熊さんちのすずらん姫

べす

文字の大きさ
上 下
16 / 28

16、【その頃の魔界2】兄視点2

しおりを挟む

レンファが黙っていたので知らなかったが、シュゲルク王子は日頃からレンファにしつこく閨房相手になってくれと懇願していたらしい。
ついに断りきれなくなったレンファは渋々了承し、歓喜のあまり閨で暴走したシュゲルク王子のせいで尻を裂く大怪我を負ったのだ。

慌てて迎えに行った俺達が見たのは、見た事もない程泣き叫ぶ痛々しい弟の姿と、その周りをオロオロと徘徊する憎きクソ王子の姿だった。

俺達はすぐにレンファを回収し、治癒魔法の得意な魔族を連れてきて速やかに傷を回復させレンファの部屋を結界でガッチガチに固めた。

その後シュゲルク王子は懲りずに何度もレンファの部屋へと侵入を試みたようだが、その都度結界に弾かれ父と俺達兄弟により王宮に送り返される。
あまりにしつこいので父が王妃様に訴えると、レンファを可愛がりいずれは息子の誰かの伴侶にと考えていた王妃様は、シュゲルク王子の所業に怒り罰として百年の縛刑に処して下さった。

しかし、その刑もじき終わる。

そうなればまたレンファはシュゲルク王子に襲われ、悪夢の再来となるだろう。

父は己の自己満足のせいでレンファを傷付けてしまった事を心底悔み、陛下に相談する事にした。
その結果、レンファを人間界へと一時的に避難させようということになったのである。

正直今回の事も母にも事前に事情を話していれば、ここまで怒ることはなかったと思うのだ。

何しろレンファが尻を裂かれた際一番怒り狂ったのは母である。
その時は怒りのままに精霊界へと向かい、自身の兄である精霊王に助けを求めると言う暴挙に出た。
そして精霊王は母に連れられ、私室に籠もるレンファと対面した途端一目で恋に落ちた。
それ自体は母も目くじらを立てるような事はしなかった。
むしろ「わたくちのレンちゃんは魅力的だから仕方ないわね!」と喜んでいたくらいである。

しかし運悪くその時精霊王は家臣にせっつかれ自らの伴侶を探していた時期で、これ幸いとそのままレンファに求婚し、助けるどころか母を無視して精霊界に連れ去ろうとしたのだ。

それを見て母は当然憤怒する。
なりふり構わず精霊王に噛み付き、レンファを奪われまいとそれはもう無茶苦茶に暴れまくった。

自分が精霊王を連れてきたくせにと思うかもしれないが、これが精霊族であり母なのである。

母の怒涛の攻撃によりなんとか精霊王からレンファを死守したが、それ以来レンファは精霊王からも絶えず魔法文にて求婚され続けている。

「もーっ!レンちゃんはわたくちがお腹を痛めて産んだ子よ!?どいつもこいつも、レンちゃんをわたくちから引き離すなんて何様なのよ!!レンちゃんの、一番は、わたくちなの!わたくちが一番レンちゃんの事を理解ちてるのよ!こうなったら人間界に乗り込んでレンちゃんを取り戻して来るわ!!」

母はそう叫び怒りのままにしまっていた羽を出現させる。
また面倒な事に…!と俺も流石に青ざめていると、突然レンファの椅子の上にポンッとポチが姿を現した。

「あらっ、ポチ!あなた一人で帰って来れたの?」
「わんっ!」

そのすぐ後に空からふわふわとすずらんの花が一輪降ってくる。
母がそれを慌てて掴み取ると、手のひらの上でみるみるうちに手紙へと変わり、食い入るようにそれに目を通した。

「まぁ…まぁまぁまぁっなんてこと!大変!あの強姦王子が、レンちゃんの前に現れたようよ!」
「は!?何ですって!?」

まだあの王子の縛刑は終わっていない筈…

すると母は人間たちが魔族を召喚した際、縛られたままのシュゲルク王子がレンファの元に現れたのだと手紙を読み上げた。

「ポチは強姦王子の気配を察してレンちゃんを守ろうとしたのね!えらいわ!」
「わんっ!」
「レンちゃんがポチがちゃんと屋敷に帰ったか心配してるみたい。安心させる為にポチの足跡付きで手紙を返しましょうね!」

先程までの剣幕が嘘のようにレンファ宛の手紙にポチの足跡スタンプを押しまくる母に、一先ずホッと息を吐く。

しかし問題はシュゲルク王子にレンファが人間界に居ることが知られてしまったという事だ。
あの王子の事、きっと縛刑が解けた瞬間人間界へと向かうに違いない。

俺は父や他の兄弟にこの事を報告すべく、屋敷に戻ろうと踵を返す。
しかし後ろを向いた所で、母の恐ろしい発言が耳に入り思わず足を止めた。

「そうだわ、お兄様にレンちゃんを見守って頂けるようお願いしましょう。精霊界の方が人間界より近いもの。そうすれば安心だわ!」

エエェェ!?母様!?あなた精霊王がレンファを精霊界へ連れ去ろうとしたのをもう忘れたんですか!?
忘れたんでしょうね!

俺が止めようとする前に母はさっさと精霊王にも魔法文を出してしまう。
その様子を見て俺は先程よりも焦りながら慌てて屋敷の中へと駆け戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!

Kokonuca.
BL
異世界!召喚!ケモ耳!な王道が書きたかったので ある日、はるひは自分の護衛騎士と関係をもってしまう、けれどその護衛騎士ははるひの兄かすがの秘密の恋人で…… 兄と護衛騎士を守りたいはるひは、二人の前から姿を消すことを選択した 完結しましたが、こぼれ話を更新いたします

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

処理中です...