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※天邪鬼な王子様

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 唾液にまみれた指が糸を引きながら離れていくのを見ていると、不意に腰を抱えられてお尻が浮いた。そのままぐっと持ち上げられて、濡れた指がお尻の谷間を辿る。

「んぅ……っ」

 アナルに指先が触れたかと思うと、そのままずぷっと第一関節まで突き入れられた。
 突然の刺激に驚いてきゅうっと締め付ける。そのせいで余計に指の形を感じてしまって、ゾクゾクした快感が背筋を駆け上った。

「は……っ、あぅ、んっ」

 くちゃくちゃと音を立てて指が抜き差しされる。昨夜の出来事が蘇って、お腹の奥がきゅんと疼いた。

「ふぁ、ン……っ、ひ、ぁ」
「はっ、甘いな」

 そんなわけない。先走りなんて不味いに決まってるのに、殿下はトロトロと溢れる蜜を舌先で掬っては満足げに喉を鳴らしている。

「ふ、ぅん……っ」

 裏側から陰茎を刺激するようにして指を抜き差しされる度、絶え間なく先走りが溢れた。
 殿下の熱い舌に舐られる度、腰から下が溶けて無くなってしまうような錯覚を覚えた。
 吐き出すものがない陰茎はただ蜜を溢すばかりで、終わりのない快楽にポロポロと涙が溢れた。

「殿下っ、いや、イヤですっ、も、許して……っ、ぁ、はぅ、ン」
「ん、まだだ。まだ、足りない」
「ぁ、ひ……っ、うぅ~っっ」

 ぎゅうっと足先を丸めて快感に耐える。もうこれ以上は本当におかしくなってしまいそうで、僕は咄嗟に殿下の名前を呼んでいた。

「ふぇり、くすっ」
「……なんだ」

 ぴたりと殿下の動きが止まった。
 ようやく股座から顔を上げてくれた殿下の首に腕を回す。力の入らない体をなんとか起こして、ちゅ、と殿下の唇にキスをした。
 僕の体液で濡れたそこは苦じょっぱい味がした。やっぱり甘くなんてない。
 なんだか複雑な気持ちになりながら、薄く開いた殿下の唇を割るように舌を這わせる。

「でんか、キス、しましょう。キスで、まりょくあげますから……ね?」

 ちゅっ、ちゅっ、と音を立てながら殿下の唇を啄む。
 口内に溜まった唾液を送り込むように深く口づければ、応えるように殿下が口を開けてくれた。

「ん、ふ、ンゥ、ん……っ」

 くちゅくちゅと舌先を絡ませながら、お互いの唾液を交換するように何度も舌を擦り合わせた。
 ちゅっと最後に軽く吸い上げてから唇を離せば、どちらのものか分からない銀糸が口端を伝って落ちた。

「でんか」

 はぁ、と熱い吐息をこぼしながら殿下を呼ぶ。ぼんやりとしていた金の瞳が焦点を結んで、僕を捉えたのが分かった。

「マコト」

 掠れた声で名前を呼ばれて体が震えた。いつも涼しげな顔をしているのに、今の殿下は見たことないくらい雄の顔になっている。
 熱い息をこぼした殿下が、堪えきれないというように僕を押し倒した。

「あ……っ」

 ぽすんとシーツに体が埋まる。すぐに殿下の体が覆い被さってきて、ギラついた目が間近で僕を見据えた。

「もっとだ」
「っ、ま、まだ、足りませんか?」
「足りない」

 ほとんど吐息みたいな掠れた声で殿下が囁く。それだけでゾクゾクとした快感が背筋を駆け上がった。

「わかり、ました。もっと、そばに来てください」

 殿下の首に腕を回して、ぎゅっと抱き寄せる。僕が何を求めているのか分かったらしい。
 ごくりと喉仏を上下させた殿下が、伏し目がちに僕に顔を寄せた。

「目、つぶってくださいね」

 恥ずかしいので。そう言い終わる前に、急かすようにちゅっと軽くキスされた。
 すぐに離れていった唇を目で追う。さっきまで伏し目がちだったのに、今は金の瞳が真っ直ぐに僕を見下ろしていた。
 こういうところが、天邪鬼な子供みたいだと思う。でもそれが、可愛いと思えてしまうんだ。

「……殿下、意地悪ですね」

 唇を合わせる寸前、ぽつりとこぼした。
 殿下が何かを言う前に、その唇を奪った。

「ン……っ」

 差し入れた舌で殿下の舌に絡みつく。じゅるっと唾液ごと舌を吸い上げれば、仕返しとばかりに殿下が僕の舌に甘く嚙みついてきた。

「んっ、ふぁ、む……っ」

 くちゅくちゅと口内で淫らな音が鳴る。キスの合間にこぼれる吐息がどんどん熱を帯びていって、鼻にかかった甘い声が漏れた。

「……ふ」

 ふいに唇が離れていったかと思うと、すぐに首筋に顔を埋められる。
 かぷかぷと甘噛みを繰り返す殿下に首を傾げた。

「血が出るくらい噛まないと、魔力供給にならないですよ」
「……阿呆め」

 呆れたようにため息をついた殿下が、再び唇を重ねてくる。

「ン……っ」

 あっという間に舌を絡め取られて、僕の拙いキスとは比べ物にならないくらい濃厚な口づけをお見舞いされた。

「ふぁ……ん、ふ」
「はっ、もっと口を開けろ」
「あ、は……っ、んむ、ふぁ」

 ぐちゅぐちゅと淫らな音が鳴る。僕が殿下に魔力を渡さなきゃいけないのに、これじゃどちらの唾液なのかも分からない。

「ん……っ、ぅン、んうぅ~っ」

 ぽすぽすと殿下の胸板を叩いて抗議する。
 しばらくしてようやく唇が離れた時には、僕の息はすっかり上がっていた。

「ぷは……っ、はぁ……ッ」

 唾液の糸がプツリと切れて、殿下の口元に垂れていった。
 濡れた唇を舐めた殿下が、ムッとしたように眉を寄せる。

「なんだ」
「あ、の、やり方を、変えませんか?」
「やり方?」
「はい。今みたいなキスだと、間違って僕も殿下の体液から魔力を貰ってしまってる気がするんです。そうするとせっかくお渡しした魔力が僕に返ってきて、それをまた僕がお返しすることになって、ずっと終わらない気がするんです」
「……」
「昨日も確か、間違えて僕に魔力を返しちゃったって言ってましたよね?」

 だから必要以上にキスをすることになったし、今日になっても魔力が足りなくて昨日の続きをすることになった。
 つまり、魔力供給の方法が間違ってるんじゃないかなと僕は思ったわけだ。

「キスだと僕が殿下の体液を誤飲する可能性が高いですし、例えば僕の血を採ってそれを殿下が飲むとか、そういう方が効率がいいような気がするんです」
「……吸血動物のように生き血を啜れというのか?」
「あ、いえっ、そういうわけではないんですけど! こっそり料理に混ぜるとか! ……あ、でも料理に血を混ぜるのはあんまり美味しくないかも……?」

 僕の言葉に、殿下が呆れたようにため息をついた。

「お前の考えは分かった」
「それじゃあ……!」
「……だが却下だ」
「なんでですか!?」

 まさか却下されるとは思わなかった。驚きに目を見開く僕を見下ろして、殿下がフンッと鼻を鳴らす。

「俺は美食家だ」
「……そう、なんですね」
「料理に血を混ぜるなどあり得ない発想だ」
「ええと、つまりは……」
「口付けの方が、手っ取り早い」

 何を当たり前のことを、みたいな顔で殿下が断言した。僕は思わずぽかんと口を開けて固まってしまう。
 僕の間抜けな顔を見たらそんな気も失せそうなものだけど、殿下は気にならない様子で僕の唇を啄んだ。

「間違って渡した分の魔力は取り返せばいい」
「それはそうですけど……あ、そういえば」

 そこでふと、あの夜のエヴァン殿下との会話が頭を過った。

「魔法を使える人ならある程度自由に魔力を動かせるって聞いたんですけど、キスの時に間違って殿下の魔力を貰ってしまわないように制御することはできないんでしょうか?」

 もしそれができるならこの悩みも解消される。
 瞳を輝かせた僕とは裏腹に、殿下はどこか気まずそうに視線を逸らした。

「……今は無理だ」
「今は……あ、魔力が枯渇していて万全の状態じゃないからってことですか?」
「……ああ」
「なるほど。……でもそれだと、僕たちずっとキスをすることになっちゃいますね」

 昨日と今日だけで数え切れないくらいキスをして、それでもまだ足りないんだ。一体いつになったら、僕たちはキスしなくて済むようになるんだろう。

「嫌なのか」
「嫌では、ない、です」
「ならいいだろう」
「……いいんでしょうか」
「俺とお前は婚約しているんだぞ」
「そういうものでしょうか……?」
「そういうものだ」

 婚約なんて、それこそ口約束みたいなものなのに。
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