17 / 28
後悔先に立たず
しおりを挟む
規則的な電子音が心地よい眠りの邪魔をする。冴子は半覚醒の思考回路で目覚まし時計を探そうと手を伸ばしかけて、思い出した。ここは、自宅ではない。そして、あの音はうちのアラームではない。アラーム音と思っていたがどうやら着信音だったようだ。
「はいもしもし」
腕枕が遠慮がちに抜かれようとしているので顔を上げると、亮がギョッとした顔をして、耳に当てていたスマートフォンを腹の辺りに押し当てた。
「ごめん、起こした?」
「あ、ううん。大丈夫……」
『ちょっと!! もしもし!? 聞こえてる!? あなたいつこっち帰ってくるの!? リオも待ってるのよ!?』『ママ、リオにもかわって~~! あ、パパ~』『あ、こら、リオだめ返して!! って、亮ちゃん!?』
スピーカーフォンなのか、遠いが女性の声と小さな女の子の声が漏れてきた。亮が画面をタップする。
「悪い。ちょっと待ってて」
青い顔をして慌てふためいてベッドから出ていく。
「聞こえてるって。デカい声出すなよ。あとちゃん付けやめろ」
と不満げに言いながら玄関から出て行った。
女性と女の子の声。冴子は頭の中で反芻する。パパ……? 頭の中がサァッと冷えていく。
冴子は部屋の明かりをつけると、亮のスエットを脱いで、脱衣所に置きっぱなしにしていた自分の服に着替えた。
最低。最低。最低。最低。半自動的に頭の中でくり返される呪詛。知らなかったとはいえ不倫じゃないか。最低。最低。最低。最低。自分への呪いも重なっていく。
幸い玄関のところに持ってきていた荷物もあった。バッグからスマートフォンを探し、時間を確認する。午前六時を回ったところだ。靴を履き、ドアノブに手をかけた。
「うん。うん。わかった、すぐ帰る。じゃあ、兄貴たちとお義姉さんにもよろしく。はい。はーい、じゃね」
ガチャリとドアが開く。通話を終えた亮がスマートフォンをスエットパンツのポケットに入れたところだった。
「うわ! ビビった。そんなとこにいたの、って、着替えたんだ? あ、今の聞こえてた? ごめん、実は急で悪いんだけど、」
「言われなくても帰りますから、どうぞご心配なく」
「あ、いや。おれとしては帰ってほしくないんだけど……」
「は? こんな時に、よくそんなこと言えますね」
「あ……。そうだよね、ごめん。不謹慎だよね」
「不謹慎にもほどがあります」
「……すいません。そうだ、じゃあ、連絡先交換しよう。また会いたいし」
「嫌よ! そんなことしてる場合じゃないでしょ!? 早く帰りなさいよ!!」
「え、ええ? 何いきなり……」
冴子は進路をふさぐ男を押し退け、部屋を飛び出した。
「ま、待って待ってさえちゃん」
「来ないでよ! ろくでなし!!」
「はァ!? なんだよ突然!! おれが何したっていうんだよ」
「大声出してたら近所迷惑でしょ! ご近所さんに聞かれるわよ! さよなら!!」
駆け足で階段を降りる。悔しくて、腹立たしい。一発くらい殴っておけばよかったと後悔した。
「はいもしもし」
腕枕が遠慮がちに抜かれようとしているので顔を上げると、亮がギョッとした顔をして、耳に当てていたスマートフォンを腹の辺りに押し当てた。
「ごめん、起こした?」
「あ、ううん。大丈夫……」
『ちょっと!! もしもし!? 聞こえてる!? あなたいつこっち帰ってくるの!? リオも待ってるのよ!?』『ママ、リオにもかわって~~! あ、パパ~』『あ、こら、リオだめ返して!! って、亮ちゃん!?』
スピーカーフォンなのか、遠いが女性の声と小さな女の子の声が漏れてきた。亮が画面をタップする。
「悪い。ちょっと待ってて」
青い顔をして慌てふためいてベッドから出ていく。
「聞こえてるって。デカい声出すなよ。あとちゃん付けやめろ」
と不満げに言いながら玄関から出て行った。
女性と女の子の声。冴子は頭の中で反芻する。パパ……? 頭の中がサァッと冷えていく。
冴子は部屋の明かりをつけると、亮のスエットを脱いで、脱衣所に置きっぱなしにしていた自分の服に着替えた。
最低。最低。最低。最低。半自動的に頭の中でくり返される呪詛。知らなかったとはいえ不倫じゃないか。最低。最低。最低。最低。自分への呪いも重なっていく。
幸い玄関のところに持ってきていた荷物もあった。バッグからスマートフォンを探し、時間を確認する。午前六時を回ったところだ。靴を履き、ドアノブに手をかけた。
「うん。うん。わかった、すぐ帰る。じゃあ、兄貴たちとお義姉さんにもよろしく。はい。はーい、じゃね」
ガチャリとドアが開く。通話を終えた亮がスマートフォンをスエットパンツのポケットに入れたところだった。
「うわ! ビビった。そんなとこにいたの、って、着替えたんだ? あ、今の聞こえてた? ごめん、実は急で悪いんだけど、」
「言われなくても帰りますから、どうぞご心配なく」
「あ、いや。おれとしては帰ってほしくないんだけど……」
「は? こんな時に、よくそんなこと言えますね」
「あ……。そうだよね、ごめん。不謹慎だよね」
「不謹慎にもほどがあります」
「……すいません。そうだ、じゃあ、連絡先交換しよう。また会いたいし」
「嫌よ! そんなことしてる場合じゃないでしょ!? 早く帰りなさいよ!!」
「え、ええ? 何いきなり……」
冴子は進路をふさぐ男を押し退け、部屋を飛び出した。
「ま、待って待ってさえちゃん」
「来ないでよ! ろくでなし!!」
「はァ!? なんだよ突然!! おれが何したっていうんだよ」
「大声出してたら近所迷惑でしょ! ご近所さんに聞かれるわよ! さよなら!!」
駆け足で階段を降りる。悔しくて、腹立たしい。一発くらい殴っておけばよかったと後悔した。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
Fly high 〜勘違いから始まる恋〜
吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。
ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。
奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。
なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる