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王様の頼み事
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「私の四番目の息子に会ってやってほしいのだ」
「……そんなことでいいんですか?」
無理難題を覚悟していただけに、思わず拍子抜けしてしまった。
「昔から大人しい奴でな。近頃は尚のこと塞ぎ込んで、子供らしい溌剌さが皆無と言っていい」
「それぞれ個性がありますからね」
「個性というにも限度がある。よく一人で何処ぞに出掛けてはふらっと帰って来るような奴なのだが……どうやらこのところは裏の森に通っているらしい」
「自然がお好きなんですね」
「いや、あの森にはかつて魔物が巣食っていてな、今もまだ辺りを瘴気が覆っているのだ。よもや、瘴気に充てられて悪しき者に取り憑かれているやもしれぬ。そこで其方の出番というわけだ」
王様がニヤッと笑った。それはもう愉しそうに。
悪い予感に背筋が凍ったのはいうまでもない。
「聖女殿の力で息子を救ってやってくれ」
「む、無理です」
「何故だ。私の可愛い息子が哀れだとは思わぬのか」
「いえ、本当に魔物に憑かれているならお労しいことだと思います。ただその、僕には聖女様が持つような神聖な力はないんです。もし本当に何かに取り憑かれているなら、きちんとお祓いができる方に見ていただいた方が息子さんのためになると思います」
「確かに、其方は本物の聖女ではないのかもしれん。だがな、この世界に導かれたことには必ず意味があるはずだ。例え悪しき者を祓えぬとしても、息子を救う活路を見出せる。其方を見ているとそんなふうに思えて来るのだ」
いったい僕のどこを見てそう思ったんだろう。
不思議で仕方ないけど、それ以上に頼ってもらえたことが嬉しかった。この世界に来て初めて、誰かに必要としてもらえた気がしたから。
「僕にはなんの力もありませんが、息子さんのためになるなら頑張りたいです」
「そう言ってくれて嬉しいぞ。息子には既に其方の話を通してある」
「が、頑張ります」
「なに、そう身構えることはない。我ら王家の血筋は強運だ。例え何かに取り憑かれているとしても、悪いようにはならんだろうさ」
快活に笑う王様に、やんわりと微笑み返す。
フェリクス殿下だけは、難しい顔をして眉間に皺を刻んでいた。
「父上、ミリウスは極度の人見知りです。無理にマコトと引き合わせれば、尚のこと心を閉ざしかねません」
「ほお」
王様が意外そうに目を瞬いた。
「マコトと呼んでいるのか。これはめでたい進展だな」
「……話を逸らさないでいただきたい」
「ああ、そうカッカするな。私もあの子の父親だ。これでもあの子の性分は理解しておる。無理強いをしては余計に口を利かなくなることもな。だが、そのリスクを差し引いても尚、それが最善であると私の直感が告げている」
やっぱり、この人の言葉には有無を言わせない何かがある。
フェリクス殿下も同じことを思ったのかもしれない。不服そうではあったものの、それ以上食い下がることはなかった。
「よし、長話が済んだところで茶会としよう。ああ、酒が良ければもちろん構わないぞ」
金の杯を差し出されてぶんぶんと首を横に振る。
「いえっ、大丈夫です」
「はっはっ、そう身構えるな。毒など入っておらんぞ」
「いえっ、そういう意味じゃないんです! ただあまりお酒が得意ではないものでっ」
「揶揄っただけだ。そう慌てふためかれると余計に揶揄いたくなる」
「す、すみません」
「謝ることはないだろう。……其方、何か望みはないのか?」
まただ。全てを見透かすような目。まるで遠くの獲物に狙いを定める鷲のような目に心臓が縮こまった。
「過分なほどのご厚意をいただき感謝しております。ただ……」
「なんだ、遠慮せず申してみよ」
「こ、この衣装を、もう少し地味な感じといいますか、できればドレスではなくパンツスタイルで、あとベールもなくしていただけると有り難いのですが……」
純白のドレスにベールだなんてまるで花嫁様だ。
僕のような人間には不釣り合いなそれをいい加減やめさせてほしかった。……エヴァン殿下にも苦言を呈されてしまったし。
「ふむ、それは少し難しいな」
「……やっぱり、仕来りに背いてはいけませんよね」
「いや、単にその方が愉快だというだけだ」
「へ?」
「簡単に騙されおって。今のも冗談だ。……それ以外に望みはないのか」
「はい、特には」
本当は元の世界に帰してほしいけど、無理なお願いだってことはわかってる。
それ以外には本当に不自由していないし……いや、一つだけあった。
「すみません、我儘が許されるなら、もう一つだけよろしいでしょうか?」
「ああ」
「……侍女の方をつけないでいただきたいんです。その、皆さんとても親切にしてくださるのですが、自分のことは自分でできますし、大した身分でもないのにお世話していただくのは忍びなくて……」
本当は、彼女たちから感じる悪意に耐えられそうにないだけだ。
大っぴらに何かを言うわけではないけど、僕を見る目が言外に語っている。
なぜ、こんな見窄らしい男に傅かねばならないのかと。不満を湛えたその目に晒される毎日に、いい加減ストレスで穴が開きそうだった。
僕としては切実なお願い。でも、王様にとっては理解できないことだったらしい。形のいい目が不思議そうに瞬きを繰り返した。
「侍従の数が足りないと文句を言う者はいても、数を減らせと言う奴は初めて見たぞ」
「僕は元々庶民も庶民なので……。その、数を減らすというよりも、できればゼロにしていただきたいのですが……」
「……ふむ、面白い頼み事だが、残念ながら聞いてやれんな。最低でも一人は侍従を付けてもらう。聖女とは本来、国で最も貴い身分であるのだからな」
「ですが、僕は本物の聖女様ではありません。間違ってこの世界に喚ばれてしまっただけの、普通の人間です」
特別扱いをされる度、罪悪感で居た堪れなくなる。
その気持ちを分かってもらいたい。だけど、王様は理解できないというように首を傾げた。
「其方、知れば知るほどおかしな奴だな」
「そうでしょうか……」
「ああ。だが、変わり者だからこそ気に入った。今いる侍女たちは気に入らんのだろう? ならば、其方が気に入った者を一人、側仕えとして新たに雇うがいい」
「え、ですが……その」
「よい。要らぬと言うのなら無理には押しつけぬが、一人くらい話し相手がいた方が気が休まるだろう。どんな身分の者でも構わん。気に入った者が見つかれば私の前に連れて来い」
「わ、かり、ました」
正直、この王宮内でそんな人を見つけられる自信はなかった。
大抵の人は僕のことを疎ましく思っているし、嫌々お世話してもらってもお互いにストレスが溜まるだけだ。だけど、これ以上言い募っても無意味な気がした。
僕を真っ直ぐに見据える王様の目が、異論は認めない、と言外に語っていたのだ。
「……そんなことでいいんですか?」
無理難題を覚悟していただけに、思わず拍子抜けしてしまった。
「昔から大人しい奴でな。近頃は尚のこと塞ぎ込んで、子供らしい溌剌さが皆無と言っていい」
「それぞれ個性がありますからね」
「個性というにも限度がある。よく一人で何処ぞに出掛けてはふらっと帰って来るような奴なのだが……どうやらこのところは裏の森に通っているらしい」
「自然がお好きなんですね」
「いや、あの森にはかつて魔物が巣食っていてな、今もまだ辺りを瘴気が覆っているのだ。よもや、瘴気に充てられて悪しき者に取り憑かれているやもしれぬ。そこで其方の出番というわけだ」
王様がニヤッと笑った。それはもう愉しそうに。
悪い予感に背筋が凍ったのはいうまでもない。
「聖女殿の力で息子を救ってやってくれ」
「む、無理です」
「何故だ。私の可愛い息子が哀れだとは思わぬのか」
「いえ、本当に魔物に憑かれているならお労しいことだと思います。ただその、僕には聖女様が持つような神聖な力はないんです。もし本当に何かに取り憑かれているなら、きちんとお祓いができる方に見ていただいた方が息子さんのためになると思います」
「確かに、其方は本物の聖女ではないのかもしれん。だがな、この世界に導かれたことには必ず意味があるはずだ。例え悪しき者を祓えぬとしても、息子を救う活路を見出せる。其方を見ているとそんなふうに思えて来るのだ」
いったい僕のどこを見てそう思ったんだろう。
不思議で仕方ないけど、それ以上に頼ってもらえたことが嬉しかった。この世界に来て初めて、誰かに必要としてもらえた気がしたから。
「僕にはなんの力もありませんが、息子さんのためになるなら頑張りたいです」
「そう言ってくれて嬉しいぞ。息子には既に其方の話を通してある」
「が、頑張ります」
「なに、そう身構えることはない。我ら王家の血筋は強運だ。例え何かに取り憑かれているとしても、悪いようにはならんだろうさ」
快活に笑う王様に、やんわりと微笑み返す。
フェリクス殿下だけは、難しい顔をして眉間に皺を刻んでいた。
「父上、ミリウスは極度の人見知りです。無理にマコトと引き合わせれば、尚のこと心を閉ざしかねません」
「ほお」
王様が意外そうに目を瞬いた。
「マコトと呼んでいるのか。これはめでたい進展だな」
「……話を逸らさないでいただきたい」
「ああ、そうカッカするな。私もあの子の父親だ。これでもあの子の性分は理解しておる。無理強いをしては余計に口を利かなくなることもな。だが、そのリスクを差し引いても尚、それが最善であると私の直感が告げている」
やっぱり、この人の言葉には有無を言わせない何かがある。
フェリクス殿下も同じことを思ったのかもしれない。不服そうではあったものの、それ以上食い下がることはなかった。
「よし、長話が済んだところで茶会としよう。ああ、酒が良ければもちろん構わないぞ」
金の杯を差し出されてぶんぶんと首を横に振る。
「いえっ、大丈夫です」
「はっはっ、そう身構えるな。毒など入っておらんぞ」
「いえっ、そういう意味じゃないんです! ただあまりお酒が得意ではないものでっ」
「揶揄っただけだ。そう慌てふためかれると余計に揶揄いたくなる」
「す、すみません」
「謝ることはないだろう。……其方、何か望みはないのか?」
まただ。全てを見透かすような目。まるで遠くの獲物に狙いを定める鷲のような目に心臓が縮こまった。
「過分なほどのご厚意をいただき感謝しております。ただ……」
「なんだ、遠慮せず申してみよ」
「こ、この衣装を、もう少し地味な感じといいますか、できればドレスではなくパンツスタイルで、あとベールもなくしていただけると有り難いのですが……」
純白のドレスにベールだなんてまるで花嫁様だ。
僕のような人間には不釣り合いなそれをいい加減やめさせてほしかった。……エヴァン殿下にも苦言を呈されてしまったし。
「ふむ、それは少し難しいな」
「……やっぱり、仕来りに背いてはいけませんよね」
「いや、単にその方が愉快だというだけだ」
「へ?」
「簡単に騙されおって。今のも冗談だ。……それ以外に望みはないのか」
「はい、特には」
本当は元の世界に帰してほしいけど、無理なお願いだってことはわかってる。
それ以外には本当に不自由していないし……いや、一つだけあった。
「すみません、我儘が許されるなら、もう一つだけよろしいでしょうか?」
「ああ」
「……侍女の方をつけないでいただきたいんです。その、皆さんとても親切にしてくださるのですが、自分のことは自分でできますし、大した身分でもないのにお世話していただくのは忍びなくて……」
本当は、彼女たちから感じる悪意に耐えられそうにないだけだ。
大っぴらに何かを言うわけではないけど、僕を見る目が言外に語っている。
なぜ、こんな見窄らしい男に傅かねばならないのかと。不満を湛えたその目に晒される毎日に、いい加減ストレスで穴が開きそうだった。
僕としては切実なお願い。でも、王様にとっては理解できないことだったらしい。形のいい目が不思議そうに瞬きを繰り返した。
「侍従の数が足りないと文句を言う者はいても、数を減らせと言う奴は初めて見たぞ」
「僕は元々庶民も庶民なので……。その、数を減らすというよりも、できればゼロにしていただきたいのですが……」
「……ふむ、面白い頼み事だが、残念ながら聞いてやれんな。最低でも一人は侍従を付けてもらう。聖女とは本来、国で最も貴い身分であるのだからな」
「ですが、僕は本物の聖女様ではありません。間違ってこの世界に喚ばれてしまっただけの、普通の人間です」
特別扱いをされる度、罪悪感で居た堪れなくなる。
その気持ちを分かってもらいたい。だけど、王様は理解できないというように首を傾げた。
「其方、知れば知るほどおかしな奴だな」
「そうでしょうか……」
「ああ。だが、変わり者だからこそ気に入った。今いる侍女たちは気に入らんのだろう? ならば、其方が気に入った者を一人、側仕えとして新たに雇うがいい」
「え、ですが……その」
「よい。要らぬと言うのなら無理には押しつけぬが、一人くらい話し相手がいた方が気が休まるだろう。どんな身分の者でも構わん。気に入った者が見つかれば私の前に連れて来い」
「わ、かり、ました」
正直、この王宮内でそんな人を見つけられる自信はなかった。
大抵の人は僕のことを疎ましく思っているし、嫌々お世話してもらってもお互いにストレスが溜まるだけだ。だけど、これ以上言い募っても無意味な気がした。
僕を真っ直ぐに見据える王様の目が、異論は認めない、と言外に語っていたのだ。
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