本物の聖女が現れてお払い箱になるはずが、婚約者の第二王子が手放してくれません

すもも

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「ピヨッ」

 こら! と叱るように鳴いて、フェリクスの手に乗り移る。
 突然現れた謎の小鳥に、二人は揃って目を丸くした。

「まぁ、なんですかこの鳥。カラス? にしては丸いし……なんにせよ、野鳥なんて病気を持ってそうで怖いですよね。フェリクス様、早くその鳥を追い払ってください」

 聖女様は動物があまり得意じゃないのかもしれない。
 嫌そうに顔を顰めて身を引いた彼女とは違って、フェリクスはじっと僕のことを見つめている。

「ピヨッ、ピー」

 ピョンピョンとフェリクスの手の甲で跳ねながら鳴き声を上げる。それが怖かったのか、「キャア」と聖女様が小さく悲鳴を上げた。

「急に暴れ出すなんて、やっぱりこの鳥は危険です!」
「ピヨッ! ピー!」

 違うんです聖女様! 僕は無害な小鳥なんです! 誤解を解かなきゃと思って必死に訴える。
 パタパタと羽を広げて慌てる僕をよそに、フェリクスは悠然とポケットからハンカチを取り出して、無言のまま僕の体を優しく包み込んだ。

「ピッ、ピヨ?」
「ふぇ、フェリクス、様? あの、その鳥をどうなさるおつもりですか……?」

 不安そうに見つめてくる聖女様には目もくれず、フェリクスはハンカチに包まれた僕を胸ポケットに仕舞い込んだ。
 そのまま東屋を後にしようとしたフェリクスに、慌てたように聖女様が声をかけた。

「ま、待ってください! どちらに行かれるんですか?」
「執務に戻る」
「で、でも、まだ話が途中じゃないですか……」
「話し足りないなら他の者を寄越す」
「いえっ、そうではなくて……私は、フェリクス様ともっとお話ししたいんです。フェリクス様も、少なからず私にご興味を持ってくださっているから、こうして毎日会いに来てくださるのですよね? でしたら、もう少しくらい私のことを優先してください。でないと私、フェリクス様ではなくエヴァン様のことばかり考えてしまうかもしれません」

 ぴくりとフェリクスの眉が寄った。エヴァン殿下の名前に反応したみたいだ。
 ほんの一瞬、聖女様の口元に笑みが浮かんだ気がした。でもすぐに、気のせいだったと思えるくらいに悲しげな表情に変わる。

「実は、最近エヴァン様がよく会いに来てくださるんです。フェリクス様はあまり長く一緒にいてくださらないですけど、エヴァン様は一緒に乗馬もしてくださいましたし、この前はこっそりお城を抜け出して城下町を案内してくださったんですよ」

 聖女様はきっと、フェリクスの気を引きたいんだろうな。わざと嫉妬させるようなことをいう聖女様に、少しだけ胸が痛くなった。
 確かにフェリクスは素っ気なく思われがちだけど、本当は優しくて真っ直ぐな子なんだ。そんな彼の気持ちを試すようなことはしてほしくなかった。だけど聖女様は止まらない。
 涙に潤んだ瞳が、縋るようにフェリクスを見上げた。

「フェリクス様は、私のことをどう思っていらっしゃいますか? 私は、フェリクス様のことをお慕い申し上げております。貴方の隣にいられるのなら、他に何もいりません」

 フェリクスの顔色が変わった気がした。
 口を噤んでじっと聖女様を見つめるフェリクスは何を考えているのかわからない。

「ごめんなさい、困らせるようなことを言ってしまって。でも、私の気持ちを知っていてほしかったんです。今日はこれで失礼しますね。さようなら」

 聖女様は柔らかく微笑んで、丁寧にお辞儀をすると踵を返した。

「待ってくれ」

 今度はフェリクスが聖女様を呼び止めた。その声を聞くや否や、聖女様が待ってましたとばかりに振り返った。

「はい、なんでしょうか」
「……エヴァンを、王に選ぶのか」
「え……?」
「俺よりも、アイツを選ぶのか」

 その声を聞けば、フェリクスがどれだけ王様になりたいと切望しているのかが、痛いほど伝わってきた。
 キョトンとしていた聖女様もハッとしたように首を振る。

「まっ、まさか! 私が選ぶのはもちろんフェリクス様です。だって私、フェリクス様のことをお慕いしていますから。ただ、フェリクス様が私に興味がないんじゃないかって少し不安になってしまっただけなんです。でも良かった、フェリクス様もやっぱり私のことを──」

 またもや饒舌になった聖女様の言葉を遮って、フェリクスが口を開いた。

「執務に戻る」
「え? あ、はい。お気をつけて」

 聖女様の熱量とは正反対にあっさりした態度だった。
 さっさと踵を返したフェリクスに、一人残された聖女様は呆然と立ち尽くしていた。
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