ヤクザと捨て子

幕間ささめ

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物語の始まり

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とりあえず、子どもを抱き上げてそのまま部屋に行った。服を脱がせ温かいタオルで丁寧に身体を拭き、自分のシャツを着せた。こんな手間をする自分に驚く。

「酔狂なこった。……しかしまぁ、痩せすぎだな。しっかり食わせて、下っ端倒せるぐらいの力はつけさせたいんだよな。」

暫く、子どもの顔や身体を眺めていた。どんな服を着せるか、何を好んで食べるか、どんな顔するのか色々考えが巡っていた。そして、

「ゆき……名前、雪だな。お前は、今日から雪だ。 」

ふと溢れ、特に意味もない。直感だ。強いて言うなら、その白すぎる肌に魅せられたというぐらいだろう。名前がついたことで、自分のものという気持ちが強まる。

ぁあ、早く起きて俺を認識してくれないかなぁ。愛しい気持ちと狂気を孕んだ感情が初めて生まれ、ハイになっている。

暫く雪の顔を見ながら頭を撫でて心を落ち着かせていた。
まぁ焦らずとも一生側にいるんだ。ゆっくりじっくりと育ててようじゃないか。俺だけの雪なのだから。

「ピンポーン」

暫くしてインターホンとともに向田が部下数名と来た。

「湊さん、とりあえず至急必要な物はお待ちしました。他は、明日こちらに配達されます。」

「おい、お前ら。こいつの名前、雪に決めた。向田、戸籍いじっとけよ。」

「承知しました。戸籍すぐに手配致します。雪さんですね。」

「お前だからまだいいが、他の人間が雪を呼んで視界に入れるの嫌だな。部屋の奥に閉じ込めて、誰にも触れさせず俺だけのものにしたい。」

向田は、湊の言動から雪への執着心に驚いた。支配者が自ら服を着替えさせたことだけでも驚くというのに、名前を与えて、監禁紛いの独占欲を表した。一体、雪のどこに惹かれたのだろうか。この短時間で、狂気を宿すまでの何か。もう運命的な何かだろう。

そんな向田は、長い付き合いになるだろうとだけ結論づけ考えるのやめた。他人の考えや気持ちなど、本人以外到底知り得ないのだから。

「とりあえず、雪くんが起きたらご連絡ください。その身体です。一度、医者に診てもらった方が良いでしょう。悠馬には連絡をつけてありますので。」

「ぁあ、そうだな。すぐ死なれては困る。それと悠馬じゃなくてクソジジイ待機させておけ。金は要求する額出して構わない。」

「かしこまりました。」

珍しい。闇医者の中でも腕は確かだが、クセが強すぎるのと高額すぎる為、緊急時以外は頼らない佐伯を待機させるとは。弟子の悠馬の方が、意思疎通がとれると思ったが。

「悠馬はダメだ。年が近い。」

ただの嫉妬のような独占欲だった。

「今後もそのように。今からそんなんじゃ、先が思いやられますね。雪くんも大変な方に拾われてしまった。」

「もう、雪は一生俺のだ。せっかく、子どもの内に拾ったんだ。俺好みに美味しく育てる。」

湊は、笑顔でそうゆうともう一度頭を撫で雪のおでこにキスをした。まるで、眠り姫と王子だ。そんな綺麗でも美しい物語でもないが様になる。

冷徹で人を人とも思わないような男が見せた執着は、
この世界ではすぐ死んでしまうような捨てられた弱い子どもへと向いた。

ある意味、裏世界の御伽話。


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