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1、見られてたらしい。
しおりを挟む人間界と魔界で頻繁に小さな争いが起きていた時代。
大国エヴァニエの第二王子、ファルバン・エヴァニエ(23)は今年もソワソワと自らも所属している騎士団の入団試験を見守っていた。
「うーん、今年はなかなか豊作だね!可愛い小鹿ちゃん達が沢山集まっているじゃないか!」
ファルバンの視線の先にあるのは行儀良く整列し、模擬戦の順番を待つ入団希望者の列。
そこには青年になるかならないかの年齢の少年達が、緊張した面持ちで自分の順番を待っていた。
「あの茶色いクリクリしたおめめの小鹿ちゃんなんか可愛いね。あ、でもその少し後ろの金髪の小鹿ちゃんもいいなぁ。今年はどの子をお気に入りにしようかな~。」
それを横に立っていた王立騎士団の団長であるガーガリアムが嫌そうに顔をしかめる。
「まだ入団出来ると決まった訳では無いですよ。それに、殿下にはルジーノが居るではありませんか。」
「ルジーノはこの一年ですっかり熊の様になってしまったからね、もうお気に入りはとっくに卒業だよ。全く、入った時はあんなに可愛いかったのに、どうして一年足らずで皆屈強な体つきになってしまうのやら。」
「そりゃ騎士ですから、鍛練すれば自然と身体も大きくなるに決まってるでしょう…。」
ガーガリアムは呆れたように呟くと、この困った王子に内心頭を抱えていた。
ファルバンは才色兼備で、剣の腕も立つ素晴らしい王子である。
しかし困った事に美しい少年を愛でる癖があり、毎年何人かをお気に入りと称して夜な夜な部屋に呼び出していた。
本人曰く
「いざ事を起こそうと相手の下着をずり下ろすと、すっかり萎えてやる気が失せる。」
との事で実際はまだ一度もお気に入りに手を出した事は無いらしいが、事実は本人と近しい者でなければ知る由もない。
お気に入り達もその点についてだけは固く口を閉ざすので、今ではお気に入りはファルバンの期間限定の恋人として、すっかり騎士団内に周知されていた。
「別に恋人にしたつもりは無いんだけどね、私は気に入った小鹿ちゃんをただ愛でたいだけなんだ。」
そう言いながらまた少年達の物色を再開したファルバンだったが、そこである一点に視線が固定される。
「?どうしたんですか?何か不振な者でも…」
「ガーガリアム、見てみろ。」
顎で促されたガーガリアムがファルバンの視線の先を目で追うと、異彩を放つ程美しい少年が鮮やかな剣捌きで模擬戦を行っている最中だった。
「…素晴らしい!あの小さな身体で試験官である騎士を追い詰めている…いや、むしろ倒さぬよう手加減している様にも見えますな。あの者は一体…」
「素性など調べればすぐ分かるだろう。それより、今回のお気に入りはあの子で決まりだ。あの子を見た瞬間、他の小鹿ちゃん達は目に入らなくなってしまったよ。」
熱を孕んだ瞳で食い入るように少年を見詰めるファルバンに、ガーガリアムはぎょっとする。
今までも特に気に入ったお気に入りに対して熱心に可愛がる様子は何度か見た事があったが、今回はいつもと明らかに様子が異なる。
本人の言う通り既に他の少年達には目もくれず、あの美しい少年だけを焦がれるように一心に見つめ続けていた。
これは、…不味いのでは?
今までファルバンの部屋にお気に入りを呼ぶ際は、何やかんや理由を付け従者が同席していたのだ。
いざというときはその従者が証言することで元お気に入り達が騒いでも事なきを得ている。
しかし今回は胸騒ぎがした。
殿下はあの少年に必ず手を出す!
これは、気を引き締めなければいつ事を起こすか分からないぞ…
それに万が一あの少年が何処かの有力貴族だった場合、大変な騒ぎに…!
ガーガリアムが早急に少年の身元を確認せねばと今後の事について苦心していると、ファルバンがすっと立ち上がった。
何事かと思えば、スタスタと模擬戦の行われている会場へと歩いていく。
「で、殿下!どちらへ!?」
「見ているだけなど我慢できん。今すぐあの子の所へ行き唾をつけてくる。でないと誰かに先を越されそうだからな。」
「は!?」
そう言って更に足を早めるファルバンに、ガーガリアムは慌てて後を追ったのだった。
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