熊さんちのすずらん姫

べす

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9、王子の弟

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朝起きて後ろ髪を引かれる思いでベルと別れファルバン王子の執務室に向かうと、扉の前でアルベールが何とも言えない表情で僕を待っていた。

「…何か色気振り撒いて幸せオーラ全開のとこ悪いけど、今日でアンタと恋人部屋が別々になるらしいわよ。まぁいずれこうなるとは思ってたけど早かったわね。」

ショックを受け返事も返せずアルベールに続いて執務室の中に入ると、清々しい程爽やかなファルバン王子に迎えられる。

「やぁ、レンファ。おはよう。今日からレンファの部屋は宿舎にある私の私室の隣になったからね。仕事が終わったら案内してあげよう。」

思わずアルベールを見ると、苦い顔で沈黙している。
いや、反対してよ!いくらなんでも王子の部屋の隣は無いでしょ!

「僕アルベールさんと同じ部屋が良いです。アルベールさん、居候させて下さい。」
「嫌よ、私他人と生活するの無理だもの。」
「そんな!じゃあ代わってくださいよ!」
「私の部屋はアンタの部屋の隣だから、あんま変わんないわよ。」
「そ、そんなぁ…。」

こうなれば直談判だとファルバン王子に向き直り、拳を握る。

「殿下!僕は見習いです!過分なご配慮は辞退いたします!」
「レンファは本当に欲が無いね。でもこれ決定事項だから。私はそれを告げただけだよ。」

お、横暴だ…!

ガックリ肩を落とす僕にアルベールが仕事をするよう促し、渋々護衛の定位置につく。
打ちひしがれているうちにも時間は過ぎていき、終業時間となるとアルベールと共にファルバン王子に部屋へと案内された。

「荷物は私の侍従に移させたけど、一応確認してくれる?」
「プ、プライベートとは…!」
「あはは、その辺は一旦諦めて?それに、荷物と言っても制服くらいしか無かったし。」

クローゼットを開ければ見覚えのある制服の他に何故かシルクの寝間着やガウンも掛かっている。
それを見てそっとクローゼットを閉めると、ファルバン王子に何故かいきなり壁ドンされ顔を覗きこまれた。

「おかしいよねぇ、幾ら何でも寝間着すら無いなんて。まさか毎晩裸で寝てた訳じゃないよね…?」

暗く淀んだ瞳で問い詰められ、思わず無言で亜空間に手を突っ込む。
そのままいつも着てる寝間着を引っ張り出すと、ファルバン王子は目を丸くした。

「…驚いた。レンファ、亜空間収納が使えるの?私でも初めて見たよ。」
「…支給品以外の私物はこれで管理していますので。」
「それなら納得だね。私の小鹿ちゃんは美しく強いだけでなく魔法の才能もあるのか。これはますます手放せないな。」

思わずハッとしてアルベールを見ると、口パクで“おバカ”と貶される。
僕としてももっと上手く言い訳すればよかったと後悔したが、今更時間を戻す事もできないので諦めるしかなかった。

「さて、部屋も近くなった事だし、今日は私の部屋で食事にしないかい?勿論緊張しないように私と二人きりでね。」

こ、断る事は……あ、ハイ。出来ないんですね。

本当なら今すぐにでもベルの元に飛んで行ってイチャイチャちゅっちゅしたいのに!

有無を言わさずファルバン王子に腰を抱かれ項垂れつつ部屋を出ると、開けてすぐの廊下に知らない男が立っている。
思わず警戒態勢を取ろうとした僕をファルバン王子は更に腰を引き寄せ押し止めると、僕を隠すように背中に回した。

「兄上、兄上、兄上!今この部屋から物凄い魔力が動きましたよね!」
「いや。知らないけど。」
「嘘を仰らないで下さい!兄上の背中に居るその人物が魔力を動かした犯人です!この階は魔法の仕様は禁止ですし、使えない様制限を掛けているにも関わらず行使したんですよ!?厳罰ものです!魔法師団最高指揮官として犯人の身柄の引き渡しを要求します!」

僕を覗き込むように顔を出した男は、腰までの金髪を背中に流し、丸い瓶底メガネを掛けている。
思わずじっと見つめると、男はボッと顔を赤くした。

「す、凄い!甘くて濃厚な魔力が体の内で渦巻いてます!こんな人間初めて見た!いや、人間じゃないのかもしれない!なら、天使?そうだ、天使だ!何かいい匂いするし!」

天使じゃなくてどっちかと言えば悪魔です。
なんて言える訳もなくファルバン王子の背中からアルベールの背中へと避難すると、男はハッとして追い掛けてきた。

「き、君!君は魔法師団に異動すべきです!そんなに豊富な魔力を持つものが騎士団に在籍しているなど宝の持ち腐れ!おまけにアルベールと一緒にいるということはまさか兄上の護衛…!?なんて勿体無い事を…!」

ウワアァアと奇声を上げて髪を掻きむしる男にドン引きしていると、一気に不機嫌になったファルバン王子が僕を男の視界から遮った。

「兄上!」
「だめだよ。レンファは私のものなんだ。例え魔法の才能があったとしてもイグニスには絶対にあげられない。」

何だかよく分からないうちにバチバチと火花が散り始めたが、僕はまた面倒な事になりそうだとうんざりした。
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