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第5話
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「あっしは従者のディーナーと申しやす。若旦那は猿とお呼びになることも有りやすが・・・。」
小男さんが自己紹介してくれる。私も小さく会釈を返した。するとリーネオさんが乗っている大きな馬がブルルと小さく嘶いた。首を振って何か言いたげな雰囲気だよ。
「おお、そうかそうか。お前も紹介して欲しいか? コイツの名は『マントゥーリ』と言う。俺の親友だ。馬だと思って馬鹿にしてはいかんぞ。そこらの人間よりずっと頭が良い。」
リーネオさんの紹介にマントゥーリはそうだとばかりに首を縦に振る。本当に頭良いんだ。黒い毛だけど光が当たるところが蒼く光ってピカピカしてる。脚もがっしりしてて、偶にテレビで見るサラブレッドって言う種類みたいに細くない。瞳が優しい涼風みたいに綺麗な水色だ。思わず、私はその眼を見ながら挨拶する。
「宜しくね、マントゥーリ君。さっきは助けてくれてありがとう。」
「ブルルルッ」
挨拶した途端にマントゥーリ君はデッカイ頭を私の体に擦り付けてきた。これ多分、頭だけでも私より重いよ。押し倒されそうになりながら、どうして良いか判らないのでリーネオさんとディーナーさんを交互に見る。
「お嬢、鼻筋を優しく撫でてやって下さい。こんな感じでさあ。」
ディーナーさんの手付きを真似てマントゥーリ君の鼻筋を撫でてみた。彼が喜んでいるのが掌から伝わってくる。とても暖かい。首筋を軽くポンポンと叩いてみる。映画とかで見たことがあったからかな。自然とそうした。
するとマントゥーリ君は私を頭で自分の背中の方に押しやってくる。そして前脚の膝を折って肩の高さを下げた。
「ふむ。珍しいな。マントゥーリが自分から人を乗せたがるとは。其方、中々の『馬たらし』だな。来い!」
そう言って、リーネオさんが左手を差し伸べてきた。その手に右手を伸ばした瞬間、彼は私の腕を掴んでひょいっと引き上げた。背中に羽根が生えたみたいに軽く空中に投げ出された私を、彼は大きな右の掌でふんわりと受け止める。そのまま鞍の上に降ろしてくれた。ってゆうか今、普通にお尻触られたんだけど!
「軽いな。子猫を拾ったのかと思ったぞ。ちゃんと食べておるのか?」
リーネオさんが何事も無かったように聞いてきた。私は恥ずかしさで何も言えなかった。真っ赤になって俯いてる私のことなんて放ったらかして、マントゥーリ君が立ち上がった。視界がぐんと高くなる。そのまま踵を返して歩き出した。
「まずは街に戻って腹拵えと行くか。今日はそのまま宿に泊まろう。」
「へい。お嬢の靴擦れが酷くならない様に手当も必要ですしね。」
乗ってるマントゥーリ君が兎に角デッカイから気にならなかったけど、実際に傍に居るとリーネオさんも大きい人だ。正直言って、この世界の男の人は皆小さい。前に居たゴルジョケア国の軍勢に「国一番の巨漢」とか「三国無双の豪傑」なんて呼ばれてる人も居たけど身長170cmくらい。ハッキリ言ってクラスの男子たちの方が断然大きかった。
その点、リーネオさんはこの世界の常識を超えた大きさだ。バスケやバレーボールをやってた男子と背の高さは一緒くらいなんだけど、腕とか胸板のゴツさが桁違いだよ。二の腕なんか私のウエストくらいありそう。なんていうかクラスの男子とは「圧」が全然違う。
マントゥーリ君に乗った私の目の高さは3m近いと思う。凄く遠くまで見渡せる。普通なら、こんな高さで揺られてると怖さを感じるはずなんだけど、とても安心感がある。がっしりしたリーネオさんがマッサージチェアみたいに後ろからしっかり支えてくれてるからだ。小さい頃、お父さんに抱っこして貰ったときを思い出すなぁ。
目を閉じるとお香みたいな良い香りに混じって男の人の体臭がしてくる。少し汗臭いような甘い匂い。男の人とこんなに密着するのは初めてだから、ちょっと体が固くなっちゃうよ。そんなことを考えてたら、あることに気が付いた。
「あ! そう言えば、リーネオさんたちは旅を急ぐんじゃないのですか? ゴルジョケア国に用事があるのに、私のせいで戻ることになっちゃったんですか? ごめんなさい。」
私は自分のことばかり考えていたことに気付いて、恥ずかしさと申し訳ない気持ちで体が熱くなった。なんか眼にも涙がいっぱい溜まってきちゃった。
「うむ? 旅か、それはもう良い。『目的』は果たした。」
「え? それ、どういう意味ですか?」
私はリーネオさんの言ってる「目的」の意味が判らなくて質問する。
「ははは! 何しろ『目的』の方から歩いて来てくれたからな。俺の旅の目的はな、ゴルジョケア国の【戦巫女】である『リン』という女に会って話をすることだったのだ。」
「・・・。え? えええっ? 私と会って話すのが『目的』? 本当ですか・・・?」
「ふはは、其方は面白い反応をするな。こんなことでウソを言ってどうする。まあ良い。まずは街で暖かい物でも食おう。詳しい話はそこでしてやる。」
こうして私は街でご飯を食べながら、リーネオさんのお話を聞くことになった。
小男さんが自己紹介してくれる。私も小さく会釈を返した。するとリーネオさんが乗っている大きな馬がブルルと小さく嘶いた。首を振って何か言いたげな雰囲気だよ。
「おお、そうかそうか。お前も紹介して欲しいか? コイツの名は『マントゥーリ』と言う。俺の親友だ。馬だと思って馬鹿にしてはいかんぞ。そこらの人間よりずっと頭が良い。」
リーネオさんの紹介にマントゥーリはそうだとばかりに首を縦に振る。本当に頭良いんだ。黒い毛だけど光が当たるところが蒼く光ってピカピカしてる。脚もがっしりしてて、偶にテレビで見るサラブレッドって言う種類みたいに細くない。瞳が優しい涼風みたいに綺麗な水色だ。思わず、私はその眼を見ながら挨拶する。
「宜しくね、マントゥーリ君。さっきは助けてくれてありがとう。」
「ブルルルッ」
挨拶した途端にマントゥーリ君はデッカイ頭を私の体に擦り付けてきた。これ多分、頭だけでも私より重いよ。押し倒されそうになりながら、どうして良いか判らないのでリーネオさんとディーナーさんを交互に見る。
「お嬢、鼻筋を優しく撫でてやって下さい。こんな感じでさあ。」
ディーナーさんの手付きを真似てマントゥーリ君の鼻筋を撫でてみた。彼が喜んでいるのが掌から伝わってくる。とても暖かい。首筋を軽くポンポンと叩いてみる。映画とかで見たことがあったからかな。自然とそうした。
するとマントゥーリ君は私を頭で自分の背中の方に押しやってくる。そして前脚の膝を折って肩の高さを下げた。
「ふむ。珍しいな。マントゥーリが自分から人を乗せたがるとは。其方、中々の『馬たらし』だな。来い!」
そう言って、リーネオさんが左手を差し伸べてきた。その手に右手を伸ばした瞬間、彼は私の腕を掴んでひょいっと引き上げた。背中に羽根が生えたみたいに軽く空中に投げ出された私を、彼は大きな右の掌でふんわりと受け止める。そのまま鞍の上に降ろしてくれた。ってゆうか今、普通にお尻触られたんだけど!
「軽いな。子猫を拾ったのかと思ったぞ。ちゃんと食べておるのか?」
リーネオさんが何事も無かったように聞いてきた。私は恥ずかしさで何も言えなかった。真っ赤になって俯いてる私のことなんて放ったらかして、マントゥーリ君が立ち上がった。視界がぐんと高くなる。そのまま踵を返して歩き出した。
「まずは街に戻って腹拵えと行くか。今日はそのまま宿に泊まろう。」
「へい。お嬢の靴擦れが酷くならない様に手当も必要ですしね。」
乗ってるマントゥーリ君が兎に角デッカイから気にならなかったけど、実際に傍に居るとリーネオさんも大きい人だ。正直言って、この世界の男の人は皆小さい。前に居たゴルジョケア国の軍勢に「国一番の巨漢」とか「三国無双の豪傑」なんて呼ばれてる人も居たけど身長170cmくらい。ハッキリ言ってクラスの男子たちの方が断然大きかった。
その点、リーネオさんはこの世界の常識を超えた大きさだ。バスケやバレーボールをやってた男子と背の高さは一緒くらいなんだけど、腕とか胸板のゴツさが桁違いだよ。二の腕なんか私のウエストくらいありそう。なんていうかクラスの男子とは「圧」が全然違う。
マントゥーリ君に乗った私の目の高さは3m近いと思う。凄く遠くまで見渡せる。普通なら、こんな高さで揺られてると怖さを感じるはずなんだけど、とても安心感がある。がっしりしたリーネオさんがマッサージチェアみたいに後ろからしっかり支えてくれてるからだ。小さい頃、お父さんに抱っこして貰ったときを思い出すなぁ。
目を閉じるとお香みたいな良い香りに混じって男の人の体臭がしてくる。少し汗臭いような甘い匂い。男の人とこんなに密着するのは初めてだから、ちょっと体が固くなっちゃうよ。そんなことを考えてたら、あることに気が付いた。
「あ! そう言えば、リーネオさんたちは旅を急ぐんじゃないのですか? ゴルジョケア国に用事があるのに、私のせいで戻ることになっちゃったんですか? ごめんなさい。」
私は自分のことばかり考えていたことに気付いて、恥ずかしさと申し訳ない気持ちで体が熱くなった。なんか眼にも涙がいっぱい溜まってきちゃった。
「うむ? 旅か、それはもう良い。『目的』は果たした。」
「え? それ、どういう意味ですか?」
私はリーネオさんの言ってる「目的」の意味が判らなくて質問する。
「ははは! 何しろ『目的』の方から歩いて来てくれたからな。俺の旅の目的はな、ゴルジョケア国の【戦巫女】である『リン』という女に会って話をすることだったのだ。」
「・・・。え? えええっ? 私と会って話すのが『目的』? 本当ですか・・・?」
「ふはは、其方は面白い反応をするな。こんなことでウソを言ってどうする。まあ良い。まずは街で暖かい物でも食おう。詳しい話はそこでしてやる。」
こうして私は街でご飯を食べながら、リーネオさんのお話を聞くことになった。
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