婚約破棄をされた悪役令嬢をいただきます。

森野きの子

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公開婚約破棄された悪役令嬢

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「本日をもってアリシア・バーンシュタインとの婚約を破棄する!」

 舞踏会の最中、王子は重大発表があると高らかに宣言し、多くの人々の注目をたっぷり集めると、さらに声高に言い放った。
 貴族たちは呆気に取られたあと、どよめき、困惑を隠せずにいた。

 婚約破棄このことを国王陛下はご存知なのか。これほどの辱めを受けなければならなかった令嬢の不祥事とは一体どれほどのものなのか。

 暇を持て余した年嵩の夫人たちは下衆な好奇心を漲らせ、適齢期の令嬢たちは後釜を狙うべく闘志を燃やし、男性陣は我が娘にもワンチャン? と出世欲を掻き立てられている中、屈辱に震え、薔薇色の下唇を噛みしめる目元の鋭い、しかし菫色の美しい眼を潤ませたアリシア・バーンシュタインを嘲笑うように見つめ、王子はさらに続けた。

「二年前に終結した大戦の折り、そなたの父親、貿易商であったバーンシュタイン男爵はその私財を擲って我が国の再興に多大なる貢献をしたことにより、爵位を、さらには子女であるそなたと私との婚約まで与えられた。しかし、子女であるそなたはこの待遇に胡座をかき傲岸不遜な振る舞いで我が親愛なるヴォルフガング公爵の子女、マリアンヌを虐げたというではないか!」

 ここで一同が察してわずかに色めき立っていた場内が引き潮のように静まった。
 後釜決まってんな、と。しかし、平民から成り上がった男爵令嬢より、陛下の異母兄弟の姪であるマリアンヌ嬢の方が体裁としてはマシであると一同は考えた。ヴォルフガング公爵家は、最近領地内に希少価値の高い鉱石が産出される鉱山を発見し、貧乏貴族から富豪貴族へ急成長をみせたところだ。先の大戦で財政難に陥っていた王家としては家名も財産も申し分ないこちらへ鞍替えしても致し方ない。と。

 神妙な面持ちで成り行きを見守る貴族たちに紛れて一人、どす黒く禍々しい気配を放つ者がいた。
 ジェイド・アインホルン。彼もまた先の大戦で功名を挙げ、軍神と謳われた男。国王陛下よりいくつもの勲章を賜った王国騎士団の長である。漆黒の髪にピジョンブラッドの如く紅い眼。聡明さと冷酷さを表した眼光の鋭さに、もし、今誰ぞ目を合わせでもすればたちまち震え上がり、この場を逃げ出してしまっただろう。
 その彼の視線は王子とその向かい合わせにいるアリシアへ注がれていた。
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