一度私が振ったらしい美形の歳下ワンコくんが溺愛してきます。

森野きの子

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 夜だし、どうしよう。さっぱりしたものがいいかな。

 再び、広尾のショッピングモールで手土産を考えていると、小野塚くんから着信があった。今どこにいるのか訊かれたので、広尾のショッピングモールだと答えると、買い物ついでに来るという。

 待ってもらうことになるけどと断ると、イートインなら沢山あるし、すぐ会いたいから近くで待ってると返ってきた。憂鬱だった気分がすこし和らぐ。

 スマホをしまって決めかねていた手土産選びを再開する。目に止まったキラキラと輝くビジューのような果肉たっぷりのフルーツジュレに決め、小野塚くんと自分用のお土産も購入してしまった。


「こんばんは」

 病室に入ってきた私を見て、多田さんが微笑んだ。一度目よりお互いの間の空気感はなんとなく和やかだ。

「どうしたの? またお見舞いにきてくれるなんて、何かあった?」

「そうだよね。そう思うよね」

 といいつつ、手土産を渡す。

「ありがとう! こないだのエクレア美味しかった」

「本当? よかった。それはそうと、多田さんに良くないニュースを持ってきたの」

「え。なあに? こわいんだけど」

「Sakitoさん、私を外して原宿店のスタイリストと組んだみたい。多田さんのウィッグとレシピはちゃんと持っていった」

「うそ」

 多田さんが瞠目する。

「私、今日他の人から聞くまで知らなかったの。自分の間抜けさと多田さんの作品持っていかれたのが悔しくて。なんの力にもなれなくてごめんなさい」

「横取りされるのは織り込み済みだったから気にしないで。それより、井上さん、無駄に振り回されちゃったね」

「私には実害がないので別に平気」

「気分は害したと思うけど」

「入ったばかりの新人には荷が重すぎたから。でも、あの作品を作った多田さんの方がショックだったんじゃないかと思って……」

「井上さん、優しいんだね」

「よしてよ、本気にしちゃうじゃない」

「本当だって」

 多田さんがクスクス笑う。

「いいの。私も平気。あれは確かに私が考えたけど、アイツに盗られるのはわかっていたから」

「そんな……」

「井上さんにお見舞いに来てもらってこうして美味しもの食べられたし、話すキッカケもできてよかった」

「多田さん……」

「それにしても今回はがっかりさせられたね。日本最大のファッションショーに参加できなくて。冬木透子とか麻上翔太とか、サプライズゲストで小野塚淳も来るんだよ」

 日本を代表する美容家とヘアメイクアーティストの大御所と並んで出てきた名前にドキッとした。

「いつかメインスタイリストとして店から選抜されたいよね。Sakitoなんか目じゃないんだから」

「うん。そうだね」

 多田さんの言葉に賛同して頷く。本人が前向きに捉えているのだから、これ以上私がとやかく言う必要は無い。本心はわからないけれど彼女が納得しているのなら黙っていよう。

「つまらない報告しかできなくてごめんね」

「お見舞いに来てくれてありがとう。嬉しかった。お土産もご馳走様」

 挨拶を交わして私は病室を後にした。

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