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第24話
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「よし、揃ったな! それでは全隊前進、目指すはゴルジョケアの都『ティペリス』だ!」
リーネオさんの号令でイコォーマの兵隊さんたちが一斉に動き出した。あのゴルジョケア攻めの軍議から十日、私たちはソウルジェキとゴルジョケアの国境に居る。国境の検問には人影が見えない。戦う気がないのかな?
「あ、貴方、まだプロージアの軍隊が着いてないんですけど、もう進撃を始めるんですか?」
「うむ。プロージアの軍勢は二日ほど遅れている。このまま愚図愚図していると間に合わなくなるからな。」
じゃあ、なんで「揃ったな!」って言ったんだろ。マントゥーリ君の上から私は振り返った。リーネオさんの太い二の腕の下から後ろの隊列を見ると兵隊さんより荷物を運ぶ隊商みたいな人たちの方が多い。その間を何か大きな青い生き物が近付いて来るよ。
「お~い、リーネオ兄! 来たよ~、お待たせ!」
「おお、シューナ。待っていたぞ、今回もよろしく頼む!」
見た感じ、中学生くらいの女の子だ。背は小っちゃい。140cm無いんじゃないかな? でもビックリなのが彼女が乗っている動物だよ。背中に翼が生えた大きな青い竜なんだもん。
地面すれすれを飛んでる竜の足元を見ると、白い虎や金色の狼、銀色の狐が走って付いて来てる。竜の上に跨ってる女の子の周りには黒い亀や様々な色の小さな動物が居るね。そして女の子の頭の上辺りを紅い綺麗な鳥が飛んでる。孔雀かな?
「あっ! 今、アンタ、私のこと『小っちゃいな』って思ったでしょ! 馬鹿にしてたらヒドいんだからね!」
「えっ? そんな、馬鹿になんかしてないよ、ホントだよ!」
ゴメン、「小っちゃいな」とは思っちゃった。でも悪い意味じゃなくて「可愛い」って意味でだよ。馬鹿にはしてないから許してね。彼女は私の事をジロジロと値踏みするみたいに見てる。
「ふぅ~ん、アンタが今度、イコォーマの【戦巫女】になったリンね? こんなバターもジャムも塗ってないパンみたいな娘が好みだったんだ。意外だね、リーネオ兄!」
「うるさい、シューナ。そんなことより前に出て、打合せ通りやってこい!」
リーネオさんが煙たそうに前を指差したら、シューナちゃんはぺろっと下を出して青い竜の首を叩きながら何か言ってる。竜も前を向きながら首を縦に振った。言葉が通じるんだ。
「それじゃ行くわ! ま、パンの質は上等みたいね。しっかり頼むわよ、【戦巫女】さん!」
会釈する私の目を見たシューナちゃんは片目を瞑って、そう言うと隊列の一番前に出て行った。
「ゴオアァァーッ!」
青い竜が凄い大きな雄叫びを上げると国境の検問の陰や、地面に掘った穴からゴルジョケアの兵隊たちが一杯出て来て逃げ出した。皆、耳を抑えて一目散に逃げて行くよ。とても立ち向かってくる勇気はないみたい。
「あれは【戦慄の咆哮】と言うスキルだ。どうやら向こうの【戦巫女】は出て来ていないようだ。居れば加護のお陰であそこまで効果は無いからな。」
なんとか正気を取り戻したゴルジョケアの弓兵が青い竜に向かって矢を射るけど、全然当たらない。竜が高い所に居るし、私の【戦巫女】の加護があるからだ。
「あの娘はイコォーマの南隣の国、『ヴィエレッサ』の【霊獣使い】だ。まあ、俺の親戚でもあるがな。名はさっき聞いたな?」
私は黙って頷いた。戦いの行方を見るともうゴルジョケアの兵隊たちは戦う気力が無いみたいだ。何か変だね。凄く疲れてるみたいな・・・。皆、武器を捨てて、どんどん降参していくよ。そして、とうとう指揮官みたいな人が白旗を上げた。
「やはりか・・・。この数日、ゴルジョケアの兵は碌に食事を採っていないらしい。全ての食料はペルクーリの取り巻きの騎士たちが運び出して行ったそうだ。ここの兵達には食料は戦って敵から奪えと命令してな・・・。」
リーネオさんが眉間に皺を寄せながら教えてくれた。本当に酷い。国境の検問に居たゴルジョケアの兵隊たちを縛る前に、イコォーマの兵隊さんが水や食べ物をあげなきゃいけない位に彼らは弱っていた。こんなの戦える状態じゃないよ。
「どうしてこんなことを・・・。」
「こうやって弱った兵たちの世話を我らに押し付けて、自分たちが東に逃げ易いようにしているのだろう。この分だと都のティペリスはもっと酷いことになっているかも知れん。急がねば!」
ここから都までは歩いて半日くらいだ。馬や馬車ならもっと早く着く。リーネオさんはイコォーマの軍隊を率いて進んでいく。【霊獣使い】のシューナちゃんも一緒だ。さっき捕まえたゴルジョケアの兵隊たちは後から来たソウルジェキや同盟国の兵隊さんが引き受けてくれた。一度、ソウルジェキまで連れて行くんだって。
「イコォーマや、その周辺の国々では小麦の税は収穫出来た量に対して掛ける。だがゴルジョケアは違う。麦畑の広さに対して掛けるのだ。」
リーネオさんの説明だとイコォーマでは収穫の時に風に吹かれて飛んで行った小麦の穂には税が掛からないし、農家の人たちが後で拾い集めたのは自由にして良いんだって。それを他の食べ物と交換したり、パンにして自分たちで食べても大丈夫だそうだ。
けれどゴルジョケアでは畑の広さで税を決めるから、どんな不作や凶作でも納めなきゃいけない税は変わらない。今回みたいに三割しか小麦が獲れないときは大変だ。殆ど税で持って行かれちゃう。農家の人たちは落穂を一生懸命拾って食料にしたり、来年の種麦にするしかない・・・。
「ペルクーリの奴は、そのなけなしの小麦まで奪って行ったそうだ。全く、どこまで国民を苦しめたら気が済むのだ。」
進軍している間にも食べ物に困った人たちがイコォーマの兵隊さんに助けを求めて来る。彼らは手際良く食べ物を分けてあげたり、病気や怪我をしている人の手当をして上げている。最初から分かってたみたいにスムーズだ。
「ゴルジョケアが凶作と聞いた時から、こういう手でくることは予想していたからな。兵糧や薬などはたっぷり準備して置いたのだ。兵にも予め指示は出してある。だが、この調子だと都は予想以上に酷いことになっているようだな。」
リーネオさんの悪い予感は当たった。ゴルジョケアの都に着いた私たちはとんでもない光景に出くわすことになった・・・。
リーネオさんの号令でイコォーマの兵隊さんたちが一斉に動き出した。あのゴルジョケア攻めの軍議から十日、私たちはソウルジェキとゴルジョケアの国境に居る。国境の検問には人影が見えない。戦う気がないのかな?
「あ、貴方、まだプロージアの軍隊が着いてないんですけど、もう進撃を始めるんですか?」
「うむ。プロージアの軍勢は二日ほど遅れている。このまま愚図愚図していると間に合わなくなるからな。」
じゃあ、なんで「揃ったな!」って言ったんだろ。マントゥーリ君の上から私は振り返った。リーネオさんの太い二の腕の下から後ろの隊列を見ると兵隊さんより荷物を運ぶ隊商みたいな人たちの方が多い。その間を何か大きな青い生き物が近付いて来るよ。
「お~い、リーネオ兄! 来たよ~、お待たせ!」
「おお、シューナ。待っていたぞ、今回もよろしく頼む!」
見た感じ、中学生くらいの女の子だ。背は小っちゃい。140cm無いんじゃないかな? でもビックリなのが彼女が乗っている動物だよ。背中に翼が生えた大きな青い竜なんだもん。
地面すれすれを飛んでる竜の足元を見ると、白い虎や金色の狼、銀色の狐が走って付いて来てる。竜の上に跨ってる女の子の周りには黒い亀や様々な色の小さな動物が居るね。そして女の子の頭の上辺りを紅い綺麗な鳥が飛んでる。孔雀かな?
「あっ! 今、アンタ、私のこと『小っちゃいな』って思ったでしょ! 馬鹿にしてたらヒドいんだからね!」
「えっ? そんな、馬鹿になんかしてないよ、ホントだよ!」
ゴメン、「小っちゃいな」とは思っちゃった。でも悪い意味じゃなくて「可愛い」って意味でだよ。馬鹿にはしてないから許してね。彼女は私の事をジロジロと値踏みするみたいに見てる。
「ふぅ~ん、アンタが今度、イコォーマの【戦巫女】になったリンね? こんなバターもジャムも塗ってないパンみたいな娘が好みだったんだ。意外だね、リーネオ兄!」
「うるさい、シューナ。そんなことより前に出て、打合せ通りやってこい!」
リーネオさんが煙たそうに前を指差したら、シューナちゃんはぺろっと下を出して青い竜の首を叩きながら何か言ってる。竜も前を向きながら首を縦に振った。言葉が通じるんだ。
「それじゃ行くわ! ま、パンの質は上等みたいね。しっかり頼むわよ、【戦巫女】さん!」
会釈する私の目を見たシューナちゃんは片目を瞑って、そう言うと隊列の一番前に出て行った。
「ゴオアァァーッ!」
青い竜が凄い大きな雄叫びを上げると国境の検問の陰や、地面に掘った穴からゴルジョケアの兵隊たちが一杯出て来て逃げ出した。皆、耳を抑えて一目散に逃げて行くよ。とても立ち向かってくる勇気はないみたい。
「あれは【戦慄の咆哮】と言うスキルだ。どうやら向こうの【戦巫女】は出て来ていないようだ。居れば加護のお陰であそこまで効果は無いからな。」
なんとか正気を取り戻したゴルジョケアの弓兵が青い竜に向かって矢を射るけど、全然当たらない。竜が高い所に居るし、私の【戦巫女】の加護があるからだ。
「あの娘はイコォーマの南隣の国、『ヴィエレッサ』の【霊獣使い】だ。まあ、俺の親戚でもあるがな。名はさっき聞いたな?」
私は黙って頷いた。戦いの行方を見るともうゴルジョケアの兵隊たちは戦う気力が無いみたいだ。何か変だね。凄く疲れてるみたいな・・・。皆、武器を捨てて、どんどん降参していくよ。そして、とうとう指揮官みたいな人が白旗を上げた。
「やはりか・・・。この数日、ゴルジョケアの兵は碌に食事を採っていないらしい。全ての食料はペルクーリの取り巻きの騎士たちが運び出して行ったそうだ。ここの兵達には食料は戦って敵から奪えと命令してな・・・。」
リーネオさんが眉間に皺を寄せながら教えてくれた。本当に酷い。国境の検問に居たゴルジョケアの兵隊たちを縛る前に、イコォーマの兵隊さんが水や食べ物をあげなきゃいけない位に彼らは弱っていた。こんなの戦える状態じゃないよ。
「どうしてこんなことを・・・。」
「こうやって弱った兵たちの世話を我らに押し付けて、自分たちが東に逃げ易いようにしているのだろう。この分だと都のティペリスはもっと酷いことになっているかも知れん。急がねば!」
ここから都までは歩いて半日くらいだ。馬や馬車ならもっと早く着く。リーネオさんはイコォーマの軍隊を率いて進んでいく。【霊獣使い】のシューナちゃんも一緒だ。さっき捕まえたゴルジョケアの兵隊たちは後から来たソウルジェキや同盟国の兵隊さんが引き受けてくれた。一度、ソウルジェキまで連れて行くんだって。
「イコォーマや、その周辺の国々では小麦の税は収穫出来た量に対して掛ける。だがゴルジョケアは違う。麦畑の広さに対して掛けるのだ。」
リーネオさんの説明だとイコォーマでは収穫の時に風に吹かれて飛んで行った小麦の穂には税が掛からないし、農家の人たちが後で拾い集めたのは自由にして良いんだって。それを他の食べ物と交換したり、パンにして自分たちで食べても大丈夫だそうだ。
けれどゴルジョケアでは畑の広さで税を決めるから、どんな不作や凶作でも納めなきゃいけない税は変わらない。今回みたいに三割しか小麦が獲れないときは大変だ。殆ど税で持って行かれちゃう。農家の人たちは落穂を一生懸命拾って食料にしたり、来年の種麦にするしかない・・・。
「ペルクーリの奴は、そのなけなしの小麦まで奪って行ったそうだ。全く、どこまで国民を苦しめたら気が済むのだ。」
進軍している間にも食べ物に困った人たちがイコォーマの兵隊さんに助けを求めて来る。彼らは手際良く食べ物を分けてあげたり、病気や怪我をしている人の手当をして上げている。最初から分かってたみたいにスムーズだ。
「ゴルジョケアが凶作と聞いた時から、こういう手でくることは予想していたからな。兵糧や薬などはたっぷり準備して置いたのだ。兵にも予め指示は出してある。だが、この調子だと都は予想以上に酷いことになっているようだな。」
リーネオさんの悪い予感は当たった。ゴルジョケアの都に着いた私たちはとんでもない光景に出くわすことになった・・・。
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