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第3章 ユーマ・アイスフィールド
第20話 らしくない二人
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あのアナウンスは、誰の言葉なのか。
能力発現に関わるインタフェース設定はともかく、私が無意識にあそこまでの言葉を仕込むとは思えない。他ならぬ私が言うんだから間違いない。
とはいえ、実は運営側の演出でしたというのはいまさら過ぎる。当時の社長さんやユリシーズさんの驚きは本物だった。
やっぱり神の領域だけに、神様がいるのだろうか? それにしては、このことだけ妙に穴となっているところがあやしすぎて―――
「ねえ、ミナ、大丈夫…?」
「え、あ、ご、こめんなさい。ちょっと、考え込んじゃって。それだけ、だから」
「そう? なら、いいけど…」
前島さんの手が近づき、あの時と同じように、私の頬に触れる。
「なんか…怖かった。ミナらしく、ない」
「そんな顔、してた?」
「うん、してた」
怖かった…か。確かに、私らしくない。こんな状況の時は、おどおどするか、あせってあわてるか、あきらめて開き直るか。それがいつもの私…霧雨美奈子の姿だ。
でも、今の心境はどちらかというと、『ミリアナ・レインフォール』としてクエスト攻略している時に近い。立ち塞がる壁を、いかにして突破するか。ただそれだけを考え、ひとりで挑んでいく。
たかがゲーム、されどゲーム。仮想世界の中だけの存在でしかなかったそれは、いつの間にか現実世界よりも現実っぽくなっていて。私は確かにここにいると思わせてくれる、安心感。
『霧雨さんは、仮想世界で誰よりもリアリティを感じているのかもしれませんね』
いつか聞いたユリシーズさんの言葉を思い出す。私にとっての『ファラウェイ・ワールド・オンライン』は、もうひとつの現実だ。他の人もそうだと思っていたんだけど…ソロの弊害かな。
「む、ミナ、他の人のこと考えてる?」
「え? そ、そんなことないよ?」
「そうかなあ…。神秘的な佇まいもミナの魅力のひとつだけど、心ここにあらずなのは、寂しい」
「…ごめんなさい。って、神秘的?」
神秘がどうとかはよくわからないけど、今の前島さんは、私のことをよく見てくれている。一方的に喋っているように見える時も、いつも相手を観察していろいろと気遣ってくれる。それは、わかる。
だから、
「でも、ありがとう」
「え、お礼を言われるようなことしたっけ?」
「したよ。今もこうして、見てくれるから」
現実世界も、もちろん私の現実だ。大切にしていかないとね。
「あの、お客様…」
◇
電器店を出て、あらためて映画館に向かう。
「結局、よくわからなかった…」
「前島さん、本当に機械とか苦手なんだね」
「いや、ボクもここまでとは思ってなかった…」
なんでもそつなくこなすと思っていたから、ちょっと新鮮だ。学校では、頼りになるリーダーって感じだけに。
「それじゃあ、映画見て、お昼食べたら、前島さんの家に行く? 私が直接設定してみるよ」
「ふえ!? い、いや、それは、ちょっと…!?」
えっ、なに、これまでになく動揺したその様子は。前島さんのセリフじゃないけど、らしくないよ?
「ごめんなさい、なれなれしかった?」
「い、いや、そんな、そんなことはないよ!? ただ、今日はちょっと…」
「あ、用事があるんだね。じゃあ、次の機会に」
「う、うん」
なんか、会話のやりとりがいつもの逆っぽくなってしまったような。しどろもどろの前島さんも新鮮でちょっといいかも…というのは、やっぱり失礼かな?
「…相手にされていないことはわかっていたけど、ここまでとは…」
「ん?」
「なんでも、ない…」
能力発現に関わるインタフェース設定はともかく、私が無意識にあそこまでの言葉を仕込むとは思えない。他ならぬ私が言うんだから間違いない。
とはいえ、実は運営側の演出でしたというのはいまさら過ぎる。当時の社長さんやユリシーズさんの驚きは本物だった。
やっぱり神の領域だけに、神様がいるのだろうか? それにしては、このことだけ妙に穴となっているところがあやしすぎて―――
「ねえ、ミナ、大丈夫…?」
「え、あ、ご、こめんなさい。ちょっと、考え込んじゃって。それだけ、だから」
「そう? なら、いいけど…」
前島さんの手が近づき、あの時と同じように、私の頬に触れる。
「なんか…怖かった。ミナらしく、ない」
「そんな顔、してた?」
「うん、してた」
怖かった…か。確かに、私らしくない。こんな状況の時は、おどおどするか、あせってあわてるか、あきらめて開き直るか。それがいつもの私…霧雨美奈子の姿だ。
でも、今の心境はどちらかというと、『ミリアナ・レインフォール』としてクエスト攻略している時に近い。立ち塞がる壁を、いかにして突破するか。ただそれだけを考え、ひとりで挑んでいく。
たかがゲーム、されどゲーム。仮想世界の中だけの存在でしかなかったそれは、いつの間にか現実世界よりも現実っぽくなっていて。私は確かにここにいると思わせてくれる、安心感。
『霧雨さんは、仮想世界で誰よりもリアリティを感じているのかもしれませんね』
いつか聞いたユリシーズさんの言葉を思い出す。私にとっての『ファラウェイ・ワールド・オンライン』は、もうひとつの現実だ。他の人もそうだと思っていたんだけど…ソロの弊害かな。
「む、ミナ、他の人のこと考えてる?」
「え? そ、そんなことないよ?」
「そうかなあ…。神秘的な佇まいもミナの魅力のひとつだけど、心ここにあらずなのは、寂しい」
「…ごめんなさい。って、神秘的?」
神秘がどうとかはよくわからないけど、今の前島さんは、私のことをよく見てくれている。一方的に喋っているように見える時も、いつも相手を観察していろいろと気遣ってくれる。それは、わかる。
だから、
「でも、ありがとう」
「え、お礼を言われるようなことしたっけ?」
「したよ。今もこうして、見てくれるから」
現実世界も、もちろん私の現実だ。大切にしていかないとね。
「あの、お客様…」
◇
電器店を出て、あらためて映画館に向かう。
「結局、よくわからなかった…」
「前島さん、本当に機械とか苦手なんだね」
「いや、ボクもここまでとは思ってなかった…」
なんでもそつなくこなすと思っていたから、ちょっと新鮮だ。学校では、頼りになるリーダーって感じだけに。
「それじゃあ、映画見て、お昼食べたら、前島さんの家に行く? 私が直接設定してみるよ」
「ふえ!? い、いや、それは、ちょっと…!?」
えっ、なに、これまでになく動揺したその様子は。前島さんのセリフじゃないけど、らしくないよ?
「ごめんなさい、なれなれしかった?」
「い、いや、そんな、そんなことはないよ!? ただ、今日はちょっと…」
「あ、用事があるんだね。じゃあ、次の機会に」
「う、うん」
なんか、会話のやりとりがいつもの逆っぽくなってしまったような。しどろもどろの前島さんも新鮮でちょっといいかも…というのは、やっぱり失礼かな?
「…相手にされていないことはわかっていたけど、ここまでとは…」
「ん?」
「なんでも、ない…」
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