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大人びた王子様
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「これが、聖女だと……?」
僕を一目見たフェリクス殿下の第一声はそれだった。
絶世の美男子に信じられないモノを見る目で見られて、逆に僕もこの世のものとは思えない美貌に唖然としてしまった。
透けるように白い肌は内側から輝いているようで、キラキラと光を反射する白銀の髪はビロードのように滑らかだ。髪と同じ色の睫毛に縁取られた瞳は、金を溶かしたように鮮やかな琥珀色をしている。
息を呑む美しさとはまさにこのことで、フェリクス殿下はとにかく美しかった。背の中程まである髪を一つに束ねていることもあって、中性的な美しさに感じられた。
間違いなく、僕が人生で見た中で最も美しい人だ。
「─父上が、そう言ったのか?」
「はい。国王陛下の命にございます」
「何故だ。召喚の儀はエヴァン殿下の血で行われたのではないのか」
「確かにエヴァン殿下の血液を用いましたが、エヴァン殿下がこのお方を聖女様とは認めないと仰せなのです」
「認めない?」
「はい。偽物なのではないか、と」
「はっ、それで偽物の面倒を俺に押し付けたというわけか?」
神官さんの言葉に、フェリクス殿下は整った眉を歪ませて嘲るように笑った。
美形の嘲笑は本当に心臓に悪い。言われるがままにのこのこ会いに来るんじゃなかった。
せめてこれ以上機嫌を損ねないようにと息を殺していれば、フェリクス殿下が美しい流し目で僕を一瞥した。
「いつまで惚けているつもりだ?」
「……っ!」
鋭い目に射貫かれて、思わず体が硬直した。
「あ、あの、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」
「……貴様の謝罪になんの価値がある」
「も、申し訳ございません」
一秒が何十秒にも感じられるほどの重たい沈黙。息が詰まるような張り詰めた空気に耐えきれずに、恐る恐ると顔を上げていた。
そしてすぐにそのことを後悔した。相変わらず美しいご尊顔が僕を冷たく見下ろしていたからだ。
「……まあいいだろう。父上の気まぐれはいつものことだ」
「よろしいのですか?」
「頑是の効かない子供のように駄々を捏ねればどうにかなるのか?」
「い、いえ、申し訳ありません」
フェリクス殿下は眉間に皺を寄せて神官さんを睨んでいたけど、その顔は少し寂しげにも見えた。
あの王様の子供ということは、今までにも色々と振り回されてきた被害者なのかもしれない。そう思うと親近感が湧いてきて、少しだけ肩の力が抜けた。
「……貴様、歳は幾つだ」
「二十八歳です」
「二十八……? 成人しているのか?」
「あ、はい。八年ほど前に」
またしても信じられない者を見る目をされてしまった。
特別童顔ってわけじゃないと思うけど、この世界の人からしたらそんなに若く見えるんだろうか。確かに外国の人から見たら日本人は幼く見えるって言うし、この国の人から見てもそうなのかもしれない。
「なんかすみません。ちなみに、フェリクス殿下はおいくつなんですか?」
落ち着いているし、二十五歳くらいかな。
「……貴様に教える義理はない」
「あ、そう、ですよね」
「……フェリクス殿下、恐れながら申し上げます。先に聖女様のお歳を伺ったのは殿下なのですから、フェリクス殿下もご自身のお歳をお答えするのが礼儀かと存じます」
神官さんの指摘に、フェリクス殿下が眉間の皺を深くした。
「……十八だ」
「あ、十八歳なんですね。落ち着いてらっしゃるからてっきり二十五くらいかとって、十八歳!?」
「うるさい。何か文句があるのか」
「いえっ、滅相もございません! ただそのっ、僕の世界では十八歳といえばまだ子供の年齢なので、少しびっくりしてしまって……」
十八歳なんてまだ高校生でもおかしくない歳だ。それなのにこの落ち着き様……。すごいのはもちろんだけど、少し悲しくも思えた。
本来は庇護されるべき歳なのに、それでも大人として振る舞わなければいけないような厳しい環境で育ってきたのだろうか。
「……なんだその目は」
「あっ、すみません。その、一切悪気はないのですが、なんというかその……」
「はっきり言え」
「うっ、その……可哀想だな、と、思い、まして……」
最後は尻すぼみになってしまったけど許してほしい。
だって、僕が言葉を発するごとにフェリクス殿下の周りの温度がどんどん下がっていくのだ。まるで氷の棘が刺さっているように痛い。
「哀れみのつもりか?」
「あ、いえ、そういうわけでは!」
フェリクス殿下にギロリと睨まれて、慌てて首を横に振る。
そんなつもりで言ったんじゃないのだ。ただ本当に純粋に、この歳で大人の振る舞いをしなければいけない環境に置かれていたことが不憫に思えただけで……いや、これ以上は言い訳にしかならないか。とにかく今は彼の怒りをどうにかするのが先刻だ。
「ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした!」
頭を下げつつちらりと顔色を窺うと、フェリクス殿下は恐ろしいほど綺麗な顔を盛大に歪めていた。
僕を一目見たフェリクス殿下の第一声はそれだった。
絶世の美男子に信じられないモノを見る目で見られて、逆に僕もこの世のものとは思えない美貌に唖然としてしまった。
透けるように白い肌は内側から輝いているようで、キラキラと光を反射する白銀の髪はビロードのように滑らかだ。髪と同じ色の睫毛に縁取られた瞳は、金を溶かしたように鮮やかな琥珀色をしている。
息を呑む美しさとはまさにこのことで、フェリクス殿下はとにかく美しかった。背の中程まである髪を一つに束ねていることもあって、中性的な美しさに感じられた。
間違いなく、僕が人生で見た中で最も美しい人だ。
「─父上が、そう言ったのか?」
「はい。国王陛下の命にございます」
「何故だ。召喚の儀はエヴァン殿下の血で行われたのではないのか」
「確かにエヴァン殿下の血液を用いましたが、エヴァン殿下がこのお方を聖女様とは認めないと仰せなのです」
「認めない?」
「はい。偽物なのではないか、と」
「はっ、それで偽物の面倒を俺に押し付けたというわけか?」
神官さんの言葉に、フェリクス殿下は整った眉を歪ませて嘲るように笑った。
美形の嘲笑は本当に心臓に悪い。言われるがままにのこのこ会いに来るんじゃなかった。
せめてこれ以上機嫌を損ねないようにと息を殺していれば、フェリクス殿下が美しい流し目で僕を一瞥した。
「いつまで惚けているつもりだ?」
「……っ!」
鋭い目に射貫かれて、思わず体が硬直した。
「あ、あの、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」
「……貴様の謝罪になんの価値がある」
「も、申し訳ございません」
一秒が何十秒にも感じられるほどの重たい沈黙。息が詰まるような張り詰めた空気に耐えきれずに、恐る恐ると顔を上げていた。
そしてすぐにそのことを後悔した。相変わらず美しいご尊顔が僕を冷たく見下ろしていたからだ。
「……まあいいだろう。父上の気まぐれはいつものことだ」
「よろしいのですか?」
「頑是の効かない子供のように駄々を捏ねればどうにかなるのか?」
「い、いえ、申し訳ありません」
フェリクス殿下は眉間に皺を寄せて神官さんを睨んでいたけど、その顔は少し寂しげにも見えた。
あの王様の子供ということは、今までにも色々と振り回されてきた被害者なのかもしれない。そう思うと親近感が湧いてきて、少しだけ肩の力が抜けた。
「……貴様、歳は幾つだ」
「二十八歳です」
「二十八……? 成人しているのか?」
「あ、はい。八年ほど前に」
またしても信じられない者を見る目をされてしまった。
特別童顔ってわけじゃないと思うけど、この世界の人からしたらそんなに若く見えるんだろうか。確かに外国の人から見たら日本人は幼く見えるって言うし、この国の人から見てもそうなのかもしれない。
「なんかすみません。ちなみに、フェリクス殿下はおいくつなんですか?」
落ち着いているし、二十五歳くらいかな。
「……貴様に教える義理はない」
「あ、そう、ですよね」
「……フェリクス殿下、恐れながら申し上げます。先に聖女様のお歳を伺ったのは殿下なのですから、フェリクス殿下もご自身のお歳をお答えするのが礼儀かと存じます」
神官さんの指摘に、フェリクス殿下が眉間の皺を深くした。
「……十八だ」
「あ、十八歳なんですね。落ち着いてらっしゃるからてっきり二十五くらいかとって、十八歳!?」
「うるさい。何か文句があるのか」
「いえっ、滅相もございません! ただそのっ、僕の世界では十八歳といえばまだ子供の年齢なので、少しびっくりしてしまって……」
十八歳なんてまだ高校生でもおかしくない歳だ。それなのにこの落ち着き様……。すごいのはもちろんだけど、少し悲しくも思えた。
本来は庇護されるべき歳なのに、それでも大人として振る舞わなければいけないような厳しい環境で育ってきたのだろうか。
「……なんだその目は」
「あっ、すみません。その、一切悪気はないのですが、なんというかその……」
「はっきり言え」
「うっ、その……可哀想だな、と、思い、まして……」
最後は尻すぼみになってしまったけど許してほしい。
だって、僕が言葉を発するごとにフェリクス殿下の周りの温度がどんどん下がっていくのだ。まるで氷の棘が刺さっているように痛い。
「哀れみのつもりか?」
「あ、いえ、そういうわけでは!」
フェリクス殿下にギロリと睨まれて、慌てて首を横に振る。
そんなつもりで言ったんじゃないのだ。ただ本当に純粋に、この歳で大人の振る舞いをしなければいけない環境に置かれていたことが不憫に思えただけで……いや、これ以上は言い訳にしかならないか。とにかく今は彼の怒りをどうにかするのが先刻だ。
「ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした!」
頭を下げつつちらりと顔色を窺うと、フェリクス殿下は恐ろしいほど綺麗な顔を盛大に歪めていた。
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