21 / 29
第21話
しおりを挟む
「まさか、あの突きを躱すとは・・・。予の負けだ、殺せ。それでプロージアは貴様の物だ。それとヴァイムもだ。あれほどの【戦巫女】はそうは居ない。イコォーマとて欲しかろう。」
マヴィン王の言葉を聞いて、私はぎょっとした。まさか、また【上位互換】とか言われたらどうしよう。リーネオさんはそんな人じゃないよね。けれど一度経験した暗い過去が私をどんどん不安にして行く・・・。
「ふむ。確かにヴァイム殿の【戦巫女】としての才覚は素晴らしい。だが俺は野暮な男ではないのでな。好き合うておるマヴィン候とヴァイム殿の仲を引き裂いたりすれば、我が友マントゥーリに蹴られてしまうわ! はっはっはっ!」
大笑いしたリーネオさんは一呼吸置いた。
「俺の【戦巫女】は何があってもこの世に一人だけ。ここに居るリンのみよ。この想いは誰にも変えることは出来ぬ。いや、変えさせん!」
大きく誓う様にこう言うとリーネオさんはゆっくりと私の方を振り返った。彼は優しく暖かく微笑んでる。見た瞬間、私の不安は吹き飛んだ。暗く沈んでいた心がどんどん明るく晴れ渡っていく・・・。
「イコォーマの出す条件は一つのみ。プロージアとの同盟だ。返答は如何に?」
「・・・。判った、その同盟の申し入れを受け容れよう。」
またマヴィン王の方を向いたリーネオさんが宣言する。マヴィン王は受け容れるしかないよね。観客たちがちょっとざわざわしてるけど、審判さんが決闘の終了を告げると皆、帰り始めた。これでプロージアとの戦は終わりだね。
「実はプロージアには戦をせねばならぬ事情があったのだ。あの国はこの二年、小麦の凶作が続いていてな。民も困窮し始めていた。」
イコォーマの港に帰る軍船の中でリーネオさんがプロージアの事情を教えてくれた。
「マヴィン王は政にも明るい。懸命に国を立て直そうと様々な手を打ったが、その邪魔をする国があったのだ。」
「ゴルジョケアですね。」
「その通りだ。敵対するブリストルと同盟にあるプロージアを窮地に陥れるためにありとあらゆる卑怯な手を使ったそうだ。密偵に麦畑を焼かせたり、周辺の国の麦を買い占めたり・・・。ペルクーリの奴は賢くはないが、陰湿な嫌がらせの才覚だけはあるようだな。」
私もペルクーリ王太子の陰険なところは良く知ってる。人の嫌がることを思いつくのだけは天才的だったからね、あの人。きっとウキウキしながら次々とプロージアを苦しめたんだろうな・・・。
「とうとう財政も立ち行かなくなることも見えて来たマヴィン王は賭けに出た。ソウルジェキを制して一気に財政を立て直す。その為には我がイコォーマを先に倒さなければならなかった。何故だか判るな?」
「ソウルジェキを戦場にしちゃうと交易に必要な港や倉庫とか設備に被害が出るからですか?」
「そうだ。軍事的に周辺国を守る役割を担っていた我がイコォーマを倒せば、ソウルジェキは無血で制圧出来ると考えたのだろう。」
けれど、イコォーマの水軍って凄く強いはず・・・。簡単に勝てるはずないのに、どうして急に戦の準備始めたんだろう? あ、そう言えば!
「今度の戦が始まるちょっと前にゴルジョケアから使者が来たって聞いてますけど、あれって?」
「うむ。俺は『もう一つ面白いことが起こる』と言っただろう。なんとゴルジョケアのペルクーリは恥知らずにも其方を返せと言って来たのだ。言うに事欠いて我らイコォーマが無理やり攫って行ったとまで抜かしおったわ。ははは!」
いきなり【戦巫女】をクビにして追い出した挙句、私を殺そうとまでしておいて何て言い草だよ! しかも助けてくれたリーネオさんたちを悪者呼ばわりだなんて本当に許せない! あの陰険チビデブめぇ・・・。
「でも、なぜ急に私を返せって言って来たんですか? あんなに要らないって言ってたのに。」
「その理由はイコォーマに帰ったら教えてやる。その方が説明し易いからな。当然、我がイーサ王は断った。訳の分からない言い掛かりを付けるな!と使者を追い返したわ。しかし奴等もただでは転ばぬ。リンがまだ【戦巫女】に任じられていない事には気付いたのだ。」
私の質問にリーネオさんが答えてくれた。でもどうして判ったんだろう・・・。私がそのことを聞く前に、彼は言葉を続けた。
「そこで、また色々と在ること無いことを言い触らしたのだ。『イコォーマにはまだ【戦巫女】が居ない。』とか『リンと言う【戦巫女】は使えないポンコツだから国を追われた。』、『もう直ぐイコォーマに【戦巫女】が現れるだろう。』などとな。」
私のこと「返せ」って言ったり「ポンコツだから追い出した」って言ったり、人の事なんだと思ってるんだろう。本当腹立つ~! あれ?でも、どうして【戦巫女】が現れるって情報も流したんだろう?
「そうか。【戦巫女】が居ないうちに戦を起こせば勝てるってマヴィン王に思わせたかったんだ。麦の刈り取りが終わる前に戦を始めたら当然収穫は減っちゃうのに、プロージアが戦を急いだのはそのせいなんですね。」
「その通りだ。そしてあわよくばプロージアと我がイコォーマが刺し違えることを望んだのだろう。そうすればゴルジョケアがミスピエル湖周辺の地域を支配し易くなるからな。」
次にリーネオさんは自分の心に刻み付けるように続けた。
「周りの小国にはなんだかんだと因縁をつけては戦を仕掛ける。力がある国が脅威になると見ると卑劣な手で苦しめ、戦を始めなければならないように追い込む。真の悪はゴルジョケアだ。あの国を打倒さんことには世に平和は来ない。」
「だから決闘の申し出を受けたんですね。プロージアにもイコォーマにもこれ以上被害が出ない様に・・・。そして同盟を申し込んだのもゴルジョケアに対抗して力を合わせる為なんだ。」
「うむ。今回の戦が始まったときに其方が【戦巫女】であったなら双方の被害をもっと抑える自信はあったのだがな。だがゴルジョケアの思惑通りには行かせなかったぞ。恥知らずのペルクーリめ、身の程知らずを必ず思い知らせてやるからな・・・。」
リーネオさんの言葉はとても静かに、そして重々しく聞こえる。彼の強い意志が犇々と伝わってきたよ。
マヴィン王の言葉を聞いて、私はぎょっとした。まさか、また【上位互換】とか言われたらどうしよう。リーネオさんはそんな人じゃないよね。けれど一度経験した暗い過去が私をどんどん不安にして行く・・・。
「ふむ。確かにヴァイム殿の【戦巫女】としての才覚は素晴らしい。だが俺は野暮な男ではないのでな。好き合うておるマヴィン候とヴァイム殿の仲を引き裂いたりすれば、我が友マントゥーリに蹴られてしまうわ! はっはっはっ!」
大笑いしたリーネオさんは一呼吸置いた。
「俺の【戦巫女】は何があってもこの世に一人だけ。ここに居るリンのみよ。この想いは誰にも変えることは出来ぬ。いや、変えさせん!」
大きく誓う様にこう言うとリーネオさんはゆっくりと私の方を振り返った。彼は優しく暖かく微笑んでる。見た瞬間、私の不安は吹き飛んだ。暗く沈んでいた心がどんどん明るく晴れ渡っていく・・・。
「イコォーマの出す条件は一つのみ。プロージアとの同盟だ。返答は如何に?」
「・・・。判った、その同盟の申し入れを受け容れよう。」
またマヴィン王の方を向いたリーネオさんが宣言する。マヴィン王は受け容れるしかないよね。観客たちがちょっとざわざわしてるけど、審判さんが決闘の終了を告げると皆、帰り始めた。これでプロージアとの戦は終わりだね。
「実はプロージアには戦をせねばならぬ事情があったのだ。あの国はこの二年、小麦の凶作が続いていてな。民も困窮し始めていた。」
イコォーマの港に帰る軍船の中でリーネオさんがプロージアの事情を教えてくれた。
「マヴィン王は政にも明るい。懸命に国を立て直そうと様々な手を打ったが、その邪魔をする国があったのだ。」
「ゴルジョケアですね。」
「その通りだ。敵対するブリストルと同盟にあるプロージアを窮地に陥れるためにありとあらゆる卑怯な手を使ったそうだ。密偵に麦畑を焼かせたり、周辺の国の麦を買い占めたり・・・。ペルクーリの奴は賢くはないが、陰湿な嫌がらせの才覚だけはあるようだな。」
私もペルクーリ王太子の陰険なところは良く知ってる。人の嫌がることを思いつくのだけは天才的だったからね、あの人。きっとウキウキしながら次々とプロージアを苦しめたんだろうな・・・。
「とうとう財政も立ち行かなくなることも見えて来たマヴィン王は賭けに出た。ソウルジェキを制して一気に財政を立て直す。その為には我がイコォーマを先に倒さなければならなかった。何故だか判るな?」
「ソウルジェキを戦場にしちゃうと交易に必要な港や倉庫とか設備に被害が出るからですか?」
「そうだ。軍事的に周辺国を守る役割を担っていた我がイコォーマを倒せば、ソウルジェキは無血で制圧出来ると考えたのだろう。」
けれど、イコォーマの水軍って凄く強いはず・・・。簡単に勝てるはずないのに、どうして急に戦の準備始めたんだろう? あ、そう言えば!
「今度の戦が始まるちょっと前にゴルジョケアから使者が来たって聞いてますけど、あれって?」
「うむ。俺は『もう一つ面白いことが起こる』と言っただろう。なんとゴルジョケアのペルクーリは恥知らずにも其方を返せと言って来たのだ。言うに事欠いて我らイコォーマが無理やり攫って行ったとまで抜かしおったわ。ははは!」
いきなり【戦巫女】をクビにして追い出した挙句、私を殺そうとまでしておいて何て言い草だよ! しかも助けてくれたリーネオさんたちを悪者呼ばわりだなんて本当に許せない! あの陰険チビデブめぇ・・・。
「でも、なぜ急に私を返せって言って来たんですか? あんなに要らないって言ってたのに。」
「その理由はイコォーマに帰ったら教えてやる。その方が説明し易いからな。当然、我がイーサ王は断った。訳の分からない言い掛かりを付けるな!と使者を追い返したわ。しかし奴等もただでは転ばぬ。リンがまだ【戦巫女】に任じられていない事には気付いたのだ。」
私の質問にリーネオさんが答えてくれた。でもどうして判ったんだろう・・・。私がそのことを聞く前に、彼は言葉を続けた。
「そこで、また色々と在ること無いことを言い触らしたのだ。『イコォーマにはまだ【戦巫女】が居ない。』とか『リンと言う【戦巫女】は使えないポンコツだから国を追われた。』、『もう直ぐイコォーマに【戦巫女】が現れるだろう。』などとな。」
私のこと「返せ」って言ったり「ポンコツだから追い出した」って言ったり、人の事なんだと思ってるんだろう。本当腹立つ~! あれ?でも、どうして【戦巫女】が現れるって情報も流したんだろう?
「そうか。【戦巫女】が居ないうちに戦を起こせば勝てるってマヴィン王に思わせたかったんだ。麦の刈り取りが終わる前に戦を始めたら当然収穫は減っちゃうのに、プロージアが戦を急いだのはそのせいなんですね。」
「その通りだ。そしてあわよくばプロージアと我がイコォーマが刺し違えることを望んだのだろう。そうすればゴルジョケアがミスピエル湖周辺の地域を支配し易くなるからな。」
次にリーネオさんは自分の心に刻み付けるように続けた。
「周りの小国にはなんだかんだと因縁をつけては戦を仕掛ける。力がある国が脅威になると見ると卑劣な手で苦しめ、戦を始めなければならないように追い込む。真の悪はゴルジョケアだ。あの国を打倒さんことには世に平和は来ない。」
「だから決闘の申し出を受けたんですね。プロージアにもイコォーマにもこれ以上被害が出ない様に・・・。そして同盟を申し込んだのもゴルジョケアに対抗して力を合わせる為なんだ。」
「うむ。今回の戦が始まったときに其方が【戦巫女】であったなら双方の被害をもっと抑える自信はあったのだがな。だがゴルジョケアの思惑通りには行かせなかったぞ。恥知らずのペルクーリめ、身の程知らずを必ず思い知らせてやるからな・・・。」
リーネオさんの言葉はとても静かに、そして重々しく聞こえる。彼の強い意志が犇々と伝わってきたよ。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】婚約破棄されたので隠居しようとしたら、冷徹宰相の寵愛から逃げられません
21時完結
恋愛
「君との婚約は破棄する。新しい婚約者を迎えることにした」
社交界では目立たない公爵令嬢・エレノアは、王太子から突然の婚約破棄を告げられた。
しかもその理由は、「本当に愛する女性を見つけたから」――つまり、私ではなく別の令嬢を選んだということ。
(まあ、王太子妃になる気なんてなかったし、これで自由ね)
厄介な宮廷生活ともおさらば!
私は静かな領地で、のんびりと隠居生活を送るつもりだった。
……しかし、そんな私の前に現れたのは、王国宰相・ヴィンセント。
冷酷無慈悲と恐れられ、王宮で最も権力を持つ彼が、なぜか私のもとを訪ねてきた。
「エレノア、君を手に入れるために長く待った。……これでようやく、俺のものになるな」
――は? ちょっと待ってください。
「待ってました」とばかりに冷酷な宰相閣下に執着されてしまった!?
「君が消えてしまう前に、婚約破棄は阻止しておくべきだったな」
「王太子に渡すつもりは最初からなかった。これからは、俺の妻として生きてもらう」
「逃げる? ……君は俺から逃げられないよ」
私はただ田舎で静かに暮らしたいだけなのに、なぜか冷徹宰相の執着から逃げられません――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる