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投げられた賽

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 翌日から亮の店のある東口を通らないように大回りして西口から電車に乗るようにして出勤時間を15分早めなければならなくなった。年末ということもあり、残業と休日出勤が続き、寄り道する余裕など全くなくなった。正月休みは実家で過ごすつもりだったが、休んだ気にならないので、二日には自分のアパートに戻り、ひたすら家にこもって四日から出社した。新年会の帰りに高峯にタクシーで送ってもらった時に亮の店の前を通ると、『FOR RENT 入居者募集中』という看板が掛かっており、自ら離れていったのに、さっさと捨てられたような悲しい気持ちになった。
 飲み会の帰りに送ってはもらったが、高峯は十歳年上で、他県からの単身赴任中の既婚者なので、変な雰囲気にもならず、職場の延長の空気で、互いに礼儀正しく家の前で別れた。タクシーの中でも、もっぱら仕事の話か、プライベート的な話題は高峯の小一と年少の娘の話で、冴子は気負うことなく同乗できた。降り際に今度の人事査定楽しみにしていろと微笑みかけられ、曖昧に笑い返して頷いた。

 十二月二十日に冴子の勤める会社の総括グループの会長の望月もちづき公造こうぞうが亡くなり、人事が慌ただしくなった。どうやら会長の孫の一人が新年度から新社長に就任するという。統括グループは旧財閥系企業の九陽で、重工業を祖とした、金融、商社、不動産の四柱を主軸に多岐にわたる日本のトップ企業。
 だが、冴子の勤める会社は、地方都市の企業としては一流だが、九陽グループのヒエラルキーの底辺。天孫降臨と比喩されているが、その実とんでもないボンクラのお守りをさせられるのではないかと不安視されている。
 そして、年度末に公表された辞令で、冴子は総務部の秘書課への移動が命じられた。高峯が推薦したらしい。学生時代に「持ってたらかっこいいかも」というミーハーな理由で取得していた秘書検定準一級が役に立った。プライベートは散々だが、仕事では大抜擢を受けたと喜んでいたのだが、流行遅れのインフルエンザに罹り、新任式と入社式を兼ねたセレモニーパーティに出席できなかった。
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