上 下
21 / 106
第3章 ユーマ・アイスフィールド

第20話 らしくない二人

しおりを挟む
 あのアナウンスは、の言葉なのか。

 能力発現に関わるインタフェース設定はともかく、私が無意識にあそこまでの言葉を仕込むとは思えない。他ならぬ私が言うんだから間違いない。
 とはいえ、実は運営側の演出でしたというのはいまさら過ぎる。当時の社長さんやユリシーズさんの驚きは本物だった。

 やっぱり神の領域だけに、神様がいるのだろうか? それにしては、このことだけ妙に穴となっているところがあやしすぎて―――

「ねえ、ミナ、大丈夫…?」
「え、あ、ご、こめんなさい。ちょっと、考え込んじゃって。それだけ、だから」
「そう? なら、いいけど…」

 前島さんの手が近づき、と同じように、私の頬に触れる。

「なんか…怖かった。ミナらしく、ない」
「そんな顔、してた?」
「うん、してた」

 怖かった…か。確かに、私らしくない。こんな状況の時は、おどおどするか、あせってあわてるか、あきらめて開き直るか。それがいつもの私…霧雨きりさめ美奈子みなこの姿だ。

 でも、今の心境はどちらかというと、『ミリアナ・レインフォール』としてクエスト攻略している時に近い。立ち塞がる壁を、いかにして突破するか。ただそれだけを考え、ひとりで挑んでいく。
 たかがゲーム、されどゲーム。仮想世界の中だけの存在でしかなかったそれは、いつの間にか現実世界よりも現実っぽくなっていて。と思わせてくれる、安心感。

『霧雨さんは、仮想世界で誰よりもリアリティを感じているのかもしれませんね』

 いつか聞いたユリシーズさんの言葉を思い出す。私にとっての『ファラウェイ・ワールド・オンライン』は、もうひとつの現実だ。他の人もそうだと思っていたんだけど…ソロの弊害かな。

「む、ミナ、他の人のこと考えてる?」
「え? そ、そんなことないよ?」
「そうかなあ…。神秘的な佇まいもミナの魅力のひとつだけど、心ここにあらずなのは、寂しい」
「…ごめんなさい。って、神秘的?」

 神秘がどうとかはよくわからないけど、今の前島さんは、私のことをよく見てくれている。一方的に喋っているように見える時も、いつも相手を観察していろいろと気遣ってくれる。それは、わかる。

 だから、

「でも、ありがとう」
「え、お礼を言われるようなことしたっけ?」
「したよ。今もこうして、見てくれるから」

 現実世界も、もちろん私の現実だ。大切にしていかないとね。

「あの、お客様…」



 電器店を出て、あらためて映画館に向かう。

「結局、よくわからなかった…」
「前島さん、本当に機械とか苦手なんだね」
「いや、ボクもここまでとは思ってなかった…」

 なんでもそつなくこなすと思っていたから、ちょっと新鮮だ。学校では、頼りになるリーダーって感じだけに。

「それじゃあ、映画見て、お昼食べたら、前島さんの家に行く? 私が直接設定してみるよ」
「ふえ!? い、いや、それは、ちょっと…!?」

 えっ、なに、これまでになく動揺したその様子は。前島さんのセリフじゃないけど、らしくないよ?

「ごめんなさい、なれなれしかった?」
「い、いや、そんな、そんなことはないよ!? ただ、今日はちょっと…」
「あ、用事があるんだね。じゃあ、次の機会に」
「う、うん」

 なんか、会話のやりとりがいつもの逆っぽくなってしまったような。しどろもどろの前島さんも新鮮でちょっといいかも…というのは、やっぱり失礼かな?

「…相手にされていないことはわかっていたけど、ここまでとは…」
「ん?」
「なんでも、ない…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

憧れの世界でもう一度

五味
ファンタジー
かつて一世を風靡したゲームがあった。 多くのゲーム好きが待望してやまない仮想世界へ自分自身が入り込んだと、そう錯覚するほどのゲーム。 これまで視覚を外部から切り離し、没頭しやすい、それだけでVRゲームと呼ばれていた物とは一線を画したそのゲーム。 プレイヤーは専用の筐体を利用することで、完全な五感をゲームから得ることができた。 月代典仁もそのゲーム「Viva la Fantasia」に大いに時間を使った一人であった。 彼はその死の間際もそのゲームを思い出す。 そこで彼は多くの友人を作り、語らい、大いに楽しんだ。 彼が自分の人生を振り返る、その時にそれは欠かせないものであった。 満足感と共に目を閉じ、その人生に幕を下ろした彼に、ある問いかけがなされる。 「あなたが憧れた世界で、もう一度人生を送ってみませんか」と。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...