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凍える月と熱い夜5

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「え。まさかとは思いますが、私、口説かれてます?」
 本気にしないように笑って見せる。が、真っ赤に染まった亮の顔を見て、冗談混じりの笑いが失せた。
「実は……、ちょっと色々あって、店をたたまなきゃなんないかも知れなくて……。いや、それより、常連の冴子ちゃんにこんな事言うべきじゃないのはわかってるんだけど、その、おれ、君のことが……」
 亮はそこまで言うと手のひらで口元を押さえた。
 冴子は全身が心臓になってしまったような感覚で、意識が半ば宇宙に投げ出されたように遠くなっていた。
 え。嘘。亮さんが、私を口説いてる? そして、なんか、私のことが……? え、私のことが何?
「……ごめん。キモいよね。聞かなかったことに――、」
「嫌です! 今の、聞かなかったことになんかできません!」
 空きっ腹でジンとリキュールはまずかったかもしれない。いつもよりずっと大胆な気分だ。亮の傍に歩み寄る。
「私だって、亮さんのこと……!」
 ふと、差し込まれる理性。好きって言っていいのか、二十八歳。きっと亮もアラサーの理性が差したに違いない。好きって言う歳か? と。
「え、えーっと、じゃあ、その、まあ、なんだ……」
 ンンッと亮が咳払いをする。
「おれが冴子ちゃんに触れても、問題ない?」
「む、むしろ、全然ウエルカムというか……」
 思わず俯いた冴子の頬に、亮が四指を当てる。指先で耳の下のラインから顎を撫でられ、軽く持ち上げられる。されるがまま上をむくと、軽く唇を奪われた。
 仕事が早い!! と内心叫んだが、同時に心のガッツポーズも決めている。
「ごめん、我慢できなくて。もっとしていい?」
 返事の代わりに今度は冴子からキスをすると、強く抱き寄せられた。冴子も亮の太い首に抱きつく。
 彼の我慢はどれほどのものだったのだろうか。激しさを増した口づけに、冴子の本能が掻き立てられる。舌を絡ませ合いながら、爆ぜた想いをぶつけ合う。
「わたしずっと、亮さんと、こうしてみたかった」
 口づけの合間にそう零せば、蕩けていたような亮の目つきが変わった。鋭く光る眼は獲物を捕らんとする捕食者のそれだ。
「おれ、冴子ちゃんにもっと違うことしたいけど、いい?」
 互いの熱い吐息がバイオレットリキュールを醸す。
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