を通した。
「まぁ…まぁまぁまぁっなんてこと!大変!あの強姦王子が、レンちゃんの前に現れたようよ!」
「は!?何ですって!?」
まだあの王子の縛刑は終わっていない筈…
すると母は人間たちが魔族を召喚した際、縛られたままのシュゲルク王子がレンファの元に現れたのだと手紙を読み上げた。
「ポチは強姦王子の気配を察してレンちゃんを守ろうとしたのね!えらいわ!」
「わんっ!」
「レンちゃんがポチがちゃんと屋敷に帰ったか心配してるみたい。安心させる為にポチの足跡付きで手紙を返しましょうね!」
先程までの剣幕が嘘のようにレンファ宛の手紙にポチの足跡スタンプを押しまくる母に、一先ずホッと息を吐く。
しかし問題はシュゲルク王子にレンファが人間界に居ることが知られてしまったという事だ。
あの王子の事、きっと縛刑が解けた瞬間人間界へと向かうに違いない。
俺は父や他の兄弟にこの事を報告すべく、屋敷に戻ろうと踵を返す。
しかし後ろを向いた所で、母の恐ろしい発言が耳に入り思わず足を止めた。
「そうだわ、お兄様にレンちゃんを見守って頂けるようお願いしましょう。精霊界の方が人間界より近いもの。そうすれば安心だわ!」
エエェェ!?母様!?あなた精霊王がレンファを精霊界へ連れ去ろうとしたのをもう忘れたんですか!?
忘れたんでしょうね!
俺が止めようとする前に母はさっさと精霊王にも魔法文を出してしまう。
その様子を見て俺は先程よりも焦りながら慌てて屋敷の中へと駆け戻ったのだった。
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