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第4章 ヘラルド・ミストライブラ

第34話 天空城

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 街や村がいくつか点在する、太平洋上に浮かぶ島。
 その島の中央の火山が、突如噴火を始めた。

『住民は本国への避難を完了しましたが、放置すれば街や村の多くがマグマに飲まれ、火山灰が降り注ぎます。人類史の研究の観点で貴重な遺跡も残っており、可能であれば被害を最小限に留めたいのです。また、近くには水脈があり、水蒸気爆発を巻き起こす可能性があります。大気中を通じて、近隣諸国への被害もどんどん広がっていくでしょう」

 眼前のふもとに広がるのは、マグマあふれる熱風地帯。全員がパッシブスキルで耐熱効果を発動していなければ、暑さで、いや、熱さでおかしくなってしまうだろう。
 そして火山は、今は小康状態だが、またいつ噴火するかわからない。

「現実だ…VRと、全く違う…」
「現実だけど…異世界感ハンパねえ…」

 『神々の黄昏』のギルメンのふたりは、そうつぶやく。まあねえ、『現界』に関する予備知識もない状態で、一緒にこんなところに転移してきたらねえ。トラウマにならないか、これ。

「すげえなあ…。ミリアナ、最近アンタいつもこんなことしてたのか」
「さすがにここまでドラスティックな自然現象は初めてだけど。ていうか、ユリシーズさん、私ひとりにこれ対処させようとしてたの?」
『「ミリアナ・レインフォール」なら広範囲の束縛魔法がありますから、少なくともマグマの流出を抑えることができると考えたのです』
「それ使うと、一発でMP全損なんだけど。一回の束縛バインドでは済まないよ」

 まあ、私しか対応できないとなれば、やらないよりはマシってことだったのだろう。

「…よし、じゃあ、俺がやる。天空城、顕現準備スタンバイ!」

【アバター名『ヘラルド』により、天空城の顕現準備が指示されました。十秒後に準備が完了します。10…5…3、2、1。天空城、いつでも顕現可能です】

顕現せよセットアップ、ミストライブラ!」

 ぶおんっ

 私達の頭上に現れる、巨大な塊の何か。真下からでは、切り崩された崖のような、無数の岩の槍のような、そんな光景しか見えない。

 ゴゴゴゴゴ…

 しかし、少しずつ火山に向けて移動していくにつれて見えてくる、その崖や岩の塊の上にそびえ立つ、白亜の城。

「ミリアナ、また俺達を転移させてくれ。現実世界だと、俺達だけじゃ自由に転移できないらしい」
「場所は?」
「天空城ミストライブラ、中央司令室」
「わかった」

 ピッピッピッ

現実世界Real Worldの『天空城ミストライブラ・中央司令室』に転移します。よろしいですか? [はい/いいえ]】

 [はい]を、押す。



 城の中央に備え付けられた司令室。城の外観は近代ヨーロッパ風なのに、ここだけは近未来風だ。宇宙戦艦のブリッジっぽいと言えばわかるだろうか。

「それじゃ、ふたりは左右のそれぞれの場所に座って、パネルに手を置いてくれ」
「おう。こうか?」
「ああ。それじゃあ、お前のスキルからいくぞ。『束縛バインド』!」

 城全体が輝いているのだろうか、ブリッジで映し出している外の様子や窓の向こうがうっすらと光る。
 その直後、眼前の火山全体が同じく光り輝いたかと思うと、マグマや煙の動きがぴしっと固まる。

「よし! じゃあ、次のスキル!」
「ああ、いつでもいいぜ!」
「『氷結アブソリュート』!」

 火山地帯全体のマグマが一斉に冷え、次々と岩の塊と化していく。あちこちからまだ煙が立ち上っているが、火山内のマグマを含め、ほぼ沈静化しただろう。

「すごいね…。圧倒的じゃない」
「俺のMPを糧に、左右に座るアバターの魔法スキルを増幅するんだ。およそ100倍」
「え、蹂躙し放題じゃない!」
「今の俺のステータスだと、2回連続が限界だな。そして、クールタイムが1時間っていう」
「あらら」

 運営、何を考えてこんなの作ったんだろう。もしかして、国盗りシステムでも入れるつもりなのだろうか。現バージョンの最終クエストまで、戦闘対象は一貫して魔物かPvPだったからなあ。

「…ヘラルド! 右前方の奥がまだ収まっていない! わずかだけど、近くに村が!」
「くっ…全然間に合わない! まだ5分しか経ってねえ!」

 城の性能のバランス調整が、ここではアダとなったようだ。

「最後くらい、私にやらせて」
「あ、おい、ミリアナ…」

現実世界Real Worldの『◯◯島・△△村上空』に転移します。よろしいですか? [はい/いいえ]】

 [はい]を、押す。

 ひゅんっ

 眼前の村に迫りくるマグマ。火山灰はほとんどないが、濃い煙も漂ってくる。

「これで…終わりよ! 『シャイニー・レイン』!!」

 気がつけば、『遥かなる闇の王』を倒した時と同じセリフを叫んでいた私。残っていたマグマと煙が『魔剣レインフォール』から生まれた光の奔流に包み込まれ、ふっと消える。

「…他は大丈夫そうだね。よし、戻ろう」

 ひゅんっ

「終わったよ」
「…やっぱり、最強トッププレイヤーはまだまだアンタだな」
「褒めてるの、それ?」

 現実世界の出来事だからねえ。

「よし、それじゃあ、城を一旦収納して、ゲーム内に戻ろうか」
「なあ、ギルドホームの上空に顕現させないか? 目立つぜ!」
「現実世界のことはおおっぴらにできないから、それくらいしようぜ!」
「だな。ミリアナ、アンタも来るだろう? 俺の『ヘラルド・ミストライブラ』襲名記念パーティ!」
「謹んでお断りいたします」

 ミリアナのイメージではないしなあ。
 まあ、『コナミ・サキ』としては出席してあげるけど? かわいい弟の晴れ舞台を最後まで見届けてあげるから!
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