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投げられた賽2
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そのうえ、新人である冴子が社長秘書に選ばれたことで、空気でしかない男性四人は別として、実権を握る女性三人との間に微妙な空気ができてしまった。冴子の上司である第一秘書の大槻健一は、中途採用者だが、もともと九陽グループの現・代表取締役会長兼CEOの望月公太の秘書だった男なので、別格扱いだ。その彼が冴子を選んだので誰も文句は言えなかった。理由は、秘書課の新人だったからに他ならない。
秘書として慣れた様子の、適度に華美な見栄えの良い女性陣の中で垢抜けていない、しかし、会社員として標準的なスーツ姿の冴子は大槻の目には好ましく映った。――野暮ったいスーツからでもありありとわかる曲線的な部位はこの際見ないことにして――、実直そうな雰囲気も気に入った。大槻は幼少から知る、会社員経験のない新社長の補佐役として、冴子を信頼できそうだと判断したのだった。
多大な数の関係者資料の暗記と、悪い女の園の針のむしろのような空気感の研修期間を終え、新年度を迎え、新社長と初顔合わせとなる日の朝。
冴子は秘書課と重役室のある最上階フロアの給湯室で、秘書課の全員分のコーヒーを用意していた。
新人は毎朝、フロアのトイレ掃除をして、八人分のカップと好みを把握し、砂糖とミルクも入れたコーヒーを用意し、各々のデスクに持っていかなければならないというルールがあるらしい。
それが冴子のために新設されたルールということは知っていたが、黙って従った。配属されてすぐに掃除に行き、清掃業者の年配女性に何かの間違いではないかと言われたし、歳の近い先輩はコーヒーマシンの使い方を知らなかったし、男性社員に「桐原さんが来てコーヒーを買いに行かなくなった」と喜ばれた。今では早朝出勤にも慣れ、清掃のおばちゃんとお喋りをしながらトイレ掃除をしている。殺伐としたオフィスでの業務よりこちらの方がずっと気楽だった。
大きなトレイに八個のマグカップを乗せて行かなくてはならないのはまだ慣れないが、後発の人の分のコーヒーが冷めない為の“気遣い”だと言われたので仕方ない。トレイを両手に細身のヒールのパンプスで歩くのは、毎日空中を綱渡りするような緊張感を強いられる。
よろよろしながら慎重にコーヒーを運ぶ冴子の前から、秘書課の三大美女、松原絵里、結城清香、秋元珠里が、ファッション雑誌から抜け出してきたかのような、きらびやかな格好で出社してくるのが見えた。松原はラグジュアリーな白、結城はハイクラスなモノトーン、秋元はフェミニンなパステルカラーを基調とし、ハイブランドのバッグを絡めてそれぞれの個性を出している。
秘書として慣れた様子の、適度に華美な見栄えの良い女性陣の中で垢抜けていない、しかし、会社員として標準的なスーツ姿の冴子は大槻の目には好ましく映った。――野暮ったいスーツからでもありありとわかる曲線的な部位はこの際見ないことにして――、実直そうな雰囲気も気に入った。大槻は幼少から知る、会社員経験のない新社長の補佐役として、冴子を信頼できそうだと判断したのだった。
多大な数の関係者資料の暗記と、悪い女の園の針のむしろのような空気感の研修期間を終え、新年度を迎え、新社長と初顔合わせとなる日の朝。
冴子は秘書課と重役室のある最上階フロアの給湯室で、秘書課の全員分のコーヒーを用意していた。
新人は毎朝、フロアのトイレ掃除をして、八人分のカップと好みを把握し、砂糖とミルクも入れたコーヒーを用意し、各々のデスクに持っていかなければならないというルールがあるらしい。
それが冴子のために新設されたルールということは知っていたが、黙って従った。配属されてすぐに掃除に行き、清掃業者の年配女性に何かの間違いではないかと言われたし、歳の近い先輩はコーヒーマシンの使い方を知らなかったし、男性社員に「桐原さんが来てコーヒーを買いに行かなくなった」と喜ばれた。今では早朝出勤にも慣れ、清掃のおばちゃんとお喋りをしながらトイレ掃除をしている。殺伐としたオフィスでの業務よりこちらの方がずっと気楽だった。
大きなトレイに八個のマグカップを乗せて行かなくてはならないのはまだ慣れないが、後発の人の分のコーヒーが冷めない為の“気遣い”だと言われたので仕方ない。トレイを両手に細身のヒールのパンプスで歩くのは、毎日空中を綱渡りするような緊張感を強いられる。
よろよろしながら慎重にコーヒーを運ぶ冴子の前から、秘書課の三大美女、松原絵里、結城清香、秋元珠里が、ファッション雑誌から抜け出してきたかのような、きらびやかな格好で出社してくるのが見えた。松原はラグジュアリーな白、結城はハイクラスなモノトーン、秋元はフェミニンなパステルカラーを基調とし、ハイブランドのバッグを絡めてそれぞれの個性を出している。
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