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店について裏口から入ると、そう広くない幅の廊下があって、右は給湯室、左が掃除用具入れと洗い場、すこし先にロッカールームと控え室がある。ロッカールームに自分の荷物を入れて控え室に行くと、先に来ていた佐川さんにシャンプーの練習を頼まれた。シャンプー台に行き、リクライニングシートに横になる。
「あのォ……えと、お湯、熱くないですか?」
私の髪にシャワーを当てながら、佐川さんが遠慮がちに切り出す。
「お湯加減ならいい感じだよ~」
「あ。よかったです」
撫でるようにすくい上げる、女の人の手は小さいけれどふわふわ柔らかくていいなぁ。あ。残念。爪があたってる。これはマイナスポイント。
「佐川さん、爪の角あたってるよ」
「あ。すみません」
彼女は指の当たりを変えて流すと、一度シャワーを止めた。
「では、シャンプーしていきますね」
「うん」
しばらく無言だったけど、また佐川さんが、あの、と声を出した。
「ん?」
「やっぱり、小野塚さんと付き合ってるんですか?」
彼女の質問に周りの興味が集まってくるのを感じた。
「おおっと? 練習の質問は?」
「すみません……」
付き合ってるって言っていいのか、ちょっと気が引ける。
「朝練は時間ないから、関係ない話は休憩時間か、せめて夜練にしよっか?」
「すみません」
「いいよ。でも朝練頑張ろう。で、時間ある時に話そ」
「はい」
と再びシャンプーに戻る。まあ、少しの雑談くらい、いいんだけど。まだそういう質問に答える余裕はない。なぜなら照れくさい。ついさっきまでの糖分過多の時間と生々しい夜が鮮明によみがえってしまうせいだ。
佐川さんのシャンプー練習に付き合ったあと、ロッカールームに行くと、置いていたはずの多田さんのフルウィッグとレシピの入った袋がなくなっていた。店長に訊くと、Sakitoさんが来て、持って行ったそうだ。
モデルと衣装に合わせたヘアアレンジとメイクアップのイメージをもう一度確認しようと思っていたのに。
着付けやメイクアップも、もちろんやってはきたけれど、サロンワークをメインにやってきたので、メイクアップが少し苦手だ。昨日は色々ありすぎて手が回らなかったけれど、TGFはもうすぐ。恋に浮かれてすっかり頭から飛んでいた。
「あのォ……えと、お湯、熱くないですか?」
私の髪にシャワーを当てながら、佐川さんが遠慮がちに切り出す。
「お湯加減ならいい感じだよ~」
「あ。よかったです」
撫でるようにすくい上げる、女の人の手は小さいけれどふわふわ柔らかくていいなぁ。あ。残念。爪があたってる。これはマイナスポイント。
「佐川さん、爪の角あたってるよ」
「あ。すみません」
彼女は指の当たりを変えて流すと、一度シャワーを止めた。
「では、シャンプーしていきますね」
「うん」
しばらく無言だったけど、また佐川さんが、あの、と声を出した。
「ん?」
「やっぱり、小野塚さんと付き合ってるんですか?」
彼女の質問に周りの興味が集まってくるのを感じた。
「おおっと? 練習の質問は?」
「すみません……」
付き合ってるって言っていいのか、ちょっと気が引ける。
「朝練は時間ないから、関係ない話は休憩時間か、せめて夜練にしよっか?」
「すみません」
「いいよ。でも朝練頑張ろう。で、時間ある時に話そ」
「はい」
と再びシャンプーに戻る。まあ、少しの雑談くらい、いいんだけど。まだそういう質問に答える余裕はない。なぜなら照れくさい。ついさっきまでの糖分過多の時間と生々しい夜が鮮明によみがえってしまうせいだ。
佐川さんのシャンプー練習に付き合ったあと、ロッカールームに行くと、置いていたはずの多田さんのフルウィッグとレシピの入った袋がなくなっていた。店長に訊くと、Sakitoさんが来て、持って行ったそうだ。
モデルと衣装に合わせたヘアアレンジとメイクアップのイメージをもう一度確認しようと思っていたのに。
着付けやメイクアップも、もちろんやってはきたけれど、サロンワークをメインにやってきたので、メイクアップが少し苦手だ。昨日は色々ありすぎて手が回らなかったけれど、TGFはもうすぐ。恋に浮かれてすっかり頭から飛んでいた。
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