3 / 6
第三話 不思議な出会い
しおりを挟む
翌日の昼過ぎ、私は面接がある人材派遣会社に向かうため最寄駅を出た。7月も中旬を過ぎて暑さもかなり厳しくなっている。約束の時間には、まだ30分以上あるし何処か涼しい所で会社情報のお浚いでもするか。
そう思い、周囲を見回すとイートインが併設されているコンビニがあるな。丁度良い、ここで冷たい物でも食べながら時間を潰そう。
「おっちゃん、暑いのに背広着て大変やな!」
コンビニの入り口の側に立っていた男の子が声を掛けて来た。黒いTシャツにデニムの半ズボン、歳は10歳くらいか? どこか憎めない人懐っこそうな表情をした元気な子供だ。その子は私と一緒にコンビニの店内に入って来た。
「なになに? アイス食べるん? アイスええなあ~!」
私がアイスを置いてある冷蔵庫の前に行くと、男の子も付いて来て中を覗き込む。冷蔵庫の中からガリガリ君のソーダ味を取り出して買い物かごに入れようとするのをじっと見つめている。う~ん、仕方無い・・・。
「ん? 君も何か食べるか? 良かったら、ご馳走してあげよう。」
「え? ホンマ? ええの? やった~、ほしたら僕、コレ!」
本当は他所の子供に物を買い与えてはいけないのだが、自分だけアイスを食べるのは少々気が引ける。私が促すと男の子は迷わずにガリガリ君リッチのミックスベリーヨーグルト味を取り出して、買い物かごに入れた。それにしても一番高いヤツを選ぶとは抜け目の無い子だな。
「おっちゃん、その背広、ホンマカッコ良いなあ!」
イートインでアイスを食べ始めた途端、男の子はお世辞を言いながら私の背広を突っつき出した。勘違いしてはいけない。私の背広姿が恰好良い訳では無い。その証拠に上着を脱いでテーブルの上に置いたら、男の子はその上着を面白そうに繁々と見つめているのだから。
「君、名前は? この辺りの子なのかな?」
「僕、又三郎って言うねん! 普段はこの辺りには居らへんよ。」
関西弁を話しているし、夏休みで親戚の家にでも遊びに来たのだろうか? この辺りはオフィス街だし、少し変だ。しかし迷子には見えない。
「おっちゃん、これからどこ行くん? 取引先に商談? ビジネスマンやな!」
「あ、違うぞ。おじさんは、これから面接を受けるんだ。次に働く会社に入れて貰うためにね。」
私は又三郎君に諭すように答えた。彼はじっと私の上着を見つめながら黙っている。そしてアイスを食べる。それを食べ終わると好奇心の強そうな眼差しで私の目を見つめて、こう言った。
「おっちゃん、アイスごちそうさま。面接、上手い事いったら良えね。応援してるで!」
「うん? ああ、有り難う。頑張るよ。」
彼は私の肩をバシバシ叩くとコンビニの外に出て行った。そして元気に駆けてゆく。何だか少し勇気を分けて貰ったような気がした。少し変わってる気もするが何処か憎めない愛嬌のある男の子だったな。何故だろうか、また会えそうな気がする。
「よし、良い具合に体も冷えたし時間も調整出来た。私もそろそろ行くか!」
そう独り言ちてイートインの席を立つ。コンビニを出て、ふと振り返るとさっき会計したレジのおばさん店員が驚いたような顔でこちらを見つめていた。
目的の会社はすぐそこだった。歩いて一分少々、「株式会社 クロイツ派遣」と言う人材派遣会社だ。面接の時間までは、あと10分ほど、丁度良い時間だ。私はビルの中に入り、エレベーターに乗り込む。面接があるのは五階、ボタンを押し扉が閉まるのを待った。
「あ、待って、待って~!」
ビルの入り口から若い男が走って来る。私は「開く」のボタンを押して待ってあげた。男がエレベーターに飛び込んで来る。若いが少しお腹が出ている。日頃、あまり運動していないか、不摂生してるのだろう。ネクタイも緩んでいて、服装もだらしない。
「君、七階のボタン押してよ。 早く早く、ドア閉じて! また誰か乗って来ちゃうだろ!」
自分がエレベーターを止めて飛び込んで来た割に随分な言い草だな。以前居た会社なら、この場で説教でもしてやりたいところだ。しかし今は面接を控える身、大人しくしておこう。私は黙って七階のボタンを押した。エレベーターが上昇を始める。
「よお、芹香ちゃん! 元気してる? 今度、呑みに行こうよ!」
二階でエレベーターが停まって、社員らしい若い女性が乗って来た。亜麻色の髪、妻や娘と同じ珍しい髪の色に少し注意を引かれる。だらしない青年社員が声を掛けた瞬間、彼女が身を固くするのに気付いた。
「どちらの階まで行かれますか?」
私は彼女に尋ねた。芹香と呼ばれた女性はパネルを見て言う。
「五階で。あ、もう押してますね。このままで大丈夫です。」
エレベーターが再び上昇を始めた。何か視線を感じる。振り返ると、だらしない青年社員が私をつま先から頭まで舐めるように見ている。だが敵意は無いようだ。
「あの、私、何か失礼でも有りましたでしょうか?」
余りの居心地の悪さに私は思わず声を掛けた。正直、若い男性にこんな視線で見られるのは御免被る。実は私は所謂「ホモ」と呼ばれる人々が大の苦手なのだ。同好の方同志での交流は自由だと思う。しかし私を巻き込まないで頂きたい。
「いやいや、社内であまり見ない人だなと思ってさ。 そう言えば、今日って面接あったっけ? ねえ、芹香ちゃん?」
「さ、さあ? 私は総務なので人事の事は良く知りません!」
綺麗な亜麻色の髪をした若い女性社員は、だらしない青年社員とは出来るだけ無関係で居たいらしい。さらに身を固くして私を見つめながら傍に寄り添って来た。
「あ、着きましたよ。お先にどうぞ。」
エレベーターが目的の五階に着いた。ドアが開いたので私は若い女性社員に促す。
「どうも、すみません。それではお先です!」
「それでは失礼します。」
私達は一緒に五階に降りる。エレベーターの中から、だらしない青年社員の舌打ちの音が聞えたが、敢えて無視した。若い女子社員さんは私をじっと見つめている。何処かで見たような・・・。
「あ、いけない、 もうこんな時間! 今日も有り難うございました。失礼します!」
亜麻色の髪の女性社員は私にお辞儀をするとエレベーター脇の階段を駆け上がってゆく。今日も? 何か引っ掛かるが私はそれ処では無かった。もう面接が始まる時間の5分前が近いからだ。
「失礼します。本日、面接のご約束を頂いております。若林と申します。」
私は急ぎ足で人事部に行くと、中に入るなり受付の女性に告げる。程なくして私は応接室に通された。そこには二人の男性が居た。
「初めまして、私はこの会社の社長、亜土だ。まあ、そこに座り給え!」
何故か、人事部長の隣に社長が居られる・・・。どういうことだ? 私は言われるままに勧められた席に座った。人事部長と自己紹介した人物が色々と質問をして来る。それに対して当たり障りのない返答を返していると突然、亜土社長が立ち上がって宣言するように言い放った。
「うん、もう質問は良い。君、若林君と言ったな? 採用だ、明日からでも出社して来なさい!」
自分でも信じられなかった。あんなに苦労していた再就職だが、決まるときは一瞬だったからだ。
そう思い、周囲を見回すとイートインが併設されているコンビニがあるな。丁度良い、ここで冷たい物でも食べながら時間を潰そう。
「おっちゃん、暑いのに背広着て大変やな!」
コンビニの入り口の側に立っていた男の子が声を掛けて来た。黒いTシャツにデニムの半ズボン、歳は10歳くらいか? どこか憎めない人懐っこそうな表情をした元気な子供だ。その子は私と一緒にコンビニの店内に入って来た。
「なになに? アイス食べるん? アイスええなあ~!」
私がアイスを置いてある冷蔵庫の前に行くと、男の子も付いて来て中を覗き込む。冷蔵庫の中からガリガリ君のソーダ味を取り出して買い物かごに入れようとするのをじっと見つめている。う~ん、仕方無い・・・。
「ん? 君も何か食べるか? 良かったら、ご馳走してあげよう。」
「え? ホンマ? ええの? やった~、ほしたら僕、コレ!」
本当は他所の子供に物を買い与えてはいけないのだが、自分だけアイスを食べるのは少々気が引ける。私が促すと男の子は迷わずにガリガリ君リッチのミックスベリーヨーグルト味を取り出して、買い物かごに入れた。それにしても一番高いヤツを選ぶとは抜け目の無い子だな。
「おっちゃん、その背広、ホンマカッコ良いなあ!」
イートインでアイスを食べ始めた途端、男の子はお世辞を言いながら私の背広を突っつき出した。勘違いしてはいけない。私の背広姿が恰好良い訳では無い。その証拠に上着を脱いでテーブルの上に置いたら、男の子はその上着を面白そうに繁々と見つめているのだから。
「君、名前は? この辺りの子なのかな?」
「僕、又三郎って言うねん! 普段はこの辺りには居らへんよ。」
関西弁を話しているし、夏休みで親戚の家にでも遊びに来たのだろうか? この辺りはオフィス街だし、少し変だ。しかし迷子には見えない。
「おっちゃん、これからどこ行くん? 取引先に商談? ビジネスマンやな!」
「あ、違うぞ。おじさんは、これから面接を受けるんだ。次に働く会社に入れて貰うためにね。」
私は又三郎君に諭すように答えた。彼はじっと私の上着を見つめながら黙っている。そしてアイスを食べる。それを食べ終わると好奇心の強そうな眼差しで私の目を見つめて、こう言った。
「おっちゃん、アイスごちそうさま。面接、上手い事いったら良えね。応援してるで!」
「うん? ああ、有り難う。頑張るよ。」
彼は私の肩をバシバシ叩くとコンビニの外に出て行った。そして元気に駆けてゆく。何だか少し勇気を分けて貰ったような気がした。少し変わってる気もするが何処か憎めない愛嬌のある男の子だったな。何故だろうか、また会えそうな気がする。
「よし、良い具合に体も冷えたし時間も調整出来た。私もそろそろ行くか!」
そう独り言ちてイートインの席を立つ。コンビニを出て、ふと振り返るとさっき会計したレジのおばさん店員が驚いたような顔でこちらを見つめていた。
目的の会社はすぐそこだった。歩いて一分少々、「株式会社 クロイツ派遣」と言う人材派遣会社だ。面接の時間までは、あと10分ほど、丁度良い時間だ。私はビルの中に入り、エレベーターに乗り込む。面接があるのは五階、ボタンを押し扉が閉まるのを待った。
「あ、待って、待って~!」
ビルの入り口から若い男が走って来る。私は「開く」のボタンを押して待ってあげた。男がエレベーターに飛び込んで来る。若いが少しお腹が出ている。日頃、あまり運動していないか、不摂生してるのだろう。ネクタイも緩んでいて、服装もだらしない。
「君、七階のボタン押してよ。 早く早く、ドア閉じて! また誰か乗って来ちゃうだろ!」
自分がエレベーターを止めて飛び込んで来た割に随分な言い草だな。以前居た会社なら、この場で説教でもしてやりたいところだ。しかし今は面接を控える身、大人しくしておこう。私は黙って七階のボタンを押した。エレベーターが上昇を始める。
「よお、芹香ちゃん! 元気してる? 今度、呑みに行こうよ!」
二階でエレベーターが停まって、社員らしい若い女性が乗って来た。亜麻色の髪、妻や娘と同じ珍しい髪の色に少し注意を引かれる。だらしない青年社員が声を掛けた瞬間、彼女が身を固くするのに気付いた。
「どちらの階まで行かれますか?」
私は彼女に尋ねた。芹香と呼ばれた女性はパネルを見て言う。
「五階で。あ、もう押してますね。このままで大丈夫です。」
エレベーターが再び上昇を始めた。何か視線を感じる。振り返ると、だらしない青年社員が私をつま先から頭まで舐めるように見ている。だが敵意は無いようだ。
「あの、私、何か失礼でも有りましたでしょうか?」
余りの居心地の悪さに私は思わず声を掛けた。正直、若い男性にこんな視線で見られるのは御免被る。実は私は所謂「ホモ」と呼ばれる人々が大の苦手なのだ。同好の方同志での交流は自由だと思う。しかし私を巻き込まないで頂きたい。
「いやいや、社内であまり見ない人だなと思ってさ。 そう言えば、今日って面接あったっけ? ねえ、芹香ちゃん?」
「さ、さあ? 私は総務なので人事の事は良く知りません!」
綺麗な亜麻色の髪をした若い女性社員は、だらしない青年社員とは出来るだけ無関係で居たいらしい。さらに身を固くして私を見つめながら傍に寄り添って来た。
「あ、着きましたよ。お先にどうぞ。」
エレベーターが目的の五階に着いた。ドアが開いたので私は若い女性社員に促す。
「どうも、すみません。それではお先です!」
「それでは失礼します。」
私達は一緒に五階に降りる。エレベーターの中から、だらしない青年社員の舌打ちの音が聞えたが、敢えて無視した。若い女子社員さんは私をじっと見つめている。何処かで見たような・・・。
「あ、いけない、 もうこんな時間! 今日も有り難うございました。失礼します!」
亜麻色の髪の女性社員は私にお辞儀をするとエレベーター脇の階段を駆け上がってゆく。今日も? 何か引っ掛かるが私はそれ処では無かった。もう面接が始まる時間の5分前が近いからだ。
「失礼します。本日、面接のご約束を頂いております。若林と申します。」
私は急ぎ足で人事部に行くと、中に入るなり受付の女性に告げる。程なくして私は応接室に通された。そこには二人の男性が居た。
「初めまして、私はこの会社の社長、亜土だ。まあ、そこに座り給え!」
何故か、人事部長の隣に社長が居られる・・・。どういうことだ? 私は言われるままに勧められた席に座った。人事部長と自己紹介した人物が色々と質問をして来る。それに対して当たり障りのない返答を返していると突然、亜土社長が立ち上がって宣言するように言い放った。
「うん、もう質問は良い。君、若林君と言ったな? 採用だ、明日からでも出社して来なさい!」
自分でも信じられなかった。あんなに苦労していた再就職だが、決まるときは一瞬だったからだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる