46 / 50
46
しおりを挟む ひき逃げ事故から三ヶ月。
骨折やその他の怪我が無事完治した女は、大学の講義中に居眠りをしていた。
事故以降、女は突然眠気に襲われ、ぼんやりとすることがある。
詳しい検査もしてもらったが、何度調べてもらっても健康体で、原因はわからないと言われた。
「事故に遭った時に頭を打ったことが、なにか影響しているかもしれない。頭のことになるから、違和感を覚えたらすぐに病院に来るように」と女は医者から言われている。
療養中は眠気を感じても、実際に眠ってしまうことはなかったが、今日は久しぶりの講義で、講義内容を理解できず、眠気に誘われるまま眠りに落ちていた。
女は夢を見る。
友人たちと大学構内を歩き、雑談をしている。
「来週の大型連休に旅行へ行こう」と、隣を歩く彼女が言う。
何人か、こちらをチラチラと見てきた。
こちらに気を使っているようだ。
「まだ本調子じゃないし、わたしは遠慮しとくね」
そう友人たちに伝える。
体を揺すられ、女は目を覚ました。
講義はすでに終わっており、教室から学生が続々と退出している。
その中で眠り続ける女を、友人が心配し起こしてくれたようだ。
少し眠ったおかげで女の意識は、はっきりとしているが、頭に締め付けられるような痛みを少し感じた。
女を起こした友人が、心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫? 保険センターまで付き添おうか?」
「……少し眠かっただけだから大丈夫よ。起こしてくれて助かったわ。ありがとうね」
「それならいいけど……他のみんなは先に食堂に行って、席を取ってくれてるから、食べれそうなら一緒に行こう」
さっき出たばっかりだから、すぐに追いつくだろうけど、と彼女は女の荷物をさり気なく持ち、女を先導した。
友人の気遣いに感謝し、彼女と共に食堂に向かうと、教室を出てすぐに他の友人たち五人に追いついた。
どうやら会話が盛り上がり、歩みが遅くなっているようだ。
「これじゃあ、先に行ってもらった意味がないじゃないの」
女の荷物を持った彼女が、隣でぶつくさと小声で愚痴をこぼす。
女はその愚痴が聞こえなかった振りをして、そのまま集団に合流した。
七人になった集団で食堂へ向かう。
女は集団の一番後ろを歩き、隣には荷物を持ってくれている彼女が歩いていた。
(夢で見た光景と似ている……似てるけど、少し違う?)
夢で見た友人たちとは、何人か顔ぶれが違っていた。
(違っているけど、夢で見たのはみんな知り合いだったし、夢なんてそんなものね)
痛みの引かない頭を、なでるように押さえる。
すると、前を歩いている友人が振り向いた。
「来週のゴールデンウィークに、みんなで旅行とかどうかな?」
さっきもこの話で盛り上がってたんだよ、と楽しげに話してきた。
女の頭に強い痛みが走る。
夢と現実の差異、似ているのに確かに違う。
その世界のズレが、女の中で歪みになり、痛みに変わっていく。
女は思わず顔をしかめた。
その反応に友人たちに緊張が走る。
一瞬、沈黙が空間を支配した。
すぐに女は自身の失態に気づく。
「ごめんなさい、まだ本調子ではないみたいなの。みんなは楽しんできてね」
だから私達のことは気にしなくていいわと、つけ入る隙もなく言い切る。
その後、気まずげな友人たちと一緒に昼食を済ませた。
そして、頭の痛みを診てもらうため、午後の講義を自主休校にし、女は病院へ向かった。
骨折やその他の怪我が無事完治した女は、大学の講義中に居眠りをしていた。
事故以降、女は突然眠気に襲われ、ぼんやりとすることがある。
詳しい検査もしてもらったが、何度調べてもらっても健康体で、原因はわからないと言われた。
「事故に遭った時に頭を打ったことが、なにか影響しているかもしれない。頭のことになるから、違和感を覚えたらすぐに病院に来るように」と女は医者から言われている。
療養中は眠気を感じても、実際に眠ってしまうことはなかったが、今日は久しぶりの講義で、講義内容を理解できず、眠気に誘われるまま眠りに落ちていた。
女は夢を見る。
友人たちと大学構内を歩き、雑談をしている。
「来週の大型連休に旅行へ行こう」と、隣を歩く彼女が言う。
何人か、こちらをチラチラと見てきた。
こちらに気を使っているようだ。
「まだ本調子じゃないし、わたしは遠慮しとくね」
そう友人たちに伝える。
体を揺すられ、女は目を覚ました。
講義はすでに終わっており、教室から学生が続々と退出している。
その中で眠り続ける女を、友人が心配し起こしてくれたようだ。
少し眠ったおかげで女の意識は、はっきりとしているが、頭に締め付けられるような痛みを少し感じた。
女を起こした友人が、心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫? 保険センターまで付き添おうか?」
「……少し眠かっただけだから大丈夫よ。起こしてくれて助かったわ。ありがとうね」
「それならいいけど……他のみんなは先に食堂に行って、席を取ってくれてるから、食べれそうなら一緒に行こう」
さっき出たばっかりだから、すぐに追いつくだろうけど、と彼女は女の荷物をさり気なく持ち、女を先導した。
友人の気遣いに感謝し、彼女と共に食堂に向かうと、教室を出てすぐに他の友人たち五人に追いついた。
どうやら会話が盛り上がり、歩みが遅くなっているようだ。
「これじゃあ、先に行ってもらった意味がないじゃないの」
女の荷物を持った彼女が、隣でぶつくさと小声で愚痴をこぼす。
女はその愚痴が聞こえなかった振りをして、そのまま集団に合流した。
七人になった集団で食堂へ向かう。
女は集団の一番後ろを歩き、隣には荷物を持ってくれている彼女が歩いていた。
(夢で見た光景と似ている……似てるけど、少し違う?)
夢で見た友人たちとは、何人か顔ぶれが違っていた。
(違っているけど、夢で見たのはみんな知り合いだったし、夢なんてそんなものね)
痛みの引かない頭を、なでるように押さえる。
すると、前を歩いている友人が振り向いた。
「来週のゴールデンウィークに、みんなで旅行とかどうかな?」
さっきもこの話で盛り上がってたんだよ、と楽しげに話してきた。
女の頭に強い痛みが走る。
夢と現実の差異、似ているのに確かに違う。
その世界のズレが、女の中で歪みになり、痛みに変わっていく。
女は思わず顔をしかめた。
その反応に友人たちに緊張が走る。
一瞬、沈黙が空間を支配した。
すぐに女は自身の失態に気づく。
「ごめんなさい、まだ本調子ではないみたいなの。みんなは楽しんできてね」
だから私達のことは気にしなくていいわと、つけ入る隙もなく言い切る。
その後、気まずげな友人たちと一緒に昼食を済ませた。
そして、頭の痛みを診てもらうため、午後の講義を自主休校にし、女は病院へ向かった。
5
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる