「ハートのリス」詩集

鏑木ダビデ

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望郷の孤独

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歩く。
この坂を下って。
走り続けた階段で、転んだ君の右足に擦り傷。
誰も、その傷を癒してはくれない。
子供の頃に、泣いていた、窓に映る、雨粒が、流れる景色に揺れる山の緑、はるかな望郷
走り回った。
木々の間を、独りで、すがるものもなく、青くさい匂いだけが、鼻を撫でる、揺れ草の鈴の音が、鳴っている、丘を下る家族が、笑っていた、憧れ。
君はひとり?
それとも二人?
僕は、君に話しかける。
いつも君のバッグに光るキーホルダーは、青いリス。
特殊な素材でつくられたその美しい輝きは、目の奥の黒い反射を映しこむ。
君の眼は、光っている。
陰りに揺れるこもれびが、口の端から漏れる吐息に泣いたあの夕暮れが、待っている、母を知らない君のその手。
つないだ指が、はなれた、僕は、後姿に輝くマリアのような十字架を夢みた愛はあるのか?
君は、はぐれた一人のリス。
顔を隠さないで。
そばにはいつも僕がいる、何て言えないけれど、君がたどってきたその道に花を添えることはできるかもしれない。
何の花?
白いコスモス、宇宙の愛の夢見花
走らないで、
焦らなくていい。
この坂を下りたら、待っている仲間が、君の泣いている、君の笑っている、君の生きていることが、大好きだよって、言って抱きしめてくれる本当の友情が、あるはず。
信じられない?
十字架ではなく、僕はリスの毛皮を負って、生きてきた。
君の痛みは知っている。
僕もそうやって生きてきた、いつ苦しみが終わるとも知れない、この果てしのない世界で。
ああ、黄昏が待っている。
僕と一緒に生きていこう。君がそう望めば、いつだって自由だよ。手を取り合って、生きていこうよ、そして、愛した分だけkissをしよう。これはリスの涙です。イエスに似ているけれど、僕は、抱きしめる愛人です。
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