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第3話
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「ほら、これがお前の短剣だ。受け取ったら、直ぐに行け!」
城の門番がぶっきら棒に短剣を渡して来た。私は短剣を確かめる。あれ? これ古いけど凄く良く手入れされてる。てっきり錆だらけのボロを渡されると思ったのに・・・。
「あの、この短剣・・・。」
「うるさい! 古いとか不満ばかり言うな! さっさと行けと言うのに!」
門番が槍を振り上げる。私は仕方なく、その場を去った。町の雑貨屋に入る。
「あのスイマセン。水筒と日持ちのする食料を分けて下さい。」
私が女店主に言うと店の奥から品物を持って来て、目の前に並べてくれた。
私は小さな水筒と布袋に入ったパンと干し肉、木の実を選んで肩から掛けられる皮カバンに入れて貰った。全部で銀貨30枚くらいだろうか・・・。
「金貨一枚だね。それ以上は負からない。嫌だったら他所に行きな!」
酷い。足元を見てるんだ。でも他に行ったらもっと酷い値を吹っ掛けられるかも知れない。私は我慢して金貨を一枚渡した。これで金貨の残りは九枚だ。
「ふん。確かに。サービスで水筒の中身は入れといたよ。」
女店主は金貨を品定めしながら吐き捨てるように言う。こんな小さな水筒に水を入れたくらいで恩を売られた。この店、偶に来た事あったんだけどな。前は国専属の【戦巫女】だったから良い顔をしてくれてたんだ。
これで旅の用意は出来た。私はどこに行こうか迷った。どうせ国境を超えたら刺客に襲われる。投げ遣りな気持ちになって金貨を2回投げて裏表で方向を決めた。答えは西と出た。西なら国境も近い。街道を行くと『ソウルジェキ』と言う国に着く筈だ。
今から急げば日が暮れる前に国境を超えられるだろう。あの国は通商の盛んな国だから街道の人の往来は多い。上手くすれば襲われる前に宿屋に泊まれるかも知れない。私は少し明るい気持ちになって街道を進み始めた。
暫く進んでるうちに困ったことになった。初めて履くブーツで道を急いだから靴擦れが出来てしまった。歩くたびにズキズキと疼く。これ、何の罰なんだろう。ふと空を見上げると小雪も舞い始めてる。冷えて来るらしい・・・。
私は段々と暗い気持ちになって来た。歩きながら木の実を何粒か口に運ぶ。少し元気が出た。小さな水筒の水をちょっとだけ口に含む。トイレに行きたくないから、ちょっとしか飲まない。人通りの多い街道でも茂みの中とかは危ない気がするし。
休んで食事を採る時間も惜しんで歩いて来たので夕暮れ時には国境の検問まで辿り着くことが出来た。ここを過ぎれば、少し行ったところに街があるそうだ。私は途端に明るい気持ちになって街道を進んだ。靴擦れは痛いけどもう少しの我慢だ。
幸い追手らしき姿は見えない。街に着けば、路上でいきなり襲って来たりはしないだろう。もしかして神殿で聞かされた会話は、私が怖がって直ぐに国を出るようにとわざと聞かせたのかも知れない。意外とそうかもね。
そう思った時だった。私はハッとした。気が付くと周りに他の旅人が居ない。街道の先を見ると馬に乗った男たちが4人居る。皆、手に槍みたいなものを持っている。後ろを振り返るとこちらにも4人の男が逃げ道を塞ぐところだった。やっぱり馬に乗っている。
そうか、男たちは馬で先回りして待ち伏せしてたんだ! 私は追って来るものと思い込んで後ろばかり気にしてた。街道を逸れて逃げようと思っても左は岩壁、右は大きな川が流れている。なるほど、だからここで待ち伏せてたんだ。
「へへへ、小娘が多少の知恵絞ってもこんなもんよ。」
私の周りを取り囲んだ8人の男たちはバカにしたように声を掛けてきた。
「どうするよ? 直ぐに殺っちまうか? それとも楽しんでから?」
「よせよ、こんな痩せっぽちの野ウサギみたいなノッポ女。それより冷えてきた。奪った金貨で、どこぞの酒場にでも繰り出そうや。女もあっちの方が良いのが居るぜ。」
男の一人の提案を他の男たちが否定した。金貨を持っているのを知ってる。ペルクーリ王太子の刺客に間違いない。私よりも金貨九枚の方に興味があるとか。最後の最後までバカにしている。
「さあて、さっさと『お仕事』済ませようぜ。」
男たちが包囲の輪をジリジリと狭めてきた。私は貰った短剣の柄を握りしめて身を縮める。ああ、ここまでか。転生して、たった一年の人生だった・・・。
「おお! あれを見ろ猿。なにやら男が大勢で娘一人を囲んでおるぞ!」
見たこともないデッカイ馬に乗った大男がすぐそこに居た。横には凄く長い棒?を担いだ小男が従ってる。いつの間にこんな近くまで来たのだろう。
「あっしはディーナーですよ、若旦那。その猿って呼び方は止めて下さいな。」
私を取り囲んでいた男たちの気が逸れる。巨馬に乗った大男と従者は男たちに構わずこちらに歩いてくる。
「や、やい。邪魔する気か? おお?」
男たちが威嚇するけど、見た感じビビってるのが手に取るように伝わって来た。
「このような街道のど真ん中で喧嘩などして居れば邪魔だろう。他所でやれ。」
大男が静かに言った。けれど、声に籠った迫力というか威厳が凄い。刺客の男たちは怯んだ。でもすぐに「お仕事」を思い出したのか、槍を構え直して、そのまま私と大男さん、従者さんの周りを馬で取り囲みながら回り始めた。
「ほう! 面白い。この俺に喧嘩を売るか! おい猿、槍を持てい!」
大男さんが叫ぶと、辺りの空気ががビリビリと震えた。物凄い声量だった。
城の門番がぶっきら棒に短剣を渡して来た。私は短剣を確かめる。あれ? これ古いけど凄く良く手入れされてる。てっきり錆だらけのボロを渡されると思ったのに・・・。
「あの、この短剣・・・。」
「うるさい! 古いとか不満ばかり言うな! さっさと行けと言うのに!」
門番が槍を振り上げる。私は仕方なく、その場を去った。町の雑貨屋に入る。
「あのスイマセン。水筒と日持ちのする食料を分けて下さい。」
私が女店主に言うと店の奥から品物を持って来て、目の前に並べてくれた。
私は小さな水筒と布袋に入ったパンと干し肉、木の実を選んで肩から掛けられる皮カバンに入れて貰った。全部で銀貨30枚くらいだろうか・・・。
「金貨一枚だね。それ以上は負からない。嫌だったら他所に行きな!」
酷い。足元を見てるんだ。でも他に行ったらもっと酷い値を吹っ掛けられるかも知れない。私は我慢して金貨を一枚渡した。これで金貨の残りは九枚だ。
「ふん。確かに。サービスで水筒の中身は入れといたよ。」
女店主は金貨を品定めしながら吐き捨てるように言う。こんな小さな水筒に水を入れたくらいで恩を売られた。この店、偶に来た事あったんだけどな。前は国専属の【戦巫女】だったから良い顔をしてくれてたんだ。
これで旅の用意は出来た。私はどこに行こうか迷った。どうせ国境を超えたら刺客に襲われる。投げ遣りな気持ちになって金貨を2回投げて裏表で方向を決めた。答えは西と出た。西なら国境も近い。街道を行くと『ソウルジェキ』と言う国に着く筈だ。
今から急げば日が暮れる前に国境を超えられるだろう。あの国は通商の盛んな国だから街道の人の往来は多い。上手くすれば襲われる前に宿屋に泊まれるかも知れない。私は少し明るい気持ちになって街道を進み始めた。
暫く進んでるうちに困ったことになった。初めて履くブーツで道を急いだから靴擦れが出来てしまった。歩くたびにズキズキと疼く。これ、何の罰なんだろう。ふと空を見上げると小雪も舞い始めてる。冷えて来るらしい・・・。
私は段々と暗い気持ちになって来た。歩きながら木の実を何粒か口に運ぶ。少し元気が出た。小さな水筒の水をちょっとだけ口に含む。トイレに行きたくないから、ちょっとしか飲まない。人通りの多い街道でも茂みの中とかは危ない気がするし。
休んで食事を採る時間も惜しんで歩いて来たので夕暮れ時には国境の検問まで辿り着くことが出来た。ここを過ぎれば、少し行ったところに街があるそうだ。私は途端に明るい気持ちになって街道を進んだ。靴擦れは痛いけどもう少しの我慢だ。
幸い追手らしき姿は見えない。街に着けば、路上でいきなり襲って来たりはしないだろう。もしかして神殿で聞かされた会話は、私が怖がって直ぐに国を出るようにとわざと聞かせたのかも知れない。意外とそうかもね。
そう思った時だった。私はハッとした。気が付くと周りに他の旅人が居ない。街道の先を見ると馬に乗った男たちが4人居る。皆、手に槍みたいなものを持っている。後ろを振り返るとこちらにも4人の男が逃げ道を塞ぐところだった。やっぱり馬に乗っている。
そうか、男たちは馬で先回りして待ち伏せしてたんだ! 私は追って来るものと思い込んで後ろばかり気にしてた。街道を逸れて逃げようと思っても左は岩壁、右は大きな川が流れている。なるほど、だからここで待ち伏せてたんだ。
「へへへ、小娘が多少の知恵絞ってもこんなもんよ。」
私の周りを取り囲んだ8人の男たちはバカにしたように声を掛けてきた。
「どうするよ? 直ぐに殺っちまうか? それとも楽しんでから?」
「よせよ、こんな痩せっぽちの野ウサギみたいなノッポ女。それより冷えてきた。奪った金貨で、どこぞの酒場にでも繰り出そうや。女もあっちの方が良いのが居るぜ。」
男の一人の提案を他の男たちが否定した。金貨を持っているのを知ってる。ペルクーリ王太子の刺客に間違いない。私よりも金貨九枚の方に興味があるとか。最後の最後までバカにしている。
「さあて、さっさと『お仕事』済ませようぜ。」
男たちが包囲の輪をジリジリと狭めてきた。私は貰った短剣の柄を握りしめて身を縮める。ああ、ここまでか。転生して、たった一年の人生だった・・・。
「おお! あれを見ろ猿。なにやら男が大勢で娘一人を囲んでおるぞ!」
見たこともないデッカイ馬に乗った大男がすぐそこに居た。横には凄く長い棒?を担いだ小男が従ってる。いつの間にこんな近くまで来たのだろう。
「あっしはディーナーですよ、若旦那。その猿って呼び方は止めて下さいな。」
私を取り囲んでいた男たちの気が逸れる。巨馬に乗った大男と従者は男たちに構わずこちらに歩いてくる。
「や、やい。邪魔する気か? おお?」
男たちが威嚇するけど、見た感じビビってるのが手に取るように伝わって来た。
「このような街道のど真ん中で喧嘩などして居れば邪魔だろう。他所でやれ。」
大男が静かに言った。けれど、声に籠った迫力というか威厳が凄い。刺客の男たちは怯んだ。でもすぐに「お仕事」を思い出したのか、槍を構え直して、そのまま私と大男さん、従者さんの周りを馬で取り囲みながら回り始めた。
「ほう! 面白い。この俺に喧嘩を売るか! おい猿、槍を持てい!」
大男さんが叫ぶと、辺りの空気ががビリビリと震えた。物凄い声量だった。
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