罰ゲームから始まる不毛な恋とその結末

キスがしたい

　キスをするようになってから、柿谷の様子がおかしくなった。
　視線が合わなくなるのは以前からだったが、それにしたって露骨だ。俺が話しかけようとすると慌てて逃げるし、話しかけにこないと思ったら物陰からこっちを窺っている。
　かと思えば、ポーッとした顔で見上げてきて、しまいには物欲しげに唇を開くのだ。
　誘っているのかと思って顔を寄せれば、ギョッと目を剥いて唇を引き結ぶ。
　その反応を見て、柿谷はキスが嫌いなのかもしれないと思い至った。

「柿谷、こっち見て」
「っ……」

　今日も今日とて、柿谷は難しい顔をして唇を引き結んでいる。
　そんなに警戒しなくても、もうしねぇよ。ビシッとデコピンしてやれば、柿谷がじわりと目尻に涙を滲ませた。

「痛い」
「痛くしたからな」
「……怒ってる？」
「別に。……安心しろよ、もうしないから」
「あ、よかった」

　額を押さえてほっと安堵した柿谷にため息をつく。

「デコピンじゃなくてキス」
「え？」
「もうしないから、ちゃんとこっち見ろ」

　顎を掴んで目線を合わせれば、柿谷が潤んだ瞳を不安げに揺らした。

「な、んで……？」

　なんでって、お前が嫌がるからだろ。

「……なんでもいいだろ」
「よ、よくないっ」

　柿谷にしては珍しく大きな声だった。
　さっきまで不安げだった瞳が、今は悲しげに歪んでいる。

「お、俺、変な顔、しないから」
「……は？」
「向坂が嫌がる顔しないから！　だ、だからっ」
「……なに？」

　自分でもびっくりするくらい甘い声が出た。
　柿谷が小さく息を詰める。つぶらな瞳から、ポロリと涙が一粒こぼれ落ちた。

「キス、してほしぃ」

　消え入りそうな声に、腹の底から興奮が込み上げてくるのを感じた。
　こんなのもう、無理だろ。堰き止めていたものが溢れ出るように、衝動に任せて唇を奪っていた。

「ンっ、ふぁ、む……ぅんン」

　小さな頭を抱え込んで柔らかな唇を食む。快感に耐えるように小さく震える姿に脳が茹だるような感覚を覚えた。
　柿谷の口は小さく、俺の舌を受け入れるので精一杯だ。それでも必死に応えようと舌を伸ばす様がいじらしい。唾液を送り込みながら舌先で上顎を舐ると、ビクンッと腕の中の身体が跳ねた。

「んっふ……ぁ……こうさ……」
「満足した？」

　腰砕けになった身体を支えながら尋ねれば、柿谷が蕩けた目で俺を見上げた。

「……り、なぃ」
「ん？」
「足り、ない」

　きゅっと袖を掴んで見上げてくる柿谷は、驚くほどいじらしくて目眩がした。

「こうさか……もっと」

　甘く痺れるような快楽をねだる声に、眩暈にも似た感覚を覚えた。

「向坂？」

　怪訝そうに首を傾げる柿谷の唇に吸い付く。

「ン、ふぁ……ン、んぁ……」

　舌を絡めながら唾液を流し込むと、従順な舌が懸命にそれを受け入れる。時折、こくんと唾液を嚥下する様子が堪らなくエロかった。

「はっ……柿谷……」
「こうさか……」

　淡白そうに見えて、意外と性欲が強いのだろうか。
　蕩けた瞳が期待に潤んで俺を見上げている。

「今日はもうおしまい」
「え……」
「昼休み、もう終わるから」
「……そ、そっか」
「そんな顔すんなよ」

　くしゃりと髪を撫でれば、柿谷が大人しくそれを受け入れた。