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第23話
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「周辺諸侯、王太子の皆様方、こちら我がイコォーマの【戦巫女】、リン・サトウだ。今後とも宜しく。」
リーネオさんが私をイコォーマの周りの国の王様や王太子様たちに紹介してくれる。でもなんか素っ気無い感じ。彼は軍議を始めようと話を始めた。
「それではお集りの皆様方、ゴルジョケア攻めの軍議を始めたいと・・・。」
「少し待つのだ、リーネオ王太子。我らは【戦巫女】リン殿の声も聞いたことが無いのだ。どれ、一つご本人に挨拶を頂こうか。宜しいかな、リン殿?」
集まった王様の一人が私の挨拶を聞きたいって口を挟んだ。チラッとリーネオさんの顔を見る。彼は眉を顰めながら私を見つめて、憮然とした表情で瞼を閉じながら頷いた。なんか、いつものリーネオさんらしくないなあ?
「え、えっと、この度イコォーマの【戦巫女】になりました、凛です。まだまだ不慣れですが、皆さんよろしくお願いします。」
「初々しいのお。うんうん、結構。良さそうな娘さんじゃないか、リーネオよ。」
「あの腕白小僧のリーネオが嫁を取るとは、いやはや儂も年を取るわけじゃわい。」
「とても健やかな女性よの。背もすらりと高いし、お似合いではないか。良き良き。」
「しかし、なんとも心地よい声をしておるな。目が合った途端、心が晴れる気がしたわ。さてはここに惚れたか、リーネオ? 」
私が皆さんの目を順番に見ながら挨拶すると、途端に王様たちがリーネオさんを弄り出した。これ、見たことあるかも。従兄弟のお兄ちゃんがお嫁さん貰った時だよ。あの時はお兄ちゃん、親戚中の人から弄り倒されてたもんなあ・・・。
って言うか、今は私がリーネオさんのお嫁さん扱いされてるの、これ?
ひゃああ、凄く恥ずかしくなって来たよ。どうしよう、顔が熱い!
「あ、あー! 本日はゴルジョケア攻めの軍議をするためお集り頂いたはず・・・。こう言う話はいずれ、披露宴の時にでもお願いしたい。では先ず、プロージアとの同盟の件を話し合いましょう。」
真っ赤になって俯いてる私を助ける様にリーネオさんが軍議を始めた。ああ、助かった。ありがとう、リーネオさん。でも「披露宴」って! また顔が赤くなっちゃう・・・。
「プロージアに対する賠償責任はイコォーマの戦死した15名の兵士に対するもの以外は問いませぬ。ただし勝利したこちらが向こうの戦死傷者に対する賠償をすることは在りません。」
イコォーマの大臣さんが説明する。うん、可哀そうだけど仕方ないよ。でないとこちらの戦死した人たちの家族の感情が収まらないもんね。けど、財政が苦しいプロージアには痛手だろうな・・・。
「そこでイコォーマとしての提案だが、ソウルジェキにはプロージアに対するプサフヌト河の通行税を二年間免除して頂きたい。今回の戦の目的はプロージアを滅ぼすことでは無い。今後、同盟国としてゴルジョケア攻めに参加してもらうからには、財政を立て直す機会を与えたい故。」
「ソウルジェキは、その申し入れを認めよう。それによる通行税の減収分は既にストルバクより補填の内諾を受けている故、全く問題無い。」
リーネオさんが提案すると、ソウルジェキの王様がすんなり認めた。あ、この人って最初、私に挨拶してくれって言った人だ。
「ストルバクとしてはプロージアの産物が入ってこなくなるのは困りますので。当然のことでございます。それとプロージアの水産物と小麦の直接取引の件もお引き受けいたします。」
ストルバクの代表の商人さんも協力的だ。そうか、思い出した。ソウルジェキの都で食事した時にリーネオさんやディーナーさんが教えてくれたんだ。ミスピエル湖で獲れる魚や貝にはプロージアでしか獲れないものも沢山あるって。
この後、リーネオさんが中心になってゴルジョケアを攻める段取りがどんどん決まって行った。兵隊さんたちの食料を運ぶのをどの国が受け持つかとか、どんなルートで攻めるかだとか・・・。どうして、こんなにスムーズに決まるんだろう。私は不思議に思った。
ああ、そうか! この一ヶ月、リーネオさんは「戦が始まるのを遅らせる」って言ってあちこちの国を行ったり来たりしてたけど、その時にもう根回ししてたんだ。もしかしたら、どうにかしてプロージアとは戦をしなくても良いように出来ないか、とか考えて動いていたのかも・・・。やっぱり凄い人だよ、リーネオさん。
「最後にプロージア将兵の捕虜の件だが・・・。」
「は、既に負傷していない将兵の返還の準備を始めております。軽傷者は治療が進み次第、順次返還に移ります。重傷者はイコォーマにて完治した後に返還という方向で動いております。」
「うむ。それで良い。彼らとて国のために戦ったに過ぎぬ。また略奪などの犯罪行為もしていない。プロージアの将兵はイコォーマの兵と同等に扱え。これ以上、プロージアとの間に遺恨の残ることはするな。」
リーネオさんが捕虜の人たちの扱いについてイコォーマの将軍さんに確認した。将軍さんの話を聞いて私も納得する。皆、プロージアやブリストルと力を合わせられるように最大限の努力をしてるんだね。
「よし、今日の軍議で決まったことをプロージアとブリストルにも知らせろ。両国の返事を確認した上でゴルジョケア攻めを始める! それでは周辺諸侯、王太子の皆様方も取り決めの通り、よろしくお計らい下され!」
リーネオさんの号令でイコォーマの大臣さんや将軍さんが動き出す。周りの国の王様や王太子様たちも忙しそうに席を立ってる。いよいよゴルジョケアと戦う日が来るんだ。私も心が引き締まる気がした。
リーネオさんが私をイコォーマの周りの国の王様や王太子様たちに紹介してくれる。でもなんか素っ気無い感じ。彼は軍議を始めようと話を始めた。
「それではお集りの皆様方、ゴルジョケア攻めの軍議を始めたいと・・・。」
「少し待つのだ、リーネオ王太子。我らは【戦巫女】リン殿の声も聞いたことが無いのだ。どれ、一つご本人に挨拶を頂こうか。宜しいかな、リン殿?」
集まった王様の一人が私の挨拶を聞きたいって口を挟んだ。チラッとリーネオさんの顔を見る。彼は眉を顰めながら私を見つめて、憮然とした表情で瞼を閉じながら頷いた。なんか、いつものリーネオさんらしくないなあ?
「え、えっと、この度イコォーマの【戦巫女】になりました、凛です。まだまだ不慣れですが、皆さんよろしくお願いします。」
「初々しいのお。うんうん、結構。良さそうな娘さんじゃないか、リーネオよ。」
「あの腕白小僧のリーネオが嫁を取るとは、いやはや儂も年を取るわけじゃわい。」
「とても健やかな女性よの。背もすらりと高いし、お似合いではないか。良き良き。」
「しかし、なんとも心地よい声をしておるな。目が合った途端、心が晴れる気がしたわ。さてはここに惚れたか、リーネオ? 」
私が皆さんの目を順番に見ながら挨拶すると、途端に王様たちがリーネオさんを弄り出した。これ、見たことあるかも。従兄弟のお兄ちゃんがお嫁さん貰った時だよ。あの時はお兄ちゃん、親戚中の人から弄り倒されてたもんなあ・・・。
って言うか、今は私がリーネオさんのお嫁さん扱いされてるの、これ?
ひゃああ、凄く恥ずかしくなって来たよ。どうしよう、顔が熱い!
「あ、あー! 本日はゴルジョケア攻めの軍議をするためお集り頂いたはず・・・。こう言う話はいずれ、披露宴の時にでもお願いしたい。では先ず、プロージアとの同盟の件を話し合いましょう。」
真っ赤になって俯いてる私を助ける様にリーネオさんが軍議を始めた。ああ、助かった。ありがとう、リーネオさん。でも「披露宴」って! また顔が赤くなっちゃう・・・。
「プロージアに対する賠償責任はイコォーマの戦死した15名の兵士に対するもの以外は問いませぬ。ただし勝利したこちらが向こうの戦死傷者に対する賠償をすることは在りません。」
イコォーマの大臣さんが説明する。うん、可哀そうだけど仕方ないよ。でないとこちらの戦死した人たちの家族の感情が収まらないもんね。けど、財政が苦しいプロージアには痛手だろうな・・・。
「そこでイコォーマとしての提案だが、ソウルジェキにはプロージアに対するプサフヌト河の通行税を二年間免除して頂きたい。今回の戦の目的はプロージアを滅ぼすことでは無い。今後、同盟国としてゴルジョケア攻めに参加してもらうからには、財政を立て直す機会を与えたい故。」
「ソウルジェキは、その申し入れを認めよう。それによる通行税の減収分は既にストルバクより補填の内諾を受けている故、全く問題無い。」
リーネオさんが提案すると、ソウルジェキの王様がすんなり認めた。あ、この人って最初、私に挨拶してくれって言った人だ。
「ストルバクとしてはプロージアの産物が入ってこなくなるのは困りますので。当然のことでございます。それとプロージアの水産物と小麦の直接取引の件もお引き受けいたします。」
ストルバクの代表の商人さんも協力的だ。そうか、思い出した。ソウルジェキの都で食事した時にリーネオさんやディーナーさんが教えてくれたんだ。ミスピエル湖で獲れる魚や貝にはプロージアでしか獲れないものも沢山あるって。
この後、リーネオさんが中心になってゴルジョケアを攻める段取りがどんどん決まって行った。兵隊さんたちの食料を運ぶのをどの国が受け持つかとか、どんなルートで攻めるかだとか・・・。どうして、こんなにスムーズに決まるんだろう。私は不思議に思った。
ああ、そうか! この一ヶ月、リーネオさんは「戦が始まるのを遅らせる」って言ってあちこちの国を行ったり来たりしてたけど、その時にもう根回ししてたんだ。もしかしたら、どうにかしてプロージアとは戦をしなくても良いように出来ないか、とか考えて動いていたのかも・・・。やっぱり凄い人だよ、リーネオさん。
「最後にプロージア将兵の捕虜の件だが・・・。」
「は、既に負傷していない将兵の返還の準備を始めております。軽傷者は治療が進み次第、順次返還に移ります。重傷者はイコォーマにて完治した後に返還という方向で動いております。」
「うむ。それで良い。彼らとて国のために戦ったに過ぎぬ。また略奪などの犯罪行為もしていない。プロージアの将兵はイコォーマの兵と同等に扱え。これ以上、プロージアとの間に遺恨の残ることはするな。」
リーネオさんが捕虜の人たちの扱いについてイコォーマの将軍さんに確認した。将軍さんの話を聞いて私も納得する。皆、プロージアやブリストルと力を合わせられるように最大限の努力をしてるんだね。
「よし、今日の軍議で決まったことをプロージアとブリストルにも知らせろ。両国の返事を確認した上でゴルジョケア攻めを始める! それでは周辺諸侯、王太子の皆様方も取り決めの通り、よろしくお計らい下され!」
リーネオさんの号令でイコォーマの大臣さんや将軍さんが動き出す。周りの国の王様や王太子様たちも忙しそうに席を立ってる。いよいよゴルジョケアと戦う日が来るんだ。私も心が引き締まる気がした。
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