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その後の話
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八年ぶりに再会して、俺たちはまた一から関係をスタートさせた。
お互いの嘘から始まったこの関係は、始まりの日から十年以上経った今も続いている。
「秀星、お弁当忘れてるよ」
「んー、わざと」
「え?」
「お弁当持ってお見送りしてくれんの、新婚みたいでいいじゃん」
「何それ」
「嫌だ?」
「ううん。忘れ物しなくても、言ってくれれば毎日するのに」
「じゃあ、明日からお願いします」
「うん。行ってらっしゃい」
「……行ってらっしゃいのキスもしたいって言ったら嫌だ?」
「俺も、したかった」
言い終わるや否や、唇を食べる勢いで熱烈なキスをお見舞いされた。
「んぅ、ふっ、ン……っ」
行ってらっしゃいのキスにしては濃厚すぎるそれに腰が砕けそうになる。
秀星はキスが長いから息継ぎするのが大変だ。俺の息まで食べてるんじゃないかと思う。
「ぷはっ」と大きく息を吸い込んだところでまた唇を塞がれた。朝から熱烈すぎる気もするけど、こんな風に激しく求められるのも嫌いじゃないなあとふやける頭で思った。
やっと解放された頃には酸欠でクラクラしていた。俺の体力はもうゼロよ! 的な状態なのに、秀星はニコニコ笑って「もう一回する?」なんて小首を傾げてくる。
「する」
俺も大概チョロい男だ。でも秀星には敵わないから仕方ない。俺だって秀星が大好きだから、求められたら全部受け入れてしまうんだ。
「あー、幸多、可愛すぎるから家から出したくない」
「会社があるから……」
もちろん、たまには応えられない要求もある。
「浮気すんなよ」
「する相手、いないよ」
「羽多野さんは?」
「二年以上前だし、もうなんとも思ってないと思う」
「俺は八年経っても忘れられなかったんだぞ。二年そこらで忘れられるとは思えない」
「……ふっ、はは」
拗ねた子供みたいなことを言う秀星に思わず笑ってしまった。
そんな風に思ってくれるの、秀星だけなのに。
「その顔、俺以外に見せるなよ」
高校時代には分からなかったその言葉も今ならなんとなく分かる。
でも安心してほしいなと思う。秀星の前では笑顔が増えたけど、普段の俺は相変わらずの鉄仮面なのだ。
「好きな人にしか見せないよ」
だから、見せたくても秀星にしか見せられない。
秀星が形のいい目をパチパチさせて、次の瞬間、蕩けるような笑みを浮かべた。
その顔こそ、俺以外に見せないでね。そう言いたかったけど、優しいキスで呼吸ごと奪われてしまった。
お互いの嘘から始まったこの関係は、始まりの日から十年以上経った今も続いている。
「秀星、お弁当忘れてるよ」
「んー、わざと」
「え?」
「お弁当持ってお見送りしてくれんの、新婚みたいでいいじゃん」
「何それ」
「嫌だ?」
「ううん。忘れ物しなくても、言ってくれれば毎日するのに」
「じゃあ、明日からお願いします」
「うん。行ってらっしゃい」
「……行ってらっしゃいのキスもしたいって言ったら嫌だ?」
「俺も、したかった」
言い終わるや否や、唇を食べる勢いで熱烈なキスをお見舞いされた。
「んぅ、ふっ、ン……っ」
行ってらっしゃいのキスにしては濃厚すぎるそれに腰が砕けそうになる。
秀星はキスが長いから息継ぎするのが大変だ。俺の息まで食べてるんじゃないかと思う。
「ぷはっ」と大きく息を吸い込んだところでまた唇を塞がれた。朝から熱烈すぎる気もするけど、こんな風に激しく求められるのも嫌いじゃないなあとふやける頭で思った。
やっと解放された頃には酸欠でクラクラしていた。俺の体力はもうゼロよ! 的な状態なのに、秀星はニコニコ笑って「もう一回する?」なんて小首を傾げてくる。
「する」
俺も大概チョロい男だ。でも秀星には敵わないから仕方ない。俺だって秀星が大好きだから、求められたら全部受け入れてしまうんだ。
「あー、幸多、可愛すぎるから家から出したくない」
「会社があるから……」
もちろん、たまには応えられない要求もある。
「浮気すんなよ」
「する相手、いないよ」
「羽多野さんは?」
「二年以上前だし、もうなんとも思ってないと思う」
「俺は八年経っても忘れられなかったんだぞ。二年そこらで忘れられるとは思えない」
「……ふっ、はは」
拗ねた子供みたいなことを言う秀星に思わず笑ってしまった。
そんな風に思ってくれるの、秀星だけなのに。
「その顔、俺以外に見せるなよ」
高校時代には分からなかったその言葉も今ならなんとなく分かる。
でも安心してほしいなと思う。秀星の前では笑顔が増えたけど、普段の俺は相変わらずの鉄仮面なのだ。
「好きな人にしか見せないよ」
だから、見せたくても秀星にしか見せられない。
秀星が形のいい目をパチパチさせて、次の瞬間、蕩けるような笑みを浮かべた。
その顔こそ、俺以外に見せないでね。そう言いたかったけど、優しいキスで呼吸ごと奪われてしまった。
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後輩の存在が如何にも当て馬なのがなー
あっ 当て馬だ…て丸わかり。
あっさり復縁せずに友達からなら尚良かった、改心したとはいえクズだったし。
取り巻きのクズどもが揃って因果応報くらったっぽいのが1番良かった。
完結おめでとうございます🎉
すごく素敵なお話でした🥹
柿谷君の健気さにすごく泣きました。
向坂君が最初は嫌々だったのに柿谷君を好きになって、離れて初めて大切さに気づく所が胸がギュッとなりました。
羽多野君がすごくいい人で柿谷君のことをほんとに好きだからこのふたりが付き合っても幸せなのかなとは思いました。後輩くんにも幸せになって欲しいです☺️
厚かましいのですが、番外編もいつか見てみたいです🥰
主人公くんの健気さというか、いじらしさに泣けましたー😭
幸せな結末で良かったです‼️
後輩くんもいい子だったので、そっちと付き合う事になってもきっとハッピーエンドでしたね‼️
健気受けはいいですよね😭😭
ハピエン大好き芸人なので最後は幸せになってもらいました☺️
実はギリギリまで後輩君エンドにするか悩んでいたのですが、攻めの方が受けがいないと生きていけなさそうだったので後輩君エンドは却下になりました🥲