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多田さんから、面会八時半までだけど、大丈夫? とメッセージがきた。
閉店二十時で面会できるわけないじゃんね? 今頃多田さんもベッドで困惑してるよ。
ごめんなさい。無理でした。と間抜けな返信をする。
ヘアアレンジのレシピを渡したいから、明日にでも来て。と素早いレスポンス。
了解しました。と送信してすぐに着信コールが鳴った。多田さんかと思ったら、吉沢さんからだった。
「はい。もしもし?」
「……久しぶりだな。井上。吉沢だけど」
「お久しぶりです。どうしました?」
「今、大丈夫か?」
「ええ」
「飯でもどうかなと思ってさ」
「いいですよ、といいたいところですが、生憎お給料日前で。十日過ぎならいけるのですが」
「馬鹿。そんくらい俺が出すよ。井上はOK出してくれりゃいいんだ」
「えー。いいんですかー?」
「いいって。どうする? 嫌なら断ってくれていいぞ」
「行きます」
「お前今どこだ?」
「恵比寿です。さっきお店出たところなので」
「そうかぁー。じゃあ」
と待ち合わせしたのは、代官山にあるお洒落なお店。スマホのナビでなんとかたどり着いた。
仕事帰りにお店の近くの立ち飲み屋で一杯、とか、若手同士で歩いて渋谷までいってたこ焼き&ハイボールとか聞くけど、歓迎会とか忘年会みたいなイベント以外参加してない私にとっては、仕事帰りの寄り道はビッグイベントだ。
白い漆喰の壁の入口には看板はなく、木製の扉の横に『Triangle』と、黒い金属製のアルファベットが一文字ずつ打ち込まれていて、飴色の照明に照らされている。シンプルだけど、それが洗練というもの。みたいなお洒落感漂う店構え。
あ、やばい。緊張してきた。非日常空間に癒されるどころか落ち着かない。格好、変じゃないよね。私、ここに来てもいいよね? 違うんです。呼ばれたんです。私が自発的に来たんじゃないんです。文句なら私を呼んだ吉沢さんにどうぞ。
と思いつつ扉を開けると、中も、白と無垢材のベージュと金属製の黒でまとめられた落ち着いた雰囲気の大人な空間が広がっていた。大きく育ったアイビーやサンスベリアがアクセントになっている。
テーブル席には、平日の夜とは思えないお洒落なカップルや、仕事帰りっぽいのに綺麗な女の子グループが点在している。案内に来た店員さんと私の格好がめちゃくちゃ似ていた。白いブラウスと黒い細身のパンツ。仕事道具が入ったショルダーバッグがなければ、注文されそう。
待ち合わせだと告げて、奥の方を視線で探せば、吉沢さんが私に気づいて手を振った。
新宿から来て私より早いって何者? 飛脚? と謎に思ったけれど、見知った顔に、なんだかとても安心感を覚えた。
閉店二十時で面会できるわけないじゃんね? 今頃多田さんもベッドで困惑してるよ。
ごめんなさい。無理でした。と間抜けな返信をする。
ヘアアレンジのレシピを渡したいから、明日にでも来て。と素早いレスポンス。
了解しました。と送信してすぐに着信コールが鳴った。多田さんかと思ったら、吉沢さんからだった。
「はい。もしもし?」
「……久しぶりだな。井上。吉沢だけど」
「お久しぶりです。どうしました?」
「今、大丈夫か?」
「ええ」
「飯でもどうかなと思ってさ」
「いいですよ、といいたいところですが、生憎お給料日前で。十日過ぎならいけるのですが」
「馬鹿。そんくらい俺が出すよ。井上はOK出してくれりゃいいんだ」
「えー。いいんですかー?」
「いいって。どうする? 嫌なら断ってくれていいぞ」
「行きます」
「お前今どこだ?」
「恵比寿です。さっきお店出たところなので」
「そうかぁー。じゃあ」
と待ち合わせしたのは、代官山にあるお洒落なお店。スマホのナビでなんとかたどり着いた。
仕事帰りにお店の近くの立ち飲み屋で一杯、とか、若手同士で歩いて渋谷までいってたこ焼き&ハイボールとか聞くけど、歓迎会とか忘年会みたいなイベント以外参加してない私にとっては、仕事帰りの寄り道はビッグイベントだ。
白い漆喰の壁の入口には看板はなく、木製の扉の横に『Triangle』と、黒い金属製のアルファベットが一文字ずつ打ち込まれていて、飴色の照明に照らされている。シンプルだけど、それが洗練というもの。みたいなお洒落感漂う店構え。
あ、やばい。緊張してきた。非日常空間に癒されるどころか落ち着かない。格好、変じゃないよね。私、ここに来てもいいよね? 違うんです。呼ばれたんです。私が自発的に来たんじゃないんです。文句なら私を呼んだ吉沢さんにどうぞ。
と思いつつ扉を開けると、中も、白と無垢材のベージュと金属製の黒でまとめられた落ち着いた雰囲気の大人な空間が広がっていた。大きく育ったアイビーやサンスベリアがアクセントになっている。
テーブル席には、平日の夜とは思えないお洒落なカップルや、仕事帰りっぽいのに綺麗な女の子グループが点在している。案内に来た店員さんと私の格好がめちゃくちゃ似ていた。白いブラウスと黒い細身のパンツ。仕事道具が入ったショルダーバッグがなければ、注文されそう。
待ち合わせだと告げて、奥の方を視線で探せば、吉沢さんが私に気づいて手を振った。
新宿から来て私より早いって何者? 飛脚? と謎に思ったけれど、見知った顔に、なんだかとても安心感を覚えた。
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