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始まりのお話
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別に、今まで気にしてなかったワケじゃない。ただ、全然絡む機会がなかっただけ。
「ねー、由香聞いてる~?」
「そっちは窓なんだけど?」
「聞いてる聞いてる~」
ウソ。
アタシの目線の先にあるのは2人の友達の姿じゃなく、窓に反射して見える女の子の姿。
「……あいっかわらず」
机に座って、ひたすら読書に没頭してるあの子。
水原可奈。
アタシとは真逆の世界で生きてるような地味子。黒縁の眼鏡にサイドテール、化粧っ気なんて皆無。
なんでそんな子を気にしてるのか、それは昨日まで遡らなきゃなんない。
⚪️
「マジでさいあく……」
端的に言うと、昨日のアタシは荒れてた。
朝からお母さんと喧嘩して、お父さんに小言を言われながら登校。授業で寝てたら怒られて、お昼はお弁当を家に忘れて抜き。購買のパンも学食もお弁当も売り切れ。
羅列したら小さな事だけど、その日はそれが表に顕著にでてた。
「はぁ……。財布忘れるのは洒落になんないって」
おまけに財布を学校に忘れて下校。おかげで、カラオケに行ってる友達に遅れて合流する事になった。ちなみにカラオケにも行けてない。これもさいあく。
でも、ひとつだけ。ひとつだけプラスな出来事があった。それが──
「……あれ?なんでまだいんの?」
「──……っ!」
この、水原との出来事だ。
「あ~……、他の教室閉まってるよ。地味……水原」
いつも裏でアタシはそう呼んでた。別にイジメとかじゃなく、思ってた事だから仕方ないと思う。
「ひゃ……、はい……っ」
声が裏返ってたのは多分ビビってたんだと思う。同じクラスになっても話した事なかったし、水原は見るからに気弱そうだし。
「っと、それより財布だわ」
そこで本来の目的を思い出すアタシ。そうして自分の席を探そうとして気づいた。
「……そこ、アタシの席なんだけど」
水原が座ってたのはアタシの席。アタシの席に、放課後の教室で1人本を読んでる水原。
「なんでアタシの席に座ってんの?」
「あ……ぅ、えっ……と」
そんな風にビビるから、余計に疑問が大きくなった。だって謎でしょ。普通接点ない人の席に座る?
「水原の席って、もっと中廊下よりのとこじゃん」
「そ、ぅ……なんで……すけど……」
見るからに動揺してるから、本当に分かんなくなる。
アタシとその友達。自分で言うのもなんだけど、結構クラスの中心的存在だと思う。それと引き換え、水原はホント地味。誰も用事がある時以外話しかけないくらいには地味子。
同じクラスっていう接点。それだけしか、アタシ達の間には接点がない。
「……ああ」
パッと思いついたのは恨み。どこかで何かやらかした?って記憶を探る。女子校だから、どこかしらで女の水面下バトルは勃発してる。その一部なのかと思うと、ちょっとムカついた。
「机になにかするなら、直接アタシに言ったら?」
語気が強まるアタシ。そりゃそうだ。勘違いもあって、この時はかなりイラついてたし。
「……」
完全に黙る水原。結構キツく言ったから、怖いとも思うよ。
「まぁ、別にいいけど。アタシの友達にはちょっかい出さないでね……っと」
水原の前を遮って、机の中から財布を取り出す。財布は無事。中身も抜かれてない。
「それじゃ、また明日ね地味子」
財布を回収すると、踵を返して歩き出す。言う事は言ったし、まだ何かするならそれなりの対応をしようと思ってた。
だけど、そんな考えすら吹っ飛ぶ事が起こった。
「す……き、です……っ!」
「……は?」
結構おっきな声だったと思う。その声の方を振り返ると、そこには水原しかいなかった。
「えっ、今の声地味子?」
聞き返すと、顔を真っ赤にして頷く水原。ビックリした。その声の大きさと、言った本人のギャップに一番ビックリした。
「てゆーか……、え?好き?」
これまた頷く水原。耳まで真っ赤で、俯きながら震えてる。
あんな状況初めてだったから、アタシの思考も混乱しちゃってたと思う。
「それは……えっ?アタシの席がってこと?」
これには首を横に振る水原。そりゃそうだ。ここで席が好きってなに?
「……もしかして、告白?」
「…………はい」
長いタメの後の返事は、めちゃくちゃ震えた声音でだった。
もう一回言うけど、ウチは女子校だ。それもあって、女の子同士で付き合ってる人も稀に居る。アタシの友達もそうだし。
でも、自分がそういう目で見られてるとはまったく思ってなかった。
「えぇ……」
友達の事もあって、偏見なんて無いと思ってた。でもいざ当事者になると、何となくモヤモヤしたものが渦巻いた。
「わ、わ……ったし……」
そこで口を開いたのは意外にも水原だった。
「ずっと由香ちゃ……、浅倉さんの事が好きで……」
ポロポロと水原の言葉が漏れ出る。そして水原が普段どういう風にアタシを呼んでたのかもわかった。
「好き……って。アタシらほとんど話した事なくない?」
当然の疑問だと思う。普段の授業ですら違うグループなのに、どうやって好きになるかが分からない。
「……やっぱり」
「?」
「……一回、浅倉さんに助けられた事があるの」
これまた突拍子もない事を言い出した。助けた?アタシが?
「高校に上がってすぐだったんだけどね……?私、男の人にナンパされて……。その時に浅倉さんが……」
「高校……すぐ……?」
ウチの高校には美人が多い、なんて噂が周囲の高校には広まってるみたいだ。だから、それ目当てでナンパしに来る男も一定数いる。
「ああ……、そんな事もあった……かも」
だからそういう場面に出くわすと、なるべく助けるようにしてる。嫌がってたら尚更。アタシの友達は満更でもなかったけど。
「えへへ、凄くカッコよくて。綺麗で、それで──」
『大丈夫?ふふっ、可愛いから狙われるだろうけど、またアタシが守ったげる』
「それで……」
そこまで話して顔を真っ赤に染める水原。
その話を聞いて、こっちも恥ずかしくなった。漫画の台詞みたいでかなり痛くないアタシ?
「えっと、理由は分かったけど……」
「それで、この学校の人だって分かってるから……。一年は違うクラスだったけど、2年になって初めて同じクラスになれたから嬉しくって……!」
「ちょ、ちょっと待って!」
165cmあるアタシよりも10cmくらい小さい体で、ずいずいとアタシに向かってくる水原。もう間の距離がほぼ無くなってた気がする。
「あ、ご、ごめんなさい……」
窘めると途端にシュンと落ち込む。何か悪い事したみたいで、けっこー気まずい。
「いい、んだけど……。えっと……」
さて、ここで困った事が1つ。アタシは水原に対して、恋愛感情なんて抱いてない。となれば、振るのが礼儀?なんだけど……。
「……でもね?その時から、浅倉さんは私のヒーローなんだぁ」
赤い顔でニコニコする水原を、その想いをバッサリ切っていいのかどうか。
優柔不断だってよく言われる。周りに流されやすいとも、自分でも思う。
「……私、ちんちくりんで勉強しか取り柄ないけど。でも、由香ちゃんを好きな気持ちは誰にも……!」
この時アタシが思った事は、意外と水原の顔が整ってるって事。化粧っ気なしでもこの顔は、素で美人だって事なのか。
「……?由香ちゃん?」
水原の声でハッと我に戻る。
告白されてる途中で顔を綺麗だななんて、話を聞かないにも程がない?
「ご、ごめん、なんでもない。……それじゃ水原、一つ聞いていい?」
「……っ!うん!」
自分に興味を持ってくれるのが嬉しいのか、パッと笑顔が咲いた。
「そんなにす、好きなら、なんでアタシに話しかけに来なかったの?」
今は高校二年の五月。今まで話しかける機会なんていくらでもあったはずなのに。
「……ごめんなさい」
これまたシュンと落ち込む水原。どうしてこの質問で落ち込むの?
「……私、地味だから。由香ちゃんの周り、すっごく明るい人がいっぱいで……」
理由は至極明快だった。ただ単に、水原は自分に自信がなかったんだ。
「私が話しかけたら、ダメかな、なんて……」
真逆の存在と言えるかもなアタシ達。確かに周りから見たら変だろうけど……。
「周りなんか気にしちゃダメでしょ」
それで好きな人と話せないなんて、アタシなら嫌すぎる。
「そういう事なら……ね。分かった」
そこで確信した。水原は自分に自信が無いから、自信の塊みたいなアタシを好きになったワケだ。
だったら、水原に自信を持たせられるくらいアタシがフォローしてあげればいいんだ。そうすれば、アタシを気にかける事もなくなるでしょ!
「ねぇ水原?」
「は、はいっ……!」
「正直、付き合うとかは分かんない。だってアタシ、水原の事よく知らないし」
「は、ぃ……」
眼鏡越しに分かるくらいの涙目。今にも泣きそうなその顔を見ながら一つ提案。
「だからさ、友達から始めよ?アタシ、ちゃんと水原の事知りたいから」
「……ほ、ほんとっ?」
泣きそうな顔から一転、満開の笑顔が咲いた。ほんと分かりやすいな~。
「ほんと。だから水原、これからよろしくね?」
「うんっ……!」
⚪️
「これで授業を終わります。当番の人は後でプリントを──」
とまぁ、コレが昨日起こった出来事。帰り道で水原と連絡先とか交換してると、カラオケもすっかり忘れて家まで帰ってた。
ちなみにカラオケ行ってる組が電話かけてきてくれてたけど、電話の通知だけオフってたっぽい。家に帰って謝り倒したっけ。
「ねぇ由香、まだボーっとしてるの?」
「さっきから一ミリも動いてないじゃん……」
「えっ……。うっそ、授業終わってるじゃん!」
マジか!一時間くらい体勢変わってないって事!?
「……アタシ、筋肉凄くない?」
「ポジティブっ娘すぎ!」
「変な所天然だよねゆかゆか」
天然じゃない、と思う。たぶん、そのはず。
「それじゃ、帰ろっか!由香カラオケ行く?」
「アタシは……」
横目でチラッと水原を見ると、分かりやすいくらいに聞き耳を立ててた。本そんなに近くだと見えないじゃん。
「ごめん。今日ちょっと用事あるんだ」
「ゆかゆかがー?もしかして彼氏?」
「あははっ、そんなんじゃないって!」
ほんとに違う。ぶっちゃけ、彼氏もあんま興味ないし。だからって彼女を作るのもなんだか……。
「ちぇー、それじゃ私達は先に行くからね!来たくなったら電話しなよ!」
「りょーかいっ。愛してるよ舞美」
「美女に言われたー!私も愛してるぜ!」
なんて軽口を叩いて去っていく2人。そして帰りの挨拶をクラスの子達としていって、教室に残ったのは……。
「ほら水原、もう誰もいないよ」
ガタンっと水原ごと机が揺れる。昨日から思ってたけど、喜怒哀楽がハッキリ出るなこの子。
「ご、ごめんなさい……」
「はいはい、謝らない謝らない。ほら、遊びに行くんでしょ?」
「ええ!?そ、そうなんですか……?」
自己肯定感を上げていこうの会。まずは、色んなとこに連れて行くとこから。コレが正解かは全然分かんないけど!
「ぼさっとしてたら置いてくよー」
「は、はいっ!」
教室を出ると、すぐ後ろからパタパタと足音がしてやがて隣から聞こえるようになった。
「ていうか水原さ、なんで敬語なの?昨日はタメ語できてたじゃん」
「え、ええっと、昨日はちょっと特別といいますか……っ!」
告白された事から始まった奇妙な友達関係。きっと、間違いだと言う人も居るかもしれない。
「同級生でしょ?タメ口タメ口~」
「わ、かった……!頑張るね由香ちゃん……っ!」
でも大丈夫。間違いにはさせない。その為にアタシが居るんだから。
「でも……、ふふっ。由香ちゃんって……」
「えっ!?ダ、ダメかなぁ……!?」
episode1 始まりのお話
おわり
「ねー、由香聞いてる~?」
「そっちは窓なんだけど?」
「聞いてる聞いてる~」
ウソ。
アタシの目線の先にあるのは2人の友達の姿じゃなく、窓に反射して見える女の子の姿。
「……あいっかわらず」
机に座って、ひたすら読書に没頭してるあの子。
水原可奈。
アタシとは真逆の世界で生きてるような地味子。黒縁の眼鏡にサイドテール、化粧っ気なんて皆無。
なんでそんな子を気にしてるのか、それは昨日まで遡らなきゃなんない。
⚪️
「マジでさいあく……」
端的に言うと、昨日のアタシは荒れてた。
朝からお母さんと喧嘩して、お父さんに小言を言われながら登校。授業で寝てたら怒られて、お昼はお弁当を家に忘れて抜き。購買のパンも学食もお弁当も売り切れ。
羅列したら小さな事だけど、その日はそれが表に顕著にでてた。
「はぁ……。財布忘れるのは洒落になんないって」
おまけに財布を学校に忘れて下校。おかげで、カラオケに行ってる友達に遅れて合流する事になった。ちなみにカラオケにも行けてない。これもさいあく。
でも、ひとつだけ。ひとつだけプラスな出来事があった。それが──
「……あれ?なんでまだいんの?」
「──……っ!」
この、水原との出来事だ。
「あ~……、他の教室閉まってるよ。地味……水原」
いつも裏でアタシはそう呼んでた。別にイジメとかじゃなく、思ってた事だから仕方ないと思う。
「ひゃ……、はい……っ」
声が裏返ってたのは多分ビビってたんだと思う。同じクラスになっても話した事なかったし、水原は見るからに気弱そうだし。
「っと、それより財布だわ」
そこで本来の目的を思い出すアタシ。そうして自分の席を探そうとして気づいた。
「……そこ、アタシの席なんだけど」
水原が座ってたのはアタシの席。アタシの席に、放課後の教室で1人本を読んでる水原。
「なんでアタシの席に座ってんの?」
「あ……ぅ、えっ……と」
そんな風にビビるから、余計に疑問が大きくなった。だって謎でしょ。普通接点ない人の席に座る?
「水原の席って、もっと中廊下よりのとこじゃん」
「そ、ぅ……なんで……すけど……」
見るからに動揺してるから、本当に分かんなくなる。
アタシとその友達。自分で言うのもなんだけど、結構クラスの中心的存在だと思う。それと引き換え、水原はホント地味。誰も用事がある時以外話しかけないくらいには地味子。
同じクラスっていう接点。それだけしか、アタシ達の間には接点がない。
「……ああ」
パッと思いついたのは恨み。どこかで何かやらかした?って記憶を探る。女子校だから、どこかしらで女の水面下バトルは勃発してる。その一部なのかと思うと、ちょっとムカついた。
「机になにかするなら、直接アタシに言ったら?」
語気が強まるアタシ。そりゃそうだ。勘違いもあって、この時はかなりイラついてたし。
「……」
完全に黙る水原。結構キツく言ったから、怖いとも思うよ。
「まぁ、別にいいけど。アタシの友達にはちょっかい出さないでね……っと」
水原の前を遮って、机の中から財布を取り出す。財布は無事。中身も抜かれてない。
「それじゃ、また明日ね地味子」
財布を回収すると、踵を返して歩き出す。言う事は言ったし、まだ何かするならそれなりの対応をしようと思ってた。
だけど、そんな考えすら吹っ飛ぶ事が起こった。
「す……き、です……っ!」
「……は?」
結構おっきな声だったと思う。その声の方を振り返ると、そこには水原しかいなかった。
「えっ、今の声地味子?」
聞き返すと、顔を真っ赤にして頷く水原。ビックリした。その声の大きさと、言った本人のギャップに一番ビックリした。
「てゆーか……、え?好き?」
これまた頷く水原。耳まで真っ赤で、俯きながら震えてる。
あんな状況初めてだったから、アタシの思考も混乱しちゃってたと思う。
「それは……えっ?アタシの席がってこと?」
これには首を横に振る水原。そりゃそうだ。ここで席が好きってなに?
「……もしかして、告白?」
「…………はい」
長いタメの後の返事は、めちゃくちゃ震えた声音でだった。
もう一回言うけど、ウチは女子校だ。それもあって、女の子同士で付き合ってる人も稀に居る。アタシの友達もそうだし。
でも、自分がそういう目で見られてるとはまったく思ってなかった。
「えぇ……」
友達の事もあって、偏見なんて無いと思ってた。でもいざ当事者になると、何となくモヤモヤしたものが渦巻いた。
「わ、わ……ったし……」
そこで口を開いたのは意外にも水原だった。
「ずっと由香ちゃ……、浅倉さんの事が好きで……」
ポロポロと水原の言葉が漏れ出る。そして水原が普段どういう風にアタシを呼んでたのかもわかった。
「好き……って。アタシらほとんど話した事なくない?」
当然の疑問だと思う。普段の授業ですら違うグループなのに、どうやって好きになるかが分からない。
「……やっぱり」
「?」
「……一回、浅倉さんに助けられた事があるの」
これまた突拍子もない事を言い出した。助けた?アタシが?
「高校に上がってすぐだったんだけどね……?私、男の人にナンパされて……。その時に浅倉さんが……」
「高校……すぐ……?」
ウチの高校には美人が多い、なんて噂が周囲の高校には広まってるみたいだ。だから、それ目当てでナンパしに来る男も一定数いる。
「ああ……、そんな事もあった……かも」
だからそういう場面に出くわすと、なるべく助けるようにしてる。嫌がってたら尚更。アタシの友達は満更でもなかったけど。
「えへへ、凄くカッコよくて。綺麗で、それで──」
『大丈夫?ふふっ、可愛いから狙われるだろうけど、またアタシが守ったげる』
「それで……」
そこまで話して顔を真っ赤に染める水原。
その話を聞いて、こっちも恥ずかしくなった。漫画の台詞みたいでかなり痛くないアタシ?
「えっと、理由は分かったけど……」
「それで、この学校の人だって分かってるから……。一年は違うクラスだったけど、2年になって初めて同じクラスになれたから嬉しくって……!」
「ちょ、ちょっと待って!」
165cmあるアタシよりも10cmくらい小さい体で、ずいずいとアタシに向かってくる水原。もう間の距離がほぼ無くなってた気がする。
「あ、ご、ごめんなさい……」
窘めると途端にシュンと落ち込む。何か悪い事したみたいで、けっこー気まずい。
「いい、んだけど……。えっと……」
さて、ここで困った事が1つ。アタシは水原に対して、恋愛感情なんて抱いてない。となれば、振るのが礼儀?なんだけど……。
「……でもね?その時から、浅倉さんは私のヒーローなんだぁ」
赤い顔でニコニコする水原を、その想いをバッサリ切っていいのかどうか。
優柔不断だってよく言われる。周りに流されやすいとも、自分でも思う。
「……私、ちんちくりんで勉強しか取り柄ないけど。でも、由香ちゃんを好きな気持ちは誰にも……!」
この時アタシが思った事は、意外と水原の顔が整ってるって事。化粧っ気なしでもこの顔は、素で美人だって事なのか。
「……?由香ちゃん?」
水原の声でハッと我に戻る。
告白されてる途中で顔を綺麗だななんて、話を聞かないにも程がない?
「ご、ごめん、なんでもない。……それじゃ水原、一つ聞いていい?」
「……っ!うん!」
自分に興味を持ってくれるのが嬉しいのか、パッと笑顔が咲いた。
「そんなにす、好きなら、なんでアタシに話しかけに来なかったの?」
今は高校二年の五月。今まで話しかける機会なんていくらでもあったはずなのに。
「……ごめんなさい」
これまたシュンと落ち込む水原。どうしてこの質問で落ち込むの?
「……私、地味だから。由香ちゃんの周り、すっごく明るい人がいっぱいで……」
理由は至極明快だった。ただ単に、水原は自分に自信がなかったんだ。
「私が話しかけたら、ダメかな、なんて……」
真逆の存在と言えるかもなアタシ達。確かに周りから見たら変だろうけど……。
「周りなんか気にしちゃダメでしょ」
それで好きな人と話せないなんて、アタシなら嫌すぎる。
「そういう事なら……ね。分かった」
そこで確信した。水原は自分に自信が無いから、自信の塊みたいなアタシを好きになったワケだ。
だったら、水原に自信を持たせられるくらいアタシがフォローしてあげればいいんだ。そうすれば、アタシを気にかける事もなくなるでしょ!
「ねぇ水原?」
「は、はいっ……!」
「正直、付き合うとかは分かんない。だってアタシ、水原の事よく知らないし」
「は、ぃ……」
眼鏡越しに分かるくらいの涙目。今にも泣きそうなその顔を見ながら一つ提案。
「だからさ、友達から始めよ?アタシ、ちゃんと水原の事知りたいから」
「……ほ、ほんとっ?」
泣きそうな顔から一転、満開の笑顔が咲いた。ほんと分かりやすいな~。
「ほんと。だから水原、これからよろしくね?」
「うんっ……!」
⚪️
「これで授業を終わります。当番の人は後でプリントを──」
とまぁ、コレが昨日起こった出来事。帰り道で水原と連絡先とか交換してると、カラオケもすっかり忘れて家まで帰ってた。
ちなみにカラオケ行ってる組が電話かけてきてくれてたけど、電話の通知だけオフってたっぽい。家に帰って謝り倒したっけ。
「ねぇ由香、まだボーっとしてるの?」
「さっきから一ミリも動いてないじゃん……」
「えっ……。うっそ、授業終わってるじゃん!」
マジか!一時間くらい体勢変わってないって事!?
「……アタシ、筋肉凄くない?」
「ポジティブっ娘すぎ!」
「変な所天然だよねゆかゆか」
天然じゃない、と思う。たぶん、そのはず。
「それじゃ、帰ろっか!由香カラオケ行く?」
「アタシは……」
横目でチラッと水原を見ると、分かりやすいくらいに聞き耳を立ててた。本そんなに近くだと見えないじゃん。
「ごめん。今日ちょっと用事あるんだ」
「ゆかゆかがー?もしかして彼氏?」
「あははっ、そんなんじゃないって!」
ほんとに違う。ぶっちゃけ、彼氏もあんま興味ないし。だからって彼女を作るのもなんだか……。
「ちぇー、それじゃ私達は先に行くからね!来たくなったら電話しなよ!」
「りょーかいっ。愛してるよ舞美」
「美女に言われたー!私も愛してるぜ!」
なんて軽口を叩いて去っていく2人。そして帰りの挨拶をクラスの子達としていって、教室に残ったのは……。
「ほら水原、もう誰もいないよ」
ガタンっと水原ごと机が揺れる。昨日から思ってたけど、喜怒哀楽がハッキリ出るなこの子。
「ご、ごめんなさい……」
「はいはい、謝らない謝らない。ほら、遊びに行くんでしょ?」
「ええ!?そ、そうなんですか……?」
自己肯定感を上げていこうの会。まずは、色んなとこに連れて行くとこから。コレが正解かは全然分かんないけど!
「ぼさっとしてたら置いてくよー」
「は、はいっ!」
教室を出ると、すぐ後ろからパタパタと足音がしてやがて隣から聞こえるようになった。
「ていうか水原さ、なんで敬語なの?昨日はタメ語できてたじゃん」
「え、ええっと、昨日はちょっと特別といいますか……っ!」
告白された事から始まった奇妙な友達関係。きっと、間違いだと言う人も居るかもしれない。
「同級生でしょ?タメ口タメ口~」
「わ、かった……!頑張るね由香ちゃん……っ!」
でも大丈夫。間違いにはさせない。その為にアタシが居るんだから。
「でも……、ふふっ。由香ちゃんって……」
「えっ!?ダ、ダメかなぁ……!?」
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