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第2章 コナミ・サキ
第16話 原因と結果
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セレブがどうとかいう話は置いておくとして、それよりも何よりも、『現界』の仕組みだ。
「分析を始めてまだ一日も経っていませんが、断言できます。これは神の領域ですね。仕組みも何もないのでしょう」
「結論はやっ」
「いやだって、あり得ないじゃないですか。コンピュータのデータでしかなかったものが、一瞬のうちに現実に存在するものとなるなんて。逆もまたしかりです」
そうだけど。そうだけどさあ。もうちょっとがんばってみようよ。ねえ。
「なので、我々が今調べているのは、霧雨さんと同じことが他のユーザやアバターでもできるようになるものなのか、ということなんです」
「ああ、再現性ってやつですね」
「ええ。仕組みがわからなくても、意図的に『現界』機能を組み込むことができれば、まだ対応のしようがありますから」
「でも、そんなことができたら…」
「間違いなく、人類の、いや、この世の全ての歴史が変わる」
だよなあ。恐ろしいまでのファンタジーが現実のものとなるのだから。
って、社長さん、ようやく発言したと思ったらそれですか。筋金入りの患者さんですね。
「そこで、早速いろいろと試したいのです。まずは、ここの設備からログインしてもらって、同じことができるか確認してみましょう」
「それって、私が使っているフルダイブ装置が原因かもしれないってことですか?」
「ええ。その可能性は限りなく低いですが」
あのフルダイブ装置、拓也が使ってるのと同じなんだよね。一番安い量産型を一緒に買ったから。だからまあ、違うだろう。
◇
フルダイブ装置がたくさん集められた部屋で、何度もログインし、何度もログアウトした。そしてそのいずれにおいても、メニュー画面の『転移門』は機能した。
残念ながら、『現界』したアバターの私にフルダイブ装置を付けても機能するかはわからなかった。なぜなら、ミリアナのアバターは使用中なのだから、重複ログインすることができないためだ。全く別のアバターにログインして接続しても、そのアバターの『転移門』メニューには、現実世界への項目が存在しない。
いやまあ、現界したアバターの私がフルダイブ装置でログインできるって時点で、なんでもあり感が漂ったのだけれども。やってみた私達が言うのもなんだが。
「やはりというか、どのタイプのフルダイブ装置を使っても同じですね。…いや、それが鍵なのか?」
「どういうことですか?」
「このフルダイブ装置でログインしてみてもらえませんか? 最低限の機能しかない、旧式の中でも更に初期型に近いスペックのものです」
結果。普通にこれまで通りだった。つまり?
「今回は現行の装置と併用しましたが、初期型のフルダイブ装置は、自然と眠りに入った際に脳に割り込むという仕組みです。仮想世界システムが生成する五感情報のやりとりも乏しく、まさしく夢を見ているようなあいまいなものとなるはずなのですが…」
…夢? 現実世界と同じ感覚だったよ?
「霧雨さんは、仮想世界で誰よりもリアリティを感じでいるのかもしれませんね。しかしそうすると、やはりこの現象は…霧雨さん固有の能力ということになりそうです」
はい、人外確定キター。で、でもでも、まだそうとは限らないよね? ね?
「実のところ、霧雨さんがログアウトしている間に、我々が何度も試したことがあったんですよ」
「ログアウトしている間?」
「我々は開発元ですからね。できるんですよ、『ミリアナ・レインフォール』のアバターに、他のユーザがログインして接続するということが」
あ。
「結果は、誰でも『ミリアナ・レインフォール』となることができ、また、『転移門』のメニューにも現実世界への項目が表示されていました。…何度選択しても、現実世界に転移することなどありませんでしたが」
…
◇
「さて、最後の実験です。新規作成したアバターを用意して、『転移門』メニューに現実世界のこの部屋の位置情報を組み込んだ項目を新しく登録しました。ここに、あなたが作成した偽装アバターセット『コナミ・サキ』のデータをコピーしてアバター造形としています」
「…」
「このアバターに、ログインして接続してみて下さい」
なんか、自分自身を追い詰めている気分…。
あらためて横たわり、指定のユーザIDを登録したフルダイブ装置でログインする。
周囲の風景が、何もない初期のマイルーム空間となる。ステータス画面を出すと、『コナミ・サキ』の偽装ステータスがそのままアバター本体の性能であることを示している。
そして、『転移門』メニューを表示し、登録済の項目を選択する。
【現実世界の『地点A』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
…
………
…………
〔はい〕を、押す。
ひゅんっ
…
……
………
その場にいたユリシーズさんが、語る。
「やはり『現界』機能は、我々のVRシステムに備わったものではないようですね。霧雨さん、あなた自身の能力です」
目の前に横たわっている、今の私とそっくりの姿の自分自身を見ながら、私はその言葉を何度も頭の中で反芻していた。
「分析を始めてまだ一日も経っていませんが、断言できます。これは神の領域ですね。仕組みも何もないのでしょう」
「結論はやっ」
「いやだって、あり得ないじゃないですか。コンピュータのデータでしかなかったものが、一瞬のうちに現実に存在するものとなるなんて。逆もまたしかりです」
そうだけど。そうだけどさあ。もうちょっとがんばってみようよ。ねえ。
「なので、我々が今調べているのは、霧雨さんと同じことが他のユーザやアバターでもできるようになるものなのか、ということなんです」
「ああ、再現性ってやつですね」
「ええ。仕組みがわからなくても、意図的に『現界』機能を組み込むことができれば、まだ対応のしようがありますから」
「でも、そんなことができたら…」
「間違いなく、人類の、いや、この世の全ての歴史が変わる」
だよなあ。恐ろしいまでのファンタジーが現実のものとなるのだから。
って、社長さん、ようやく発言したと思ったらそれですか。筋金入りの患者さんですね。
「そこで、早速いろいろと試したいのです。まずは、ここの設備からログインしてもらって、同じことができるか確認してみましょう」
「それって、私が使っているフルダイブ装置が原因かもしれないってことですか?」
「ええ。その可能性は限りなく低いですが」
あのフルダイブ装置、拓也が使ってるのと同じなんだよね。一番安い量産型を一緒に買ったから。だからまあ、違うだろう。
◇
フルダイブ装置がたくさん集められた部屋で、何度もログインし、何度もログアウトした。そしてそのいずれにおいても、メニュー画面の『転移門』は機能した。
残念ながら、『現界』したアバターの私にフルダイブ装置を付けても機能するかはわからなかった。なぜなら、ミリアナのアバターは使用中なのだから、重複ログインすることができないためだ。全く別のアバターにログインして接続しても、そのアバターの『転移門』メニューには、現実世界への項目が存在しない。
いやまあ、現界したアバターの私がフルダイブ装置でログインできるって時点で、なんでもあり感が漂ったのだけれども。やってみた私達が言うのもなんだが。
「やはりというか、どのタイプのフルダイブ装置を使っても同じですね。…いや、それが鍵なのか?」
「どういうことですか?」
「このフルダイブ装置でログインしてみてもらえませんか? 最低限の機能しかない、旧式の中でも更に初期型に近いスペックのものです」
結果。普通にこれまで通りだった。つまり?
「今回は現行の装置と併用しましたが、初期型のフルダイブ装置は、自然と眠りに入った際に脳に割り込むという仕組みです。仮想世界システムが生成する五感情報のやりとりも乏しく、まさしく夢を見ているようなあいまいなものとなるはずなのですが…」
…夢? 現実世界と同じ感覚だったよ?
「霧雨さんは、仮想世界で誰よりもリアリティを感じでいるのかもしれませんね。しかしそうすると、やはりこの現象は…霧雨さん固有の能力ということになりそうです」
はい、人外確定キター。で、でもでも、まだそうとは限らないよね? ね?
「実のところ、霧雨さんがログアウトしている間に、我々が何度も試したことがあったんですよ」
「ログアウトしている間?」
「我々は開発元ですからね。できるんですよ、『ミリアナ・レインフォール』のアバターに、他のユーザがログインして接続するということが」
あ。
「結果は、誰でも『ミリアナ・レインフォール』となることができ、また、『転移門』のメニューにも現実世界への項目が表示されていました。…何度選択しても、現実世界に転移することなどありませんでしたが」
…
◇
「さて、最後の実験です。新規作成したアバターを用意して、『転移門』メニューに現実世界のこの部屋の位置情報を組み込んだ項目を新しく登録しました。ここに、あなたが作成した偽装アバターセット『コナミ・サキ』のデータをコピーしてアバター造形としています」
「…」
「このアバターに、ログインして接続してみて下さい」
なんか、自分自身を追い詰めている気分…。
あらためて横たわり、指定のユーザIDを登録したフルダイブ装置でログインする。
周囲の風景が、何もない初期のマイルーム空間となる。ステータス画面を出すと、『コナミ・サキ』の偽装ステータスがそのままアバター本体の性能であることを示している。
そして、『転移門』メニューを表示し、登録済の項目を選択する。
【現実世界の『地点A』に転移します。よろしいですか? 〔はい/いいえ〕】
…
………
…………
〔はい〕を、押す。
ひゅんっ
…
……
………
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「やはり『現界』機能は、我々のVRシステムに備わったものではないようですね。霧雨さん、あなた自身の能力です」
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