FULUNAGAN

新妻泉子

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トライアウト 3

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ガーフィ・マグダエルJr.

 現最強と謳われる宗像むなかた忍士団に今年のドラフトで指名されたにも関わらず拒否をした異端児で、その話題もさることながら、各メディアや評論家から十年に一人の逸材と評されている男である。
 
「ガーフィ選手。宗像のドラフトを断りながら、なぜこのトライアウトに参加しようと思ったのですか?」
 
 質問した記者をガーフィは睨み付ける。
 
「あそこは規律やらOBがうるせえし。そういうの、死ぬほど嫌れえなんだわ」

 それから気怠そうに首を回した。

「雑魚チームなら気楽だろ。あとは負け組ボコって日頃のストレス発散しようってな」
 
 ガーフィは下品な高笑いを残し、受付を通さずに会場入り口へと向かう。この時点で、すでに待遇差があるのかとランスは思った。彼の存在は会場に詰め掛けた参加者にも波及し、徐々に諦めの声もチラホラと伝染していく。それはランスにとっても同じだった。間近で見たガーフィは、どの媒体で目にするよりも、悍ましい強者のオーラを身に纏っていた。受付で自分の番が回ってくる頃には完全に意気消沈し、帯びた熱も落胆と涼しげな春の夜風によって溶かされてしまっている。

「ひでえ面だな」
 
 その言葉にランスは顔を上げる。
 声の主は受付の黒人男性。パイプ椅子に腰掛け、手持ちの書類とランスの履歴書を照らし合わせている。
 
「そう睨むなよ」
 
 苦笑する男に、ランスは見覚えがあった。

「あんた、確か古長の……」
「アダムだ。金欠忍士団には人雇う余裕もねえときてる。最高だろ全く」
 
 そう言って一通り確認が終わると、書類に二つ判を押してからランスに手渡した。
 
「同情はする。噂のゴールデンルーキーが、名門蹴ってうちに来るとは誰も予想してなかったろう。だからって、んな面構えのままじゃ、どうもならん」
「……」

 ランスは眉を顰め、その場を立ち去ろうとする。
 
『ここで飯が食いたきゃ、常識被れのオツムは捨てるこった』
 
 踵を返したランスの背に、アダムの言葉がぶつかった。
 
『今も昔も変わらない。無謀な使命の遂行こそ忍者の生き甲斐だ。お前さんが目指してるプロってのは、その究極なんだ』
 
 それはランスの母国語だった。
 彼は振り返り、返却された履歴書へと視線を落とす。経歴の箇所に赤い丸が書かれていた。
 
「同郷……と言っても、俺はガキの頃こっちに来たから、思い出はないが」
 
 この国の言葉にアダムは戻っている。
 
「驚いた。あの田舎からプロ忍者になった人間いたとは……」
「ボスには参加者に肩入れすんなって釘刺されてる。まああれだ、先輩の戯言だと思って話半分で聞いてくれや」
 
 そして
 アダムは頬杖をつき口角を上げた。
 
「この業界に絶対はない。それだけ心に留めときゃ、面白れえ事があるかもな」
 
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