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第5章 ユリシーズ・フォークロア

第38話 呼び名

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 『ファラウェイ・ワールド・オンライン』エリア1中央噴水近く、バー『雨宿り』。

「マスター、ジンジャーエール、おかわり」
「飲み過ぎはよくないぜ」
「ジンジャーエールを飲み過ぎてどこが悪くなるっていうのよ」
「何事もほどほどが一番ってことだ」
「まあ、そうだけど」

 最近は立派な常連と呼べるほど、よく来るようになった。もっとも、本来の目的である情報交換はさっぱりである。まあ、憩いの場として作ったというのも2番目の理由にあるから、ただくつろぐだけでも間違いではないのだけれども。

 からんからん

「こんにちは、マスター。…と、ミリアナさん」
「ああ、ひさしぶり」
「ユリシーズさん? 今日は、他のお客も詐欺情報もないですよ?」
「わかってますよ。今のあなたと同じで、休みに来ただけです。マスター、ロックで」
「あいよ」

 ウイスキーの水無しロックかあ。さすが、リアルでも社会人なだけはある。

「あ、私はリアルでは全くお酒を飲みませんよ? 下戸なので」
「心を読まないで」

 などと、他愛もない話をする。といっても、私としては、ここぞとばかりにリアルの話を繰り広げてしまう。なにしろ、ユリシーズさんは私のあらゆる『秘密』を把握しているからだ。

「…ということがありましてね。もう、『新緑の騎士団』のギルメンも『神々の黄昏』同様、みんなに引き込んでしまいませんか? ミストライブラを現実の拠点にするのは厳しいかもですけど」
「それがいいかもしれませんね。ですけど、そうなるとますます霧雨さんの…」
「私の…なに? あと、ミリアナとしてじゃなくて?」
「あー…いえ、なんでもありません。…時期尚早、なんでしょうねえ、がこれでは」

 ん? ユリシーズさんも、前島さんや拓也のような奇妙な反応を…?

 あれ、そういえば。

「『ユリシーズ・フォークロア』…?」
「表示に気がつきましたか。諜報活動がめっきり少なくなって、本来の運営の仕事の方が多くなっているので、ひと目で運営関係者とわかるようにしたんですよ。混乱を避けるため、一般ユーザは名前を『フォークロア』にしたり組み合わせたりできないようにしていますからね」

 なるほど。じゃあ…。

「そろそろ、リアルの本名、教えてもらえますか? ユーマ…前島さんとかも気にしてますよ」
「別に構いませんけど…でも、ミリアナさん、あなたは社長のフルネーム言えます?」
「それは…あれ?」

 おかしいな、運営会社の公式サイトとかにも出てるはずなのに、記憶にない…というか、どうでもいい。ごめんなさい、社長さん。

「運営の中の人なんて、ユーザにとってはその程度ってことですよ。もちろん、あなたを含めたお三方は、もはや普通のユーザではありませんが。いい意味で、ですよ?」

 そういうこと、なのかな…。まあ、適切な呼び名さえあればいいってことだよね。でも、だからって前島さんをユッキーとか呼びたくないよ?

「私の本名は隠しているわけではありませんし、お知りになりたかったら、会社受付とかで訪ねてみて下さい。では、私はこれで」
「気分転換にはなりましたか? 大型アップデート作業中なんでしょう? …ミストライブラ現界絡みで滞ったみたいですが」
「知ってましたか…。結果は近日中には。お楽しみに。マスター、お勘定」
「700ポイントだ」

 ピッ

「では、また」

 からんからん

「それじゃあ、私もこれで。マスター、お勘定」
「ジンジャーエール7杯で1400ポイントな。…やっぱり飲み過ぎだ」

 そう?
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