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第十話 神との対峙
しおりを挟む邂逅
ヨコと話した夜私は夢を見た、自らを神だと名乗るものの夢を。
光に包まれていてそこにいるものの形を見る事は私には出来なかった。
***
お前に会うのは初めてだな。
私はお前達人間が大いなる神と呼んでいるものだ。
今のお前には完全には理解し見ることが出来ないだろう。
それは私がお前達と住んでいる次元とは違う場所に存在しているからだ。
お前達が絵画の中を理解できない様にな
私はお前の心を読む事が出来る、私の一部がお前の心臓に喰い込んでいるのだから
怒りと憎しみの感情が渦巻いているのだろう?それは何故私を崇め奉るのかという理不尽について
少し昔話をしよう。
我々は遥か昔にこの星に降り立った。私は孤独ではなく我々の内の一つだったのだ。
此処に来た理由は自分達の星ではもう枯渇してしまったある鉱物を星に持ち帰る為、その為の働き手として土塊から人間を作った。
お前達が魂や心と呼んでいる不確かな物は私達の一部だ。
実体があると言えばある、そして無いと言えば無い。
風に散る野焼きの煙の様なそれだけ不安定なもの、だから人間はよく壊れた。分け与えたものは定着せずにすぐに動かなくなった。
そして私達は考えた、お前達の中の一部の肉体に強い魂を入れそれを信仰の対象とする様にしようと。
そういう風に体系化すると強い魂に引っ張られる様に人間が壊れる事は少なくなった。
後は器として泥の他にとうもろこしの粉を混ぜたりして調整をした。
なかなか上手く出来ているだろう?
それが継手でありニエと呼ばれる存在なのだ。
そうして私達は鉱物を持ち帰る事に成功し我々の大部分は星に帰った。
今残っているのはその残滓だけで人間の営みは続いている。
今、人間が生活するその全ては遥か昔から続くただの名残りなのだ。
「リンネが死んだのも私が継手になったのもジンが腕を失ったのも特に意味が無かったと言うのか?」
…そうだ、だが意思を持ったと自ら思い込んでいる人間達の戯れの為に理由も作ってやった。
クリーチを作ったのも我々だ。
あの中の特別な個体、その生存する本能として、大きな魂を狙う様に創造した。
素直な人間達は今も種族を守る為という信仰を捨てずコロニーでクリーチを狩り続けているだろう?
愚かな事に私を信じない者達を追放し、しまいには人間同士でも争い出す始末、
なんと救いようのない哀れでみじめな生き物だ。
「ふざけるな!死なないで済んだ人間が、戦わずに済んだ人間が今までにどれだけ散っていったと思っているんだ!」
お前は勘違いをしている。
人間は私達が造ったのだぞ?
我々が帰る時に根絶やしにしても良かったものを生かしてやっているだけでもありがたいと思って欲しいものだ。
ただ私も長く孤独に存在し過ぎた。
戯れにも飽きた、お前達のお守りにもな。
救ってやりたいとも思っている。
ただお前を殺そうとする人間をお前が殺そうとする、という契約は呪縛のようにお前を縛り続ける。
それを退けられる程の人間がいればこの連鎖を断ち切る事が出来るかもしれんな。
「何故そんな事を私に話す?」
言ったではないか、もう戯れに飽きずっと人間を見て来た私は少しばかりお前達を哀れんでいるのだ。
自ら考える事も出来ず見えてもいないものに縋り続ける弱い者達に。
私の存在が消えるという事は私は全てに還れるという事。義務と惰性だけでここまで来たがそろそろ私も楽になりたいのだ。
もうお前に会う事もないだろうがお前がこれからどうするか決めろ。
終わらせても終わらせなくても我々の存在からすれば何の影響はないだろうがな。
古い護り手達は継ぐ事を至上命題としている。
お前が死んだとすれば心臓を開き次に継ぐ事を人間の喜びだと信じているからな。
「…ヨコは自分の親友を殺してもなお継ぐ事を自らの価値だと思っている。そうではないとリンネにとどめを刺した事を自分で許せなくなるだろうな。」
そういう事だ。では私は消えるとしよう。
さらばだ若き継手よ。
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