一度私が振ったらしい美形の歳下ワンコくんが溺愛してきます。

森野きの子

文字の大きさ
上 下
49 / 50

49

しおりを挟む
 そうか。今日TGFか。だからあの二人、気を使ってくれたのかな。私が外されてたのは、私以外周知の沙汰だったってこと? まあ、たしかにそう親しくもない新人のことをいちいち構ってられるほど暇な店じゃないもんね。あの二人は例外で。それに、新人に任せるくらいなら、系列店の経験者を選ぶよ。っていうか、最初からそうしたらいいじゃない。
 あー。私、自覚が足りなかったけど、結構悔しいんだな。仕方ないと思っていたけど、なんか、やっぱり、こういう仕打ち、悔しいな。かといって、別に何ができるわけでもないけど。モヤモヤしつつ、開店時間とほぼ同時にカットとカラーの指名予約が入ったり、飛び込みの新規さんが来たり、いつも通りあっという間に時間は過ぎていく。
 昼は昨日のデリの残りを持ってきたのでいつもより豪華だ。淳くんに今日は練習で遅くなると連絡を入れて、急いで食事を終わらせて、午後の予約に備える。そして閉店後の練習をして終わったら、二十三時を回っていた。今から麻布に帰るのちょっと億劫だな……。自分の家に帰ろうかな……。遅くなっちゃったし、まあ仕方ないよね。とスマホを見ると、終わったら教えてと淳くんからメッセージがきていた。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様」
 店の戸締りをして解散する。店の前にやけに大きな白い車が停まっていて、ちょっと怖い。アシスタントの子たちは例のたこ焼き屋さんに行くらしい。
〖遅くなったので、今夜は自分の家に帰ります〗
 送信、と。
 歩いていると、五分も経たずに淳くんから電話がかかってきた。
「もしもし?」
『栞乃さん今日こっち帰ってこないの?』
「あー。うん。遅くなっちゃったし」
『でも迎えやっちゃったよ。店の近くに白いSUV停まってなかった?』
 白いSUV? もしかして、さっきのいかついアレ? 店の方を振り返る。
「白い車って、なんかすごく大きいの?」
『んー。わかりやすいように目立つやつにしたんだけど』
 と私でも聞いたことのあるアメリカ大統領と同じ名前がでてきた。胴の長い車だけじゃないんだ。
『おれ、ちょっと仕事の都合で出れなくて、代わりにマネージャーに行ってもらったんだ』
「マネージャー?」
『うん。斉藤さんの息子で、柊一しゅういちくんっていうんだけど、スケジュール管理とか車の運転とかしてもらってる。気弱だから優しめに接してあげて。でもかっこいいから好きになっちゃダメだよ』
「ほお~……。そんなにかっこいいの?」
『うん。男前だね』
「へえ~。で、気弱なの?」
『うん。ちょっと繊細というか……。え。なに? 栞乃さん、柊一くんに興味津々?』
「淳くんが男前っていうから……」
『うわー。でもダメだから! 柊一くん、超怖がりだから、グイグイいくの無理だからね!』
「いや、いかないし……。私の信頼度低くない?」
『だって……。おれ、栞乃さんに付き合ってもらってるって感じだし……。本当はもっと年上のいい人とかいたんじゃないかって思うし……』
「今さらそういうこと言うのどうかと思うよ」
『う。ごめん、なさい……』
「それに私が今まで全く縁がなかったのわからなかった?」
『興味無いと思われてたんじゃないかな?』
「そうかも。早く美容師になりたかったし、って、こんな長話してて大丈夫?」
『あ、そうだ。なるべく早く終わらせて帰るからあっちで待っててほしいな』
「わかった」
『じゃあ、仕事戻るね。変なこと言ってごめんね。栞乃さんも遅くまでお疲れ様。おやすみ』
「ううん。淳くんも。じゃ、おやすみ」
『ん。またあとでね』
「はーい」
『声聞けてよかった。このあともう少し頑張れる』
「遅くまで頑張っててえらい」
『ありがとう。帰ったら栞乃さんがいると思うと俄然やる気出た』
「それはよかった。じゃあ、また後で。寝てるかもだけど」
『また襲っちゃったらごめんね』
「ごめんじゃないです。襲わないでください。ほら早く戻って」
『触れる距離に栞乃さんがいたら無理です。ほんとごめんなさい。抑えられない。足りないもん。あー。もう帰りたい』
「ほら、もういいから仕事に戻ってください」
『はーい……。じゃあ、またあとでね』
「はいはい。おやすみなさい」
『ちゅーしたい。抱きしめたい。あーもうヤダ。帰りたい。いま会いたい。今すぐ抱……』
「はーい。じゃあね。おうちで待ってるね。バイバーイ」
 と一方的に通話を切る。ポコポコとメッセージの通知音が。
〖ひどい〗
〖かぶせ気味に切らなくても〗
〖やる気萎えた〗
〖かなしい〗
 わー。なかなかめんどくさい子。恋愛中じゃなかったら引いてる。
〖電話で話すより早く帰ってきてほしいから仕事頑張って〗
 送信。そして、待つこと五秒。
〖そっこーで終わらせる!!〗
 素直で可愛いなあ。なんでこんな可愛い子が私と付き合ってんだろう。
 スマホをしまって、店の前に戻ると、やっぱりまだ白のでっかいSUVがある。これだよね? とウロウロしてたら運転席から人が降りてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...