観念しやがれ、このオカマ野郎!

ぶっちゃけマシン

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第三話 不思議な出会い

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翌日の昼過ぎ、私は面接がある人材派遣会社に向かうため最寄駅を出た。7月も中旬を過ぎて暑さもかなり厳しくなっている。約束の時間には、まだ30分以上あるし何処か涼しい所で会社情報のおさらいでもするか。

そう思い、周囲を見回すとイートインが併設されているコンビニがあるな。丁度良い、ここで冷たい物でも食べながら時間を潰そう。

「おっちゃん、暑いのに背広スーツ着て大変やな!」

コンビニの入り口の側に立っていた男の子が声を掛けて来た。黒いTシャツにデニムの半ズボン、歳は10歳くらいか? どこか憎めない人懐ひとなつっこそうな表情をした元気な子供だ。その子は私と一緒にコンビニの店内に入って来た。

「なになに? アイス食べるん? アイスええなあ~!」

私がアイスを置いてある冷蔵庫の前に行くと、男の子も付いて来て中を覗き込む。冷蔵庫の中からガリガリ君のソーダ味を取り出して買い物かごに入れようとするのをじっと見つめている。う~ん、仕方無い・・・。

「ん? 君も何か食べるか? 良かったら、ご馳走してあげよう。」

「え? ホンマ? ええの? やった~、ほしたら僕、コレ!」

本当は他所よその子供に物を買い与えてはいけないのだが、自分だけアイスを食べるのは少々気が引ける。私がうながすと男の子は迷わずにガリガリ君リッチのミックスベリーヨーグルト味を取り出して、買い物かごに入れた。それにしても一番高いヤツを選ぶとは抜け目の無い子だな。

「おっちゃん、その背広スーツ、ホンマカッコ良いなあ!」

イートインでアイスを食べ始めた途端、男の子はお世辞を言いながら私の背広スーツっつき出した。勘違いしてはいけない。私の背広スーツ姿が恰好かっこう良い訳では無い。その証拠に上着を脱いでテーブルの上に置いたら、男の子はその上着を面白そうに繁々しげしげと見つめているのだから。

「君、名前は? この辺りの子なのかな?」

「僕、又三郎またさぶろうって言うねん! 普段はこの辺りにはらへんよ。」

関西弁を話しているし、夏休みで親戚の家にでも遊びに来たのだろうか? このあたりはオフィス街だし、少し変だ。しかし迷子には見えない。

「おっちゃん、これからどこ行くん? 取引先に商談? ビジネスマンやな!」

「あ、違うぞ。おじさんは、これから面接を受けるんだ。次に働く会社に入れて貰うためにね。」

私は又三郎またさぶろう君にさとすように答えた。彼はじっと私の上着を見つめながら黙っている。そしてアイスを食べる。それを食べ終わると好奇心の強そうな眼差まなざしで私の目を見つめて、こう言った。

「おっちゃん、アイスごちそうさま。面接、上手い事いったらえね。応援してるで!」

「うん? ああ、有り難う。頑張るよ。」

彼は私の肩をバシバシ叩くとコンビニの外に出て行った。そして元気に駆けてゆく。何だか少し勇気を分けて貰ったような気がした。少し変わってる気もするが何処どこか憎めない愛嬌のある男の子だったな。何故だろうか、また会えそうな気がする。

「よし、良い具合に体も冷えたし時間も調整出来た。私もそろそろ行くか!」

そうひとちてイートインの席を立つ。コンビニを出て、ふと振り返るとさっき会計したレジのおばさん店員が驚いたような顔でこちらを見つめていた。

目的の会社はすぐそこだった。歩いて一分少々、「株式会社 クロイツ派遣」と言う人材派遣会社だ。面接の時間までは、あと10分ほど、丁度良い時間だ。私はビルの中に入り、エレベーターに乗り込む。面接があるのは五階、ボタンを押し扉が閉まるのを待った。

「あ、待って、待って~!」

ビルの入り口から若い男が走って来る。私は「開く」のボタンを押して待ってあげた。男がエレベーターに飛び込んで来る。若いが少しお腹が出ている。日頃、あまり運動していないか、不摂生してるのだろう。ネクタイも緩んでいて、服装もだらしない。

「君、七階のボタン押してよ。 早く早く、ドア閉じて! また誰か乗って来ちゃうだろ!」

自分がエレベーターを止めて飛び込んで来た割に随分な言い草だな。以前居た会社なら、この場で説教でもしてやりたいところだ。しかし今は面接を控える身、大人しくしておこう。私は黙って七階のボタンを押した。エレベーターが上昇を始める。

「よお、芹香せりかちゃん! 元気してる? 今度、みに行こうよ!」

二階でエレベーターが停まって、社員らしい若い女性が乗って来た。亜麻色の髪、妻や娘と同じ珍しい髪の色に少し注意を引かれる。だらしない青年社員が声を掛けた瞬間、彼女が身を固くするのに気付いた。

「どちらの階まで行かれますか?」

私は彼女に尋ねた。芹香せりかと呼ばれた女性はパネルを見て言う。

「五階で。あ、もう押してますね。このままで大丈夫です。」

エレベーターが再び上昇を始めた。何か視線を感じる。振り返ると、だらしない青年社員が私をつま先から頭まで舐めるように見ている。だが敵意は無いようだ。

「あの、私、何か失礼でも有りましたでしょうか?」

余りの居心地の悪さに私は思わず声を掛けた。正直、若い男性にこんな視線で見られるのは御免ごめんこうむる。実は私は所謂いわゆる「ホモ」と呼ばれる人々が大の苦手なのだ。同好の方同志での交流は自由だと思う。しかし私を巻き込まないで頂きたい。

「いやいや、社内であまり見ない人だなと思ってさ。 そう言えば、今日って面接あったっけ? ねえ、芹香ちゃん?」

「さ、さあ? 私は総務なので人事の事は良く知りません!」

綺麗な亜麻色の髪をした若い女性社員は、だらしない青年社員とは出来るだけ無関係で居たいらしい。さらに身を固くして私を見つめながらそばに寄り添って来た。

「あ、着きましたよ。お先にどうぞ。」

エレベーターが目的の五階に着いた。ドアが開いたので私は若い女性社員に促す。

「どうも、すみません。それではお先です!」

「それでは失礼します。」

私達は一緒に五階に降りる。エレベーターの中から、だらしない青年社員の舌打ちの音が聞えたが、えて無視した。若い女子社員さんは私をじっと見つめている。何処どこかで見たような・・・。

「あ、いけない、 もうこんな時間! 今日も有り難うございました。失礼します!」

亜麻色の髪の女性社員は私にお辞儀をするとエレベーター脇の階段を駆け上がってゆく。今日も? 何か引っ掛かるが私はそれどころでは無かった。もう面接が始まる時間の5分前が近いからだ。

「失礼します。本日、面接のご約束を頂いております。若林と申します。」

私は急ぎ足で人事部に行くと、中に入るなり受付の女性に告げる。程なくして私は応接室に通された。そこには二人の男性が居た。

「初めまして、私はこの会社の社長、亜土あどだ。まあ、そこに座り給え!」

何故か、人事部長の隣に社長がられる・・・。どういうことだ? 私は言われるままに勧められた席に座った。人事部長と自己紹介した人物が色々と質問をして来る。それに対して当たりさわりのない返答を返していると突然、亜土あど社長が立ち上がって宣言するように言い放った。

「うん、もう質問は良い。君、若林わかばやし君と言ったな? 採用だ、明日からでも出社して来なさい!」

自分でも信じられなかった。あんなに苦労していた再就職だが、決まるときは一瞬だったからだ。
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