上 下
17 / 106
第2章 コナミ・サキ

第16話 原因と結果

しおりを挟む
 セレブがどうとかいう話は置いておくとして、それよりも何よりも、『現界』の仕組みだ。

「分析を始めてまだ一日も経っていませんが、断言できます。これは神の領域ですね。仕組みも何もないのでしょう」
「結論はやっ」
「いやだって、あり得ないじゃないですか。コンピュータのデータでしかなかったものが、一瞬のうちに現実に存在するものとなるなんて。逆もまたしかりです」

 そうだけど。そうだけどさあ。もうちょっとがんばってみようよ。ねえ。

「なので、我々が今調べているのは、霧雨さんと同じことが他のユーザやアバターでもできるようになるものなのか、ということなんです」
「ああ、再現性ってやつですね」
「ええ。仕組みがわからなくても、意図的に『現界』機能を組み込むことができれば、まだ対応のしようがありますから」
「でも、そんなことができたら…」
「間違いなく、人類の、いや、この世の全ての歴史が変わる」

 だよなあ。恐ろしいまでのファンタジーが現実のものとなるのだから。
 って、社長さん、ようやく発言したと思ったらそれですか。筋金入りの患者さんですね。

「そこで、早速いろいろと試したいのです。まずは、ここの設備からログインしてもらって、同じことができるか確認してみましょう」
「それって、私が使っているフルダイブ装置が原因かもしれないってことですか?」
「ええ。その可能性は限りなく低いですが」

 あのフルダイブ装置、拓也が使ってるのと同じなんだよね。一番安い量産型を一緒に買ったから。だからまあ、違うだろう。



 フルダイブ装置がたくさん集められた部屋で、何度もログインし、何度もログアウトした。そしてそのいずれにおいても、メニュー画面の『転移門』は機能した。

 残念ながら、『現界』したアバターの私にフルダイブ装置を付けても機能するかはわからなかった。なぜなら、ミリアナのアバターは使用中なのだから、重複ログインすることができないためだ。全く別のアバターにログインして接続しても、そのアバターの『転移門』メニューには、現実世界への項目が存在しない。

 いやまあ、現界したアバターの私がフルダイブ装置でログインできるって時点で、なんでもあり感が漂ったのだけれども。やってみた私達が言うのもなんだが。

「やはりというか、どのタイプのフルダイブ装置を使っても同じですね。…いや、それが鍵なのか?」
「どういうことですか?」
「このフルダイブ装置でログインしてみてもらえませんか? 最低限の機能しかない、旧式の中でも更に初期型に近いスペックのものです」

 結果。普通にこれまで通りだった。つまり?

「今回は現行の装置と併用しましたが、初期型のフルダイブ装置は、自然と眠りに入った際に脳に割り込むという仕組みです。仮想世界システムが生成する五感情報のやりとりも乏しく、まさしく夢を見ているようなあいまいなものとなるはずなのですが…」

 …夢? 現実世界と同じ感覚だったよ?

「霧雨さんは、仮想世界で誰よりもリアリティを感じでいるのかもしれませんね。しかしそうすると、やはりこの現象は…霧雨さん固有の能力ということになりそうです」

 はい、人外確定キター。で、でもでも、まだそうとは限らないよね? ね?

「実のところ、霧雨さんがログアウトしている間に、我々が何度も試したことがあったんですよ」
「ログアウトしている間?」
「我々は開発元ですからね。できるんですよ、『ミリアナ・レインフォール』のアバターに、他のユーザがログインして接続するということが」

 あ。

「結果は、誰でも『ミリアナ・レインフォール』となることができ、また、『転移門』のメニューにも現実世界への項目が表示されていました。…何度選択しても、現実世界に転移することなどありませんでしたが」

 …



「さて、最後の実験です。新規作成したアバターを用意して、『転移門』メニューに現実世界のこの部屋の位置情報を組み込んだ項目を新しく登録しました。ここに、あなたが作成した偽装アバターセット『コナミ・サキ』のデータをコピーしてアバター造形としています」
「…」
「このアバターに、ログインして接続してみて下さい」

 なんか、自分自身を追い詰めている気分…。

 あらためて横たわり、指定のユーザIDを登録したフルダイブ装置でログインする。

 周囲の風景が、何もない初期のマイルーム空間となる。ステータス画面を出すと、『コナミ・サキ』の偽装ステータスがそのままアバター本体の性能であることを示している。

 そして、『転移門』メニューを表示し、登録済の項目を選択する。

現実世界Real Worldの『地点A』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】

 …
 ………
 …………

 〔はい〕を、押す。

 ひゅんっ

 …
 ……
 ………

 ユリシーズさんが、語る。

「やはり『現界』機能は、我々のVRシステムに備わったものではないようですね。霧雨さん、あなた自身の能力です」

 目の前に横たわっている、姿自分自身を見ながら、私はその言葉を何度も頭の中で反芻していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。 社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。 ‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!? ―― 作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。 コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。 小説家になろう様でも掲載しています。 一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。

処理中です...