一度私が振ったらしい美形の歳下ワンコくんが溺愛してきます。

森野きの子

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「私じゃ小野塚くんにはつり合わない」

「なんでそんな事言うの?」

「事実だから」

「今はまだ他にやりたいことあるし、やらなきゃいけないこともあるけど、おれの最終的な目標は、海辺の街の高台の、坂道の上に地中海風の住宅兼美容室の家を建てて、アフガンハウンドがサルーキ飼って、井上さんと幸せな家庭を築くっていう」

「いやいや、勝手にライフプランに組み込まれてんの怖いんだけど?」

「怖がらせてごめんだけど、マジでそのライフプランに向けて邁進中です、おれ」

「私、それ、今聞かされて――」

 なんだか笑えてきた。めちゃくちゃ勝手に知らないところでライフプランに組み込まれてるの、非現実的だし、ウケるんだけど。

「笑ってるじゃん」

「だって……ぷ、ふふふ……、知らないところで夢が構築されてて……ありえなさ過ぎて笑えてきた。私が結婚してたらどうしてたの?」

「ずっとあなたを想って孤高のスタイリストとなってそのうち伝説に?」

「奪ったりせず?」

「当たり前だろ。あなたの幸せを壊してまで自分のライフプランを遂行しようとは思わない。それに、人妻となった初恋の人を想って孤独に生きるなんて、ドラマチックじゃん」

「現実はそうでもないんじゃない?」

「前から思ってたけど、井上さんって、こういうの、他人事みたいに素っ気なく躱すよね」

「こういうの?」

「他人との関わりとか、おれの熱烈アプローチとか」

「ずっと他人と深く関わってこなかったせいかも?」

「じゃあ、おれと関わってよ」

「私なんかやめて、もっと相応しい子を探しなよ」

「嫌だ」

「私みたいなのと付き合ったら、おうちの人に怒られるよ」

「ガキかよ」

 尖った低音が、温まってきた場を凍らせた。

「ごめんね。そういうことだから」

 バッグから財布を取り出して千円を置こうとしたら、掌を向けて拒否された。

「いらない」

「そう。じゃあ、ごちそうさま」

 私が歩き出すと、小野塚くんもついてきた。

「井上さん、待ってよ」

 私は応えず歩く。このままアパートまでついてくるのかな。まぁ。それもいいか。昭和レトロなアパートをみて思い知るがいい。こんな女とは釣り合わないって。

「……井上さぁん」

 弱った声に後ろ髪を引かれる。つい、振り向いてチラ見すると、青竹のような長身が勿体ないほど猫背になっていて、私と目が合うとピンと伸びた。

「井上さん!」

 声のバリエーションだけで喜怒哀楽がよくわかる。

「私んち来れば? 私の言ってる意味がわかるよ。ついてくる?」

「行く!」

 小野塚くんは大股であっという間に距離を詰めてきた。

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