罰ゲームから始まる不毛な恋とその結末

すもも

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嘘の始まり

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 本当に大切な物は、失って初めて気づく。
 最低な嘘で騙し続けた恋人を失った日、ありきたりなその言葉が真実だと痛感させられた。


「はい、向坂の負け~。じゃ、約束通り罰ゲームで柿谷に告白な」

 楽しげな河原の声に、谷口が不思議そうに首を傾げた。

「なんで柿谷? つーか柿谷って誰だっけ」
「B組のほら、なんつーの、すげぇ空気薄くてボーッとした感じの、なんだっけ、中学の時石仮面とか呼ばれてたやつ」
「あー、鉄仮面君ね。で、なんでアイツなわけ? どうせ無反応だからつまんねーじゃん」
「いやなんかさ、ゲイだって噂あんだよ。だから向坂に告られたらマジんなんじゃねぇかと思って」
「おっまえ、ひでぇなぁ」

 口ではそう言いながらも、谷口も手を叩いてゲラゲラと笑っている。
 他人事だと思いやがって。舌打ちを噛み殺して苦笑いしていれば、側から様子を窺っていた鹿野が声をかけてきた。

「秀君かわいそ~。罰ゲームなんかやめて私と付き合えばいいのに」
「おー、確かに。お前らいい加減付き合っちまえよ。前噂流れた時も結局付き合ってなかったんだろ?」
「そうなのぉ。誰があんな噂流したのかなぁ、困っちゃう」

 クネクネ体をくねらせながら、わざとらしく胸を当ててくるあたり強かな女だ。
 誰が噂を流したって、お前が外堀を埋めるために流した噂だろうが。カマトトぶった態度に余計に苛立ちが募った。
 嫌味の一つでも言ってやりたくなるが、面倒ごとを避けるために培ってきた外面が邪魔をする。

「鹿野とはそんなんじゃないって言ってるだろ」

 お決まりのセリフを口にすれば、視界の隅で鹿野の媚びた笑みが固まるのが見えた。その顔に多少溜飲が下がる。
 俺の返しがお気に召さなかったらしく、谷口がつまらなそうに口を尖らせた。

「スカしてっけどさあ、お前やっぱ藤咲センパイのこと引きずってるだけだろ」
「そりゃそうだろ。芸能人かってくらい可愛くてスタイルも抜群だったしなぁ。いいなぁ、俺も巨乳美人の乳揉みてぇよ」

 藤咲センパイ。二年半前に別れて以来、久しく聞かない名前だ。
 あの人と別れてしばらく恋人を作らなかったからか、未練があると勘違いされているらしい。
 ただ正直なところ、特別に思い入れがあるわけじゃなかった。
 人目を引く容姿の彼女と付き合えば、面食いだと噂が立って下手に告白してくる女が減ると思っただけだ。

「あの人のことはもうなんとも思ってないよ」
「へぇ? でも藤咲センパイからは今でも連絡あんだろ?」
「まぁ、たまにね」
「か~っ、これだからモテる男はよぉ~。美鈴ちゃん今の聞いてどう?」
「う~ん、どうだろ。私的には藤咲先輩と秀君は合わなそうだなって思ってたし、その気がないなら連絡も無視していいんじゃないかな」
「はは、美鈴ちゃん意外とさっぱりしてんだね。そういうとこもいいわぁ。向坂マジで美鈴ちゃんと付き合わないわけ? 俺なら喜んで美鈴ちゃんとお付き合いするのに」
「あはは、ありがとー」

 鹿野の分かりやすい愛想笑いにも谷口はデレデレと鼻の下を伸ばした。コイツは将来女絡みで苦労しそうだ。
 内心で嘲りながらも、表面上はにこやかに微笑んでみせる。

「確かに、谷口と鹿野はお似合いかもね」
「おっ、向坂もそう思う? どうするぅ、美鈴ちゃん。マジで付き合っちゃう?」
「え~、へへ、でも私好きな人いるから」

 チラッと上目遣いで見上げてくる鹿野から視線を逸らす。
 何を見えないフリをして、大げさにため息をついた。

「それじゃ、さっさと終わらせよっか」
「あ、早速罰ゲームやっちゃう感じ?」
「俺動画撮ってもいい?」
「それは勘弁して。大丈夫、ちゃんとやるよ」
「え~、秀君ほんとにやるのぉ?」
「一応約束だからね」
「そうそう。学校一のモテ男が冴えない野郎に告るとかマジウケんじゃん」
「……別に、ウケないだろ」
「ん? なんか言った?」
「いや、なんでもないよ」

 くだらない。そう吐き捨ててこの茶番を終わらせることができない俺も、結局はコイツらと同じ穴の狢だ。
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