13 / 85
好きなこと
しおりを挟む
その日から毎日、ユルゲンさんと一緒にミリウス殿下の元へ通った。
その甲斐もあって、一週間も経つ頃には乗馬で悲鳴を上げることもなくなった。
「いつもありがとう」
「ブルルッ」
ユルゲンさんの愛馬であるジュリアス君とも随分打ち解けた。
今では凛々しいお顔に頬擦りしたり、立派な鬣を撫でさせてもらうことだってある。
「ふふ、幸せだなぁ」
ジュリアス君の背を撫でながらしみじみ呟けば、ドレスに顔を埋めていたミリウス殿下がチラリと僕を見上げた。
「……馬が好きなの?」
「はい。お馬さんも好きですし、動物はみんな大好きです」
「……怖くない?」
「ふふ、大丈夫ですよ。ジュリアス君はとってもお利口さんで優しいので、怖いことなんて何もありませんよ」
体の小さい殿下はジュリアス君のことが少し怖いみたいだった。
僕がジュリアス君と戯れている時は、決まって僕の膝に抱きついてドレスに顔を埋めている。
一方のジュリアス君は、いつも優しい眼差しで殿下を見つめていた。
「ミリウス殿下は動物はお好きですか?」
「わかんない」
「触れ合う機会がないとあんまり分からないですよね。僕は小さい頃からおうちでたくさん動物を飼ってたので、動物は僕にとって大切な家族だったんです。ミリウス殿下も、少しずつでもジュリアス君と仲良くなれれば、きっと色んな動物のことが大好きになれますよ」
「……大好きになったら、マコトはうれしい?」
「はい。ミリウス殿下には、色んなものやことを好きになってほしいです。好きが沢山だと、その分幸せになれますから」
そっと小さな頭を撫でる。柔らかな髪に指を通せば、殿下がくすぐったそうに目を細めた。
「大丈夫、僕がついてますから」
僕の言葉がどこまで届いたかは分からないけど、殿下が恐る恐るとジュリアス君を見上げた。
「ふ、ふかふか」
「ブルッ」
殿下の言葉に応えるように、ジュリアス君が頭を下げてくれる。
それに応えるように、殿下が恐る恐る手を伸ばして、艶やかな漆黒の鬣に触れた。
「!」
「ユルゲンさんが大切にお世話してるから、毛艶が良くて気持ちいいですよね」
「……うん」
ふわりと笑った殿下の笑顔がとっても素敵で、胸がぽかぽか温かくなった。
「お馬さん以外にも、色んな動物がいるんですよ。動物だけじゃなくて、綺麗なものや楽しいものは沢山あるんです。だから、怖がらなくていいんですよ。勇気を出して新しいものに触れることは、とっても素敵なことですから」
「……いっしょがいい」
「え?」
「マコトと、いっしょがいい」
きゅっと控えめに手を握られて、キュウと胸が締め付けられた。
小さな手を大切に握り返す。触れ合った場所から伝わる体温があったかくて、少しだけ泣きそうになった。
「僕も、殿下と一緒に色んなことをしたいです。美味しいご飯を食べて、綺麗な景色を見て、楽しい思い出を沢山作りたいです」
「! ……僕が、連れて行ってあげる」
「わっ、殿下?」
「こっち」
小さな体のどこからそんな力が出てくるのか。ぐいぐいと手を引かれて、足を縺れさせながら殿下の後を追う。
どうやら離宮の裏の森に行きたいらしい。うっすらと霧の立ち込める森はどこか怪しげで、国王陛下がいう瘴気というのはこのことかもしれないと思った。
「殿下、あの、この森にはあんまり近寄らない方が」
「大丈夫」
控えめな殿下にしては珍しく強い意志を感じる声音だった。
「……暗くなる前に帰りましょうね」
「うん」
後でメレディスさんたちに怒られるかもな……。
森へ足を踏み入れた僕たちを引き止めるように、背後でジュリアス君の嗎が聞こえた。
その甲斐もあって、一週間も経つ頃には乗馬で悲鳴を上げることもなくなった。
「いつもありがとう」
「ブルルッ」
ユルゲンさんの愛馬であるジュリアス君とも随分打ち解けた。
今では凛々しいお顔に頬擦りしたり、立派な鬣を撫でさせてもらうことだってある。
「ふふ、幸せだなぁ」
ジュリアス君の背を撫でながらしみじみ呟けば、ドレスに顔を埋めていたミリウス殿下がチラリと僕を見上げた。
「……馬が好きなの?」
「はい。お馬さんも好きですし、動物はみんな大好きです」
「……怖くない?」
「ふふ、大丈夫ですよ。ジュリアス君はとってもお利口さんで優しいので、怖いことなんて何もありませんよ」
体の小さい殿下はジュリアス君のことが少し怖いみたいだった。
僕がジュリアス君と戯れている時は、決まって僕の膝に抱きついてドレスに顔を埋めている。
一方のジュリアス君は、いつも優しい眼差しで殿下を見つめていた。
「ミリウス殿下は動物はお好きですか?」
「わかんない」
「触れ合う機会がないとあんまり分からないですよね。僕は小さい頃からおうちでたくさん動物を飼ってたので、動物は僕にとって大切な家族だったんです。ミリウス殿下も、少しずつでもジュリアス君と仲良くなれれば、きっと色んな動物のことが大好きになれますよ」
「……大好きになったら、マコトはうれしい?」
「はい。ミリウス殿下には、色んなものやことを好きになってほしいです。好きが沢山だと、その分幸せになれますから」
そっと小さな頭を撫でる。柔らかな髪に指を通せば、殿下がくすぐったそうに目を細めた。
「大丈夫、僕がついてますから」
僕の言葉がどこまで届いたかは分からないけど、殿下が恐る恐るとジュリアス君を見上げた。
「ふ、ふかふか」
「ブルッ」
殿下の言葉に応えるように、ジュリアス君が頭を下げてくれる。
それに応えるように、殿下が恐る恐る手を伸ばして、艶やかな漆黒の鬣に触れた。
「!」
「ユルゲンさんが大切にお世話してるから、毛艶が良くて気持ちいいですよね」
「……うん」
ふわりと笑った殿下の笑顔がとっても素敵で、胸がぽかぽか温かくなった。
「お馬さん以外にも、色んな動物がいるんですよ。動物だけじゃなくて、綺麗なものや楽しいものは沢山あるんです。だから、怖がらなくていいんですよ。勇気を出して新しいものに触れることは、とっても素敵なことですから」
「……いっしょがいい」
「え?」
「マコトと、いっしょがいい」
きゅっと控えめに手を握られて、キュウと胸が締め付けられた。
小さな手を大切に握り返す。触れ合った場所から伝わる体温があったかくて、少しだけ泣きそうになった。
「僕も、殿下と一緒に色んなことをしたいです。美味しいご飯を食べて、綺麗な景色を見て、楽しい思い出を沢山作りたいです」
「! ……僕が、連れて行ってあげる」
「わっ、殿下?」
「こっち」
小さな体のどこからそんな力が出てくるのか。ぐいぐいと手を引かれて、足を縺れさせながら殿下の後を追う。
どうやら離宮の裏の森に行きたいらしい。うっすらと霧の立ち込める森はどこか怪しげで、国王陛下がいう瘴気というのはこのことかもしれないと思った。
「殿下、あの、この森にはあんまり近寄らない方が」
「大丈夫」
控えめな殿下にしては珍しく強い意志を感じる声音だった。
「……暗くなる前に帰りましょうね」
「うん」
後でメレディスさんたちに怒られるかもな……。
森へ足を踏み入れた僕たちを引き止めるように、背後でジュリアス君の嗎が聞こえた。
155
お気に入りに追加
3,195
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる
古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる