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今から向かうとメッセージを送って、待ち合わせのデリカテッセンに行くと、小野塚くんはデリの紙袋をぶら下げて入口の前に立っていた。筋肉のラインがうっすらわかる七分袖のカットソーにサルエルパンツ、昨日と一転してラフなのに、色気が染み出してきてる。生地が薄いせい? 鎖骨? 私に気づくと、空いてる方の手を挙げてニッと笑った。
「ごめんね、お待たせ」
「ううん。はい、鍵。忘れないうちに返しとくね」
と、ピンクのメタリックな鈴のキーホルダーがついた鍵を見せ、差し出した私の手のひらに置いた。
「帰ろうか」
私がいうと、小野塚くんは頷いた。
「でも、今夜はおれんちにしよ」
そういえば、お隣さんから苦情きてたんだった。
「……ごめんね。私のせいで」
思い返すと恥ずかしくて茹だりそうだ。
「えー。そこはおれのせいでしょ」
意味ありげにどこか得意気に微笑む。
「そういうの、いいって! いらないから!」
頭の中で肌色のあれこれが自動再生される。ぶわわーっと顔が熱くなった。
一度素肌を見てしまったら、服を着てるほうがいかがわしいのではないかと思える。もちろん、公然で全裸を推奨、という意味ではない。世のカップルたちは、互いの服の下を知りながら何食わぬ顔で歩いてるのか。そんなのいやらしくない?
「いこ」
と、私の手を取って指を絡める。見た目よりずっとゴツゴツしてる。ふわりと小野塚くんの香水が香って、ドキッとした。今日は甘めで深い温かみのあるウッド系の香り。うわ。なんか撫でられた指に照れる。
「小野塚くんの部屋何年ぶりだろう」
「前のとこから引っ越したよ。今麻布」
「え? 実家?」
「違うよ。実家は松濤だもん。え。おれの親に挨拶してくれる?」
私は思いっきりもげるくらい首を左右に振る。違う。そうじゃない。
「引っ越したっていうから、実家に戻ったのかと思ったの。そもそも実家だったらこんな格好でこんな時間から行けるわけないから」
「大丈夫。おれしかいないし、防音も完璧だから安心していいよ」
「そういうこと言わないでよ」
ひと睨みしても、小野塚くんの頬は緩んだまま。
「あはは、ごめんって」
「やっぱり一旦家戻っていい? 服とか取りに行きたい」
「うん。そうだね。どうせならもうおれんち住めば? 立ち退きしなきゃいけないんでしょ?」
あ。やば。大家さんの対応までしてもらってたんだ。
「大丈夫だよ。何とか期日までに探すし、最悪、会社に相談してみるし。ごめんね、変に気遣わせちゃって」
「気遣っていってると思ってる? 本気で?」
「だって、小野塚くん優しいから……、え? 同情してくれてるんじゃないの?」
「そんなわけないじゃん」
意地悪な笑みを浮かべて私の手をにぎにぎと握る。
「そこまで言い切られると逆に気遣っててほしい!」
「まあまあ。とりあえずお試しで何日かルームシェアしよう」
「でも……」
「交際0日で結婚する例もあるんだし、交際一日で同棲もありなんじゃない?」
「ありかな?」
「ありあり。やっぱ願望は口にすると成就するね。さあ、急げ」
大股で歩き出したので、私は小走りになる。通りでタクシーを拾い、私のアパートに寄る。そのまま小野塚くんをタクシーに待たせて、とりあえず一週間分の荷造りをする。メイク道具は持ってこなくても大丈夫だと言われたけれど、スキンケアとメイクアップの最低限のものと、下着と衣類と必要な日用品をボストンバッグに詰める。なんだか非現実的で、ただただドキドキしてきた。
「ごめんね、お待たせ」
「ううん。はい、鍵。忘れないうちに返しとくね」
と、ピンクのメタリックな鈴のキーホルダーがついた鍵を見せ、差し出した私の手のひらに置いた。
「帰ろうか」
私がいうと、小野塚くんは頷いた。
「でも、今夜はおれんちにしよ」
そういえば、お隣さんから苦情きてたんだった。
「……ごめんね。私のせいで」
思い返すと恥ずかしくて茹だりそうだ。
「えー。そこはおれのせいでしょ」
意味ありげにどこか得意気に微笑む。
「そういうの、いいって! いらないから!」
頭の中で肌色のあれこれが自動再生される。ぶわわーっと顔が熱くなった。
一度素肌を見てしまったら、服を着てるほうがいかがわしいのではないかと思える。もちろん、公然で全裸を推奨、という意味ではない。世のカップルたちは、互いの服の下を知りながら何食わぬ顔で歩いてるのか。そんなのいやらしくない?
「いこ」
と、私の手を取って指を絡める。見た目よりずっとゴツゴツしてる。ふわりと小野塚くんの香水が香って、ドキッとした。今日は甘めで深い温かみのあるウッド系の香り。うわ。なんか撫でられた指に照れる。
「小野塚くんの部屋何年ぶりだろう」
「前のとこから引っ越したよ。今麻布」
「え? 実家?」
「違うよ。実家は松濤だもん。え。おれの親に挨拶してくれる?」
私は思いっきりもげるくらい首を左右に振る。違う。そうじゃない。
「引っ越したっていうから、実家に戻ったのかと思ったの。そもそも実家だったらこんな格好でこんな時間から行けるわけないから」
「大丈夫。おれしかいないし、防音も完璧だから安心していいよ」
「そういうこと言わないでよ」
ひと睨みしても、小野塚くんの頬は緩んだまま。
「あはは、ごめんって」
「やっぱり一旦家戻っていい? 服とか取りに行きたい」
「うん。そうだね。どうせならもうおれんち住めば? 立ち退きしなきゃいけないんでしょ?」
あ。やば。大家さんの対応までしてもらってたんだ。
「大丈夫だよ。何とか期日までに探すし、最悪、会社に相談してみるし。ごめんね、変に気遣わせちゃって」
「気遣っていってると思ってる? 本気で?」
「だって、小野塚くん優しいから……、え? 同情してくれてるんじゃないの?」
「そんなわけないじゃん」
意地悪な笑みを浮かべて私の手をにぎにぎと握る。
「そこまで言い切られると逆に気遣っててほしい!」
「まあまあ。とりあえずお試しで何日かルームシェアしよう」
「でも……」
「交際0日で結婚する例もあるんだし、交際一日で同棲もありなんじゃない?」
「ありかな?」
「ありあり。やっぱ願望は口にすると成就するね。さあ、急げ」
大股で歩き出したので、私は小走りになる。通りでタクシーを拾い、私のアパートに寄る。そのまま小野塚くんをタクシーに待たせて、とりあえず一週間分の荷造りをする。メイク道具は持ってこなくても大丈夫だと言われたけれど、スキンケアとメイクアップの最低限のものと、下着と衣類と必要な日用品をボストンバッグに詰める。なんだか非現実的で、ただただドキドキしてきた。
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