上 下
21 / 28

投げられた賽2

しおりを挟む
 そのうえ、新人である冴子が社長秘書に選ばれたことで、空気でしかない男性四人は別として、実権を握る女性三人との間に微妙な空気ができてしまった。冴子の上司である第一秘書の大槻健一は、中途採用者だが、もともと九陽グループの現・代表取締役会長兼CEOの望月公太の秘書だった男なので、別格扱いだ。その彼が冴子を選んだので誰も文句は言えなかった。理由は、秘書課の新人だったからに他ならない。
 秘書として慣れた様子の、適度に華美な見栄えの良い女性陣の中で垢抜けていない、しかし、会社員として標準的なスーツ姿の冴子は大槻の目には好ましく映った。――野暮ったいスーツからでもありありとわかる曲線的な部位はこの際見ないことにして――、実直そうな雰囲気も気に入った。大槻は幼少から知る、会社員経験のない新社長の補佐役として、冴子を信頼できそうだと判断したのだった。

 多大な数の関係者資料の暗記と、悪い女の園の針のむしろのような空気感の研修期間を終え、新年度を迎え、新社長と初顔合わせとなる日の朝。
 冴子は秘書課と重役室のある最上階フロアの給湯室で、秘書課の全員分のコーヒーを用意していた。
 新人は毎朝、フロアのトイレ掃除をして、八人分のカップと好みを把握し、砂糖とミルクも入れたコーヒーを用意し、各々のデスクに持っていかなければならないというルールがあるらしい。
 それが冴子のために新設されたルールということは知っていたが、黙って従った。配属されてすぐに掃除に行き、清掃業者の年配女性に何かの間違いではないかと言われたし、歳の近い先輩はコーヒーマシンの使い方を知らなかったし、男性社員に「桐原さんが来てコーヒーを買いに行かなくなった」と喜ばれた。今では早朝出勤にも慣れ、清掃のおばちゃんとお喋りをしながらトイレ掃除をしている。殺伐としたオフィスでの業務よりこちらの方がずっと気楽だった。
 大きなトレイに八個のマグカップを乗せて行かなくてはならないのはまだ慣れないが、後発の人の分のコーヒーが冷めない為の“気遣い”だと言われたので仕方ない。トレイを両手に細身のヒールのパンプスで歩くのは、毎日空中を綱渡りするような緊張感を強いられる。
 よろよろしながら慎重にコーヒーを運ぶ冴子の前から、秘書課の三大美女、松原絵里、結城清香、秋元珠里が、ファッション雑誌から抜け出してきたかのような、きらびやかな格好で出社してくるのが見えた。松原はラグジュアリーな白、結城はハイクラスなモノトーン、秋元はフェミニンなパステルカラーを基調とし、ハイブランドのバッグを絡めてそれぞれの個性を出している。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

処理中です...