20 / 50
20
しおりを挟む
片付けは佐山さんと他のアシスタントが代わってくれたので厚意に甘えて早々に上がらせてもらった。
控え室で芦田さんに付き合っているのか訊かれたので、専門学校時代の知り合いだと正直に答えておいた。
佐山さんを始めとする若いアシスタントの子たちはアイドルでも見かけたように興奮気味だった。先ほど残っていた他のスタイリストは、もう帰っていたり、遠巻きに様子を伺うような気配は醸していたけれど、特に何かを訊かれることはなかった。
出る前に従業員トイレに入り、手を洗っていると、鏡に映った自分がやけに気になってきた。
大型衣類料販店で購入したノーブランドの白いシャツにジーンズとトートバッグにスニーカー。メイクはナチュラルというより剥げかけ。疲れがバッチリ浮かんでいる。え~~。なにこれ。こんな状態で人と会うの、いくらなんでもひどくないか。しかもあっちはモードの極み。せめてと思い、化粧なおしをして、普段はあまり使わないグロスを重ねて、ふと手が止まった。
吉沢さんの時は一ミリも気にしなかったくせに。
と私の中のシニカルな私がせせら笑う。
手にしてるのは、持っているメイク道具の中でいちばん高価な某ハイブランドのお守りグロス。
いや、だって、向こうはめちゃくちゃお洒落だし。
と、シニカルな私に反論して、メイクポーチをバッグにしまう。
少しはマシになっただろうか。
カッパーブラウンのとれかけパーマの髪をバレッタでとめなおして、再確認する。
今の髪型嫌いじゃないけど、変でもないよね? 肩下までのセミロングは悪くはないけど、正直、自分らしくはない気がしている。
もう今更色々気にしても仕方がない。
お洒落レベル魔王級の相手に木の棒と布の服で立ち向かうレベル2のポンコツ勇者って感じ。
すこし重くなった気分を引きずりながら、待ち合わせ場所に向かう。
すこし重くなった気分を引きずりながら、待ち合わせ場所に向かう。
テラス席の小野塚くんは、映画のワンシーンみたいだ。服と佇まいと何気ない仕草で周りの空気さえ変えている。
うわぁ。あそこに行くの罰ゲームじゃない? 私、滑稽を得意としたコメディエンヌ? いいえ。ただの一般人。はぁあ。気が重い。せめてヒールパンプスくらい履いていればもう少し格好もついたのに。
グダグダしていても仕方がない。わかっていても足取りが重い。
は、と私に気づいて、背筋を伸ばし顔を上げ、破顔する。え。なにあれ。でっかいイヌ? しっぽの代わりに大きな手を振っている。
屈託のない笑顔に、私のファッションコンプレックスが少し和らいだ。
控え室で芦田さんに付き合っているのか訊かれたので、専門学校時代の知り合いだと正直に答えておいた。
佐山さんを始めとする若いアシスタントの子たちはアイドルでも見かけたように興奮気味だった。先ほど残っていた他のスタイリストは、もう帰っていたり、遠巻きに様子を伺うような気配は醸していたけれど、特に何かを訊かれることはなかった。
出る前に従業員トイレに入り、手を洗っていると、鏡に映った自分がやけに気になってきた。
大型衣類料販店で購入したノーブランドの白いシャツにジーンズとトートバッグにスニーカー。メイクはナチュラルというより剥げかけ。疲れがバッチリ浮かんでいる。え~~。なにこれ。こんな状態で人と会うの、いくらなんでもひどくないか。しかもあっちはモードの極み。せめてと思い、化粧なおしをして、普段はあまり使わないグロスを重ねて、ふと手が止まった。
吉沢さんの時は一ミリも気にしなかったくせに。
と私の中のシニカルな私がせせら笑う。
手にしてるのは、持っているメイク道具の中でいちばん高価な某ハイブランドのお守りグロス。
いや、だって、向こうはめちゃくちゃお洒落だし。
と、シニカルな私に反論して、メイクポーチをバッグにしまう。
少しはマシになっただろうか。
カッパーブラウンのとれかけパーマの髪をバレッタでとめなおして、再確認する。
今の髪型嫌いじゃないけど、変でもないよね? 肩下までのセミロングは悪くはないけど、正直、自分らしくはない気がしている。
もう今更色々気にしても仕方がない。
お洒落レベル魔王級の相手に木の棒と布の服で立ち向かうレベル2のポンコツ勇者って感じ。
すこし重くなった気分を引きずりながら、待ち合わせ場所に向かう。
すこし重くなった気分を引きずりながら、待ち合わせ場所に向かう。
テラス席の小野塚くんは、映画のワンシーンみたいだ。服と佇まいと何気ない仕草で周りの空気さえ変えている。
うわぁ。あそこに行くの罰ゲームじゃない? 私、滑稽を得意としたコメディエンヌ? いいえ。ただの一般人。はぁあ。気が重い。せめてヒールパンプスくらい履いていればもう少し格好もついたのに。
グダグダしていても仕方がない。わかっていても足取りが重い。
は、と私に気づいて、背筋を伸ばし顔を上げ、破顔する。え。なにあれ。でっかいイヌ? しっぽの代わりに大きな手を振っている。
屈託のない笑顔に、私のファッションコンプレックスが少し和らいだ。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる