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43 結婚(1)
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ダニエルとコーネリアの子供が産まれた翌年の2月にガラティーンとアルジャーノンは華燭の典を上げた。どうせなら6月にとコーネリアは言っていたが、ガラティーンは自分の実の両親が結婚したのも2月だし、今の国王夫妻も結婚式を挙げたのは2月だったからあやかりたい、と微笑んだ。
アルジャーノンだけでなくガラティーンも「結婚式は、双方の家に迷惑をかけない程度にきちんと行いたい」ということしか考えていなかったので、ガラティーンの準備は出産からの回復期のコーネリアとリンダ、そしてドレスの準備はマダム・ヴァレリーが張り切って行った。
ガラティーン側の友人は数が少ないために結局ダニエルの部隊の仲間たちくらいしか集まらなかったので、規模としては小さくまとまったパーティが開催された。
二人はダニエル達とは違って、ヨーロッパに新婚旅行に行くことにしていた。ガラティーンは、夏にはブライトンに行きたいからそれまでには帰ってくると呑気なことを言っている。
「オリエント急行に乗るんだ」
ガラティーンは、新婚旅行の目的地についてはそれだけはコーネリアに伝えてあった。楽しそうなガラティーンを見てコーネリアも幸せになる。
「ガラティーン、アルジャーノン様、お幸せにね」
「ありがとう」
ガラティーンとアルジャーノンはコーネリアに頭を下げる。
そしてガラティーンは微笑んでいた顔を引き締め、コーネリアの前で膝を折る。
「ありがとうコーネリア。私と友達になってくれて……そしてあなたがクーパー家に嫁いできてくれて」
コーネリアは膝を折ったガラティーンを慌てて立たせる。
「やだ、ドレス姿でそんなことしないで。するならトラウザーズの時にやってもらいたかった」
コーネリアは冗談めかして笑う。ガラティーンが何を言いたいかわかっているような顔だ。
「私、クーパー家に嫁いで、男の子を生むことができて、本当に幸せよ」
「コーネリア……」
ガラティーンはコーネリアを固く抱きしめる。
「それは、私があなたに……」
「違う、ガラティーン。私が恋した相手に嫁がせてくれて、そして貴族の娘としての役目を果たさせてくれてありがとう」
コーネリアもガラティーンを抱きしめる。ガラティーンは、自分とあまり変わらないくらい大柄だったという母親とはコーネリアは体格はだいぶん違うはずだが、母に抱きしめられるのはこういう気分になるだろうかと思った。
「コーネリアが男子を産んでくれたおかげで、私は身軽になれた。あなたを犠牲にしたような気持ちがどうしても拭えない。けれど」
「いいのよ、さっき言ったでしょ。私は好きな人に嫁ぐことができて本当に幸せよ。まるで物語の主人公みたい」
自分と同い年なのにすっかり「伯爵夫人」の顔になっているコーネリアの顔を見つめ、ガラティーンは微笑む。
「アルジャーノン様もダニエル様の部隊を退役してからのグランド・ツアーなんて。……ガラティーン、帰ってきてくれるわよね?」
「もちろん。あなたがいるところに必ず帰ってくるよ」
またコーネリアはけらけらと笑う。その顔つきはまだ伯爵令嬢の頃と変わらない笑顔だったのでガラティーンは嬉しくなる。
「ふふ、あなたは変わらないわね。ほんとに、私の一番のお友達のあなたが、ちゃあんと帰って来てくれるのを楽しみにしているわ。……子供が増えていてもいいのよ」
「気が早いなあ!」
ガラティーンも声を上げて笑いながら、子供が産まれてくるほどの期間、生まれ育ったこの街に帰ってこない可能性については否定しない。
「コーネリア、あなたが私のことを一番の友達と言ってくれて、ほんとうにうれしい。感謝しているよ。私にそんな友達ができる思っていなかった」
そう言ったガラティーンの頬にコーネリアは華奢な手を伸ばして、頬を挟み込む。
「そう思っていたのは私だけだったなんて言わせないわ」
「ううん。私だけが思っていたんじゃなくて本当に良かったと思っているところ……ああ、マダム・ヴァレリー!今日の殊勲者だ」
「マダム・ヴァレリー。あなたのドレスはやっぱりガラティーンには一番似合うわ」
「大変光栄でございます」
「ああ、いつものように気軽にしてくれないか?」
ガラティーンもコーネリアもマダム・ヴァレリーに軽くハグをする。
「パーティにご招待いただけるなんて思わなくて、驚きましたよ」
「あなた無しではこの日は迎えられなかったよ、間違いなく」
女性三人で話が盛り上がっているところ、少し離れたところで招待客と挨拶していたアルジャーノンとダニエルだったが、ダニエルがアルジャーノンをつつく。
「……ご歓談中、申し訳ないんだが」
列車の時間がね、とアルジャーノンが遠慮がちに声をかける。
「ああ、もうそんな時間か」
ガラティーンはコーネリアとヴァレリーの頬にキスをする。
「帰ってきたら土産話をするのを楽しみにしているよ」
「手紙もちょうだいね」
黙って微笑むヴァレリーにも、ガラティーンは手を振る。
「あなたにも手紙を書くよ、マダム・ヴァレリー」
「ありがとうございます。末永くお幸せに、ガラティーン様」
その後アルジャーノンの腕を取って退席していくガラティーンたちの姿を見つめるダニエルに隣にすっと寄ったコーネリアは、「声をかけなくていいんですか」と小さな声で問いかけながら、ダニエルの手を握る。
「ああ、大丈夫だ」
そう言ったダニエルは、自分の娘――兄夫婦の娘の背中を見ながら、誇らしげに笑っていた。
アルジャーノンだけでなくガラティーンも「結婚式は、双方の家に迷惑をかけない程度にきちんと行いたい」ということしか考えていなかったので、ガラティーンの準備は出産からの回復期のコーネリアとリンダ、そしてドレスの準備はマダム・ヴァレリーが張り切って行った。
ガラティーン側の友人は数が少ないために結局ダニエルの部隊の仲間たちくらいしか集まらなかったので、規模としては小さくまとまったパーティが開催された。
二人はダニエル達とは違って、ヨーロッパに新婚旅行に行くことにしていた。ガラティーンは、夏にはブライトンに行きたいからそれまでには帰ってくると呑気なことを言っている。
「オリエント急行に乗るんだ」
ガラティーンは、新婚旅行の目的地についてはそれだけはコーネリアに伝えてあった。楽しそうなガラティーンを見てコーネリアも幸せになる。
「ガラティーン、アルジャーノン様、お幸せにね」
「ありがとう」
ガラティーンとアルジャーノンはコーネリアに頭を下げる。
そしてガラティーンは微笑んでいた顔を引き締め、コーネリアの前で膝を折る。
「ありがとうコーネリア。私と友達になってくれて……そしてあなたがクーパー家に嫁いできてくれて」
コーネリアは膝を折ったガラティーンを慌てて立たせる。
「やだ、ドレス姿でそんなことしないで。するならトラウザーズの時にやってもらいたかった」
コーネリアは冗談めかして笑う。ガラティーンが何を言いたいかわかっているような顔だ。
「私、クーパー家に嫁いで、男の子を生むことができて、本当に幸せよ」
「コーネリア……」
ガラティーンはコーネリアを固く抱きしめる。
「それは、私があなたに……」
「違う、ガラティーン。私が恋した相手に嫁がせてくれて、そして貴族の娘としての役目を果たさせてくれてありがとう」
コーネリアもガラティーンを抱きしめる。ガラティーンは、自分とあまり変わらないくらい大柄だったという母親とはコーネリアは体格はだいぶん違うはずだが、母に抱きしめられるのはこういう気分になるだろうかと思った。
「コーネリアが男子を産んでくれたおかげで、私は身軽になれた。あなたを犠牲にしたような気持ちがどうしても拭えない。けれど」
「いいのよ、さっき言ったでしょ。私は好きな人に嫁ぐことができて本当に幸せよ。まるで物語の主人公みたい」
自分と同い年なのにすっかり「伯爵夫人」の顔になっているコーネリアの顔を見つめ、ガラティーンは微笑む。
「アルジャーノン様もダニエル様の部隊を退役してからのグランド・ツアーなんて。……ガラティーン、帰ってきてくれるわよね?」
「もちろん。あなたがいるところに必ず帰ってくるよ」
またコーネリアはけらけらと笑う。その顔つきはまだ伯爵令嬢の頃と変わらない笑顔だったのでガラティーンは嬉しくなる。
「ふふ、あなたは変わらないわね。ほんとに、私の一番のお友達のあなたが、ちゃあんと帰って来てくれるのを楽しみにしているわ。……子供が増えていてもいいのよ」
「気が早いなあ!」
ガラティーンも声を上げて笑いながら、子供が産まれてくるほどの期間、生まれ育ったこの街に帰ってこない可能性については否定しない。
「コーネリア、あなたが私のことを一番の友達と言ってくれて、ほんとうにうれしい。感謝しているよ。私にそんな友達ができる思っていなかった」
そう言ったガラティーンの頬にコーネリアは華奢な手を伸ばして、頬を挟み込む。
「そう思っていたのは私だけだったなんて言わせないわ」
「ううん。私だけが思っていたんじゃなくて本当に良かったと思っているところ……ああ、マダム・ヴァレリー!今日の殊勲者だ」
「マダム・ヴァレリー。あなたのドレスはやっぱりガラティーンには一番似合うわ」
「大変光栄でございます」
「ああ、いつものように気軽にしてくれないか?」
ガラティーンもコーネリアもマダム・ヴァレリーに軽くハグをする。
「パーティにご招待いただけるなんて思わなくて、驚きましたよ」
「あなた無しではこの日は迎えられなかったよ、間違いなく」
女性三人で話が盛り上がっているところ、少し離れたところで招待客と挨拶していたアルジャーノンとダニエルだったが、ダニエルがアルジャーノンをつつく。
「……ご歓談中、申し訳ないんだが」
列車の時間がね、とアルジャーノンが遠慮がちに声をかける。
「ああ、もうそんな時間か」
ガラティーンはコーネリアとヴァレリーの頬にキスをする。
「帰ってきたら土産話をするのを楽しみにしているよ」
「手紙もちょうだいね」
黙って微笑むヴァレリーにも、ガラティーンは手を振る。
「あなたにも手紙を書くよ、マダム・ヴァレリー」
「ありがとうございます。末永くお幸せに、ガラティーン様」
その後アルジャーノンの腕を取って退席していくガラティーンたちの姿を見つめるダニエルに隣にすっと寄ったコーネリアは、「声をかけなくていいんですか」と小さな声で問いかけながら、ダニエルの手を握る。
「ああ、大丈夫だ」
そう言ったダニエルは、自分の娘――兄夫婦の娘の背中を見ながら、誇らしげに笑っていた。
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