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2、すずらん姫は箱入り
しおりを挟むあぁ、父様、母様、兄様達…僕はもう魔界に帰りたい。
人間の国であるエヴァニエ。
僕は現在魔界の公爵である父様の命令で、エヴァニエの武力調査の為騎士団に潜入すべく入団試験を受けていた。
四人兄弟の中で一番末っ子で身体も細く力も弱い僕が何故こんな事をしているかと言えば、僕が一番人間に近いからである。
大熊公爵と言われる屈強な父様と、父様そっくりの三人の兄達はとにかくデカイ。
僕だけ唯一すずらんの精である母様似で、真珠色の肩までの髪と新緑の大きな瞳を持つ無駄に可憐な容姿をしていた。
おまけに儚げな母様同様魔族にしては力も弱い。
今回はその非力さを買われ駆り出された訳だが、既にもう帰りたくなっていた。
もうやだー…人間界って臭過ぎる…。
母様似の僕は、母様にぞっこんな父様と、父様と同じ趣向の兄様達によりそれはもうデロデロに溺愛されて育った箱入り息子である。
今まで母様と二人でのほほんと温室で花を愛でながら暮らしていたのだが、陛下から公爵家に最近メキメキと軍事力が上がっているエヴァニエ国の調査を命じられたのだ。
勿論最初は僕は候補にすら上がっていなかった。
しかし、基本的に魔族は身体が大きくかなり目立つ。
華奢な者も居るが戦闘はからっきしで、そうなると多少なりとも戦う事が出来、戦闘に関して知識のある者をと言うことで大熊公爵の息子である僕に白羽の矢がたった。
しかし、すずらんの精である母様の過ごしていた屋敷と違い、ここは男ばかりがひしめき合う場所である。
屋敷では臭いに敏感な母様に「くちゃいわ、近付かないで。」と言われるのを恐れ、人一倍臭いに気を遣い使用人にも徹底していた父様が居たので感じなかったが、そう言った事に無頓着な男が集まるとこうも悲惨な事になるらしい。
おまけに僕自身は体質のせいで身体から常にすずらんの香りが放出されてしまうので、それを嗅ぎにさっきから汗臭い男どもが僕の周りをウロウロしていた。
あぁ、地獄だ…ここはなんて恐ろしい場所なんだろ…。
おまけにどいつもこいつも弱すぎるんだよねー。
僕ですら勝てるのに、本当に武力調査なんて必要なのかなぁ…。
臭いのせいですっかり表情の抜け落ちた僕の元に、ふと他とは違う良い香りが漂ってくる。
無意識にそちらに視線を向けると、そこには僕より頭一つ分でかい金髪の美丈夫が立っていた。
「やぁ、こんにちは。先程から見ていたが、素晴らしい剣捌きだったね。」
「…ありがとうございます。」
警戒しながらもジッと男を観察する。
センターで分けられた前髪の下にある青い瞳は垂れていて、目尻には黒子がある。
甘ったるい笑みは親しみやすくはあるが、男が着ている団服は騎士団でも上位の者でなければ着れないであろうそれで、胸にはいくつも勲章が付けられていた。
それに、横に侍っている男…きっとこの騎士団の団長か副団長だろう。
今は何故か金髪の男を険しい顔で睨んでいるが、後ろに控えている時点で金髪の方が身分が高い筈だ。
僕の視線が金髪男からずれたからだろうか、金髪男はぷっと口を尖らせると、僕の頬に手を添え自分の方に顔を向け直させようとする。
思わずその手を払いそうになるのをグッと堪えると、金髪男は蕩けるような満面の笑みを浮かべた。
「あぁ、なんて滑らかな肌だろう。あれだけの剣の技術があるのだ、鍛練もしているだろうに日焼けもしていないとは。それに、この美し過ぎる顔に小柄な身体…何もかも私好みだ。」
鍛練とか滅多にしないし、日焼けしてないのは引きこもりだからなんだけどなぁー…と思いながら黙って時が過ぎるのを待っていると、金髪男は鼻息荒く何度も頬や首筋を撫でてからやっと手を離す。
「うん、やはり今年のお気に入りは君しかいないな。今夜宿舎に使いの者を送るから、私の部屋に来るように。」
そう言って踵を返すと、金髪男はスタスタと去っていった。
え、何だったの一体…。
それを横に居た男が血の気の引いた顔で追い駆け、僕はしばらく周りからの嫉妬と羨望の眼差しを混乱の中で受け止めながら、案内係の指示に従い他の合格者と共に宿舎へと移動した。
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