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32 女一人でも姦しい
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アルジャーノンは、オルドウィッチ伯ジェラルド・ラッセルの次男だ。
長女のペネロープ、次女のロザリンド、そして長男のクリスティアン。その次に三女のオクタヴィアと生まれた後に、少し年の離れた次男のアルジャーノンが生まれた。
アルジャーノンは子供のころから姉たちにいじり倒され、言いまかされて育ってきた。小さい頃は「女の子のように可愛い」と言われて同じようなワンピースを着せられたこともあった。それは兄のクリスティアンも同じだったらしい。
「口ではどうやっても勝てないから……」とあきらめ気味の男兄弟二人は、パブリックスクールに入学したときに心の安らぎを得たという。
しかし、この三姉妹はかしましいことはかしましいが、基本的に心根は優しい姉妹だった。
弟たちが構われていたりすると彼らの代わりに怒り、戦う。3人がかりで口喧嘩を仕掛けるのだからほぼ負け知らずだ。
「私の弟が女にやりこめられて情けないですって?じゃああなたは私たち三人に勝てると思っているの?」
キャンキャン吠える小型犬が三匹で向かってくるようなものなので、紳士方は彼女たちに勝てたためしはない。
ラッセル家の三姉妹は基本的に礼儀正しいレディであり、彼女たちは家族や自分の身内には心優しく(かしましいが)、そして何かあっても後をひかない。彼女たちは各々別の貴族へ嫁いだが、嫁ぎ先でも楽しくやっているということである。
「……姉たちは、悪い人ではないんだが」
顔合わせの夕食会の後数日後、アルジャーノンはガラティーンをハイド・パークへ乗馬に連れ出し、馬上で色々な話をしていた。
「三人まとめて来られた時のあの勢いに勝てる人はなかなかいない……いや、会ったことがないね」
アルジャーノンは苦笑しながらため息をつく。ガヴァネスや父親にでもあの調子で食ってかかっていくので、ガヴァネスもなかなか勝てなかったとのことだ。
「確かにすごい勢いだったね」
ガラティーンも思い出して苦笑する。この日はガラティーンは女性の乗馬服を身に着け、馬には横乗りをしていた。
「あら、アル!ガラティーン嬢!」
噂をしていたら、三姉妹のうちの最年少、アルジャーノンのすぐ上の姉のオクタヴィアがやはり乗馬をしていた。
「今日は気持ちのいい朝ね。外に出てくるにはいい日だわ」
「そうですね、オクタヴィア様」
ガラティーンはそつなく挨拶をするが、アルジャーノンは嫌そうな顔を崩さない。
「アル」
ガラティーンはアルジャーノンに挨拶をしないのか、と声をかけるが、アルジャーノンはしかめ面が深くなる一方だ。
「あなたたちが仲良さそうで何よりだわ!あら、ガラティーン嬢、あなたは乗馬は横乗りなの?」
「いえ、今日はドレスを着ているので」
「そうなのね!やっぱり男性と同じように乗られるのね。ねえ、今度トラウザーズで乗馬に来てくださらない?ハイド・パークじゃまずかったらこちらのマナーハウスにでも来て。ね、ぜひそうして」
「そうですね、伺わせていただきたいものです」
「私も、男性のように馬にまたがって乗馬してみたいわ。その方が移動するのは安定しているでしょう?」
「……オクタヴィア姉上」
決して小さくない声で話を続けるオクタヴィアに、せめて声は小さくしてくれと思いながらアルジャーノンは声をかける。
「あら!そうね、ここじゃ人が多かったわね」
そういう声もすでに大きい。オクタヴィアの声は大きいというよりは、よく通る高めの声をしているのだ。
「アルがいなくても遠慮なく来て頂戴」
きょうだいの中では一番アルジャーノンに似た顔立ちのオクタヴィアはにっこりと微笑む。
「じゃあ、また」
「あら!またなんて言えるような大人になったのねアル!オクタヴィアお姉さまは嬉しいわ!ガラティーン嬢を独占しているところ、お邪魔しちゃってごめんなさいね。また、ほんとにまた会いましょうね!」
そう言ってオクタヴィアと彼女の馬は去っていったが、アルジャーノンは口数の多い姉に辟易とした顔をしている。
「……そんな顔をするものじゃないよ?」
勢いに押されてはいるが、自分が嫌われていないということは分かっために身構えなくなったガラティーンは比較的余裕があったが、アルジャーノンは子供のころからの姉たちの言動が色々思い出されて、げんなりしているようだった。
「ああ、うん……」
「ねえ、そのうちベルギーのスパに乗馬に行こうよ」
「ベルギーか。スパにはまだ行ったことがないな」
「じゃあぜひ行こう。私も行ったことがないんだ」
二人はまた馬を進めながら、今後の二人の計画を立てていく。
「今まで行ったことがないところとか、見たことのないものを君と一緒に見に行きたい。そして、それを見てどう思ったか語り合いたい」
アルジャーノンは、一言一言をかみしめるように、ガラティーンに告げる。
「楽しそうだね」
ガラティーンはアルジャーノンに明るく、軽く答える。しかし、自分を見つめるアルジャーノンの顔が予想外に真剣だったので、彼女の顔も固くなる。
「この先、ずっと。一生」
アルジャーノンはガラティーンに向けて少し馬を寄せる。
「……馬に乗っていなければ、君を抱きしめられただろうけれど」
「こんな時に言わなければ良かったんじゃないかな」
小声のアルジャーノンに対して、抱きしめてほしかった、とにおわせながらガラティーンはそっぽを向く。
「また、今度」
「ぜひ!」
ガラティーンは5月の薔薇のような、明るい笑顔で返事をする。
「君と行きたいところ、一緒にやりたいことのリストを追加しておかないとね」
「やりたいこと、ねえ」
「そういうこと言わない!」
横目で見てくるアルジャーノンに、ガラティーンはけらけら笑いながら答えたが、ふと真顔になる。
「……今日はもう少し一緒にいられる?」
くるくると表情を変えるガラティーンに、アルジャーノンは首をかしげる。
「もちろん。珍しいな」
「……私だってそういう時はあるんだよ」
明け透けないつものガラティーンのことはもとより、彼女がたまに見せる少女らしい姿もアルジャーノンは愛しく感じている。彼は、ぐっと胸のどこかをつかまれたような気持ちになった。
長女のペネロープ、次女のロザリンド、そして長男のクリスティアン。その次に三女のオクタヴィアと生まれた後に、少し年の離れた次男のアルジャーノンが生まれた。
アルジャーノンは子供のころから姉たちにいじり倒され、言いまかされて育ってきた。小さい頃は「女の子のように可愛い」と言われて同じようなワンピースを着せられたこともあった。それは兄のクリスティアンも同じだったらしい。
「口ではどうやっても勝てないから……」とあきらめ気味の男兄弟二人は、パブリックスクールに入学したときに心の安らぎを得たという。
しかし、この三姉妹はかしましいことはかしましいが、基本的に心根は優しい姉妹だった。
弟たちが構われていたりすると彼らの代わりに怒り、戦う。3人がかりで口喧嘩を仕掛けるのだからほぼ負け知らずだ。
「私の弟が女にやりこめられて情けないですって?じゃああなたは私たち三人に勝てると思っているの?」
キャンキャン吠える小型犬が三匹で向かってくるようなものなので、紳士方は彼女たちに勝てたためしはない。
ラッセル家の三姉妹は基本的に礼儀正しいレディであり、彼女たちは家族や自分の身内には心優しく(かしましいが)、そして何かあっても後をひかない。彼女たちは各々別の貴族へ嫁いだが、嫁ぎ先でも楽しくやっているということである。
「……姉たちは、悪い人ではないんだが」
顔合わせの夕食会の後数日後、アルジャーノンはガラティーンをハイド・パークへ乗馬に連れ出し、馬上で色々な話をしていた。
「三人まとめて来られた時のあの勢いに勝てる人はなかなかいない……いや、会ったことがないね」
アルジャーノンは苦笑しながらため息をつく。ガヴァネスや父親にでもあの調子で食ってかかっていくので、ガヴァネスもなかなか勝てなかったとのことだ。
「確かにすごい勢いだったね」
ガラティーンも思い出して苦笑する。この日はガラティーンは女性の乗馬服を身に着け、馬には横乗りをしていた。
「あら、アル!ガラティーン嬢!」
噂をしていたら、三姉妹のうちの最年少、アルジャーノンのすぐ上の姉のオクタヴィアがやはり乗馬をしていた。
「今日は気持ちのいい朝ね。外に出てくるにはいい日だわ」
「そうですね、オクタヴィア様」
ガラティーンはそつなく挨拶をするが、アルジャーノンは嫌そうな顔を崩さない。
「アル」
ガラティーンはアルジャーノンに挨拶をしないのか、と声をかけるが、アルジャーノンはしかめ面が深くなる一方だ。
「あなたたちが仲良さそうで何よりだわ!あら、ガラティーン嬢、あなたは乗馬は横乗りなの?」
「いえ、今日はドレスを着ているので」
「そうなのね!やっぱり男性と同じように乗られるのね。ねえ、今度トラウザーズで乗馬に来てくださらない?ハイド・パークじゃまずかったらこちらのマナーハウスにでも来て。ね、ぜひそうして」
「そうですね、伺わせていただきたいものです」
「私も、男性のように馬にまたがって乗馬してみたいわ。その方が移動するのは安定しているでしょう?」
「……オクタヴィア姉上」
決して小さくない声で話を続けるオクタヴィアに、せめて声は小さくしてくれと思いながらアルジャーノンは声をかける。
「あら!そうね、ここじゃ人が多かったわね」
そういう声もすでに大きい。オクタヴィアの声は大きいというよりは、よく通る高めの声をしているのだ。
「アルがいなくても遠慮なく来て頂戴」
きょうだいの中では一番アルジャーノンに似た顔立ちのオクタヴィアはにっこりと微笑む。
「じゃあ、また」
「あら!またなんて言えるような大人になったのねアル!オクタヴィアお姉さまは嬉しいわ!ガラティーン嬢を独占しているところ、お邪魔しちゃってごめんなさいね。また、ほんとにまた会いましょうね!」
そう言ってオクタヴィアと彼女の馬は去っていったが、アルジャーノンは口数の多い姉に辟易とした顔をしている。
「……そんな顔をするものじゃないよ?」
勢いに押されてはいるが、自分が嫌われていないということは分かっために身構えなくなったガラティーンは比較的余裕があったが、アルジャーノンは子供のころからの姉たちの言動が色々思い出されて、げんなりしているようだった。
「ああ、うん……」
「ねえ、そのうちベルギーのスパに乗馬に行こうよ」
「ベルギーか。スパにはまだ行ったことがないな」
「じゃあぜひ行こう。私も行ったことがないんだ」
二人はまた馬を進めながら、今後の二人の計画を立てていく。
「今まで行ったことがないところとか、見たことのないものを君と一緒に見に行きたい。そして、それを見てどう思ったか語り合いたい」
アルジャーノンは、一言一言をかみしめるように、ガラティーンに告げる。
「楽しそうだね」
ガラティーンはアルジャーノンに明るく、軽く答える。しかし、自分を見つめるアルジャーノンの顔が予想外に真剣だったので、彼女の顔も固くなる。
「この先、ずっと。一生」
アルジャーノンはガラティーンに向けて少し馬を寄せる。
「……馬に乗っていなければ、君を抱きしめられただろうけれど」
「こんな時に言わなければ良かったんじゃないかな」
小声のアルジャーノンに対して、抱きしめてほしかった、とにおわせながらガラティーンはそっぽを向く。
「また、今度」
「ぜひ!」
ガラティーンは5月の薔薇のような、明るい笑顔で返事をする。
「君と行きたいところ、一緒にやりたいことのリストを追加しておかないとね」
「やりたいこと、ねえ」
「そういうこと言わない!」
横目で見てくるアルジャーノンに、ガラティーンはけらけら笑いながら答えたが、ふと真顔になる。
「……今日はもう少し一緒にいられる?」
くるくると表情を変えるガラティーンに、アルジャーノンは首をかしげる。
「もちろん。珍しいな」
「……私だってそういう時はあるんだよ」
明け透けないつものガラティーンのことはもとより、彼女がたまに見せる少女らしい姿もアルジャーノンは愛しく感じている。彼は、ぐっと胸のどこかをつかまれたような気持ちになった。
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