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19 デビュタント・ボール(3)
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周囲への挨拶もひと段落し、ダンスの予定もほぼ埋まったところでガラティーンとマデリーンは長椅子に座って一息ついている。
「ダンスは踊れるの?女性のパートよ?」
心配が止まない祖母に対して、ダニエルは「ガラティーンはどちらも踊れますよ!」とにこにこしながら返事をする。彼は、どちらのパートもこなせる娘のことが誇らしくてたまらないらしい。
「それなら良かった…のかしらね…?」
困ったように首をかしげる祖母を見て、ガラティーンは笑った。
「大丈夫ですよ。でも心配なら、私がパートナーの足を踏まないかどうか見ていてくださいね」
いたずらっぽく笑うガラティーンを見て、マデリーンも微笑み返す。
「ちゃんと見てますよ」
「よろしくお願いします」
微笑みあう二人の前に、ガチガチに緊張をしているのが見てとれるアルジャーノンがやってきた。
「来たね」
あまり女性らしくない口調でアルジャーノンを迎えるガラティーンを、マデリーンは軽くたしなめる。そしてアルジャーノンを励まそうと彼に声をかける。
「ホルボーン子爵」
「ありがとう」
伸ばされたアルジャーノンの手を取り、ガラティーンは立ち上がる。そして、少し高い位置にあるアルジャーノンの顔を見上げる。そして二人はダンスの輪に加わりに行く。
その姿をダニエルは眉間にしわを寄せて見守っている。
「ホルボーン子爵は、あなたの部下ではなかったかしら」
マデリーンは、そんなダニエルに声をかける。
「そうです」
「仕事ぶりは?」
「問題ありませんよ。まったく問題はありません」
ダニエルはため息をつく。
「ただ、なぜガラに対してだけあんなに……その……」
なるほど、とマデリーンはうなずく。
「あなたみたいなものなのでは?」
マデリーンは、若い女性に対して雑な態度になったり、挙動不審になったりするダニエルをあてこする。
「いや、でも……アルは、私みたいな目にはあっていないですから」
マデリーンは、傍らに立つダニエルを黙って見上げて、「あなたはどんな目にあったの」と目で問いかける。
「……それは、ちょっと」
「ふうん」
マデリーンは問い詰めることはしなかった。
「ガラティーンを育ててくれてありがとうございました」
突然、マデリーンはダニエルの目を見ながら礼を言う。
「あなたが引き取って、どう育てているかというのをあなたの家令から少し聞いていて、心配はしていたの」
ダニエルはマデリーンを見下ろして、何を言われるかと一瞬身構えた。
「女の子を育てたとは思えないけれど。でも、いい教育をしてくれたというのはよくわかります」
「マデリーン殿」
「あの子がまっすぐに育って良かった」
マデリーンは、ワルツを踊り始めたガラティーンのまっすぐ見ていた。
「ほんとだわ、きちんと踊れているわね」
「…ガラティーンを私の手元に残してくださってありがとうございました」
ダニエルは両親も早くに亡くし、兄夫婦も亡くし20歳そこそこで近い血の親類はガラティーンくらいということになってしまっていたのだ。
「私は、ガラティーンがいたから今まで生きてこられたんだと思います。こんなですけど、あの子がいると思えば頑張れた。自分の家族ごっこに付き合わせてしまったのかな、というのは最近気づきましたけど」
詰まりながら、マデリーンの方ではなく下を向いて話すダニエルをちらっと見てから、マデリーンはまたガラティーンに視線を戻す。
「ガラティーンのことが落ち着いたら、あなたも結婚を考えなさいよ。あなただって自分の家族を作っていいはずよ」
「……そうですね」
「私がいいお嬢さんを紹介して差し上げてもよくってよ」
「……ありがとうございます」
さらに声が小さくなるダニエルに向かって、声を低くしてマデリーンは確かめる。
「あなた、男色家なの?」
「いや、違いますが」
「ここだけの話にしておくから大丈夫よ」
「いえ、本当に違うんですよ」
「本当に?」
疑いの目で見るマデリーンにダニエルは答える。
「ちょっと、昔いろいろあったので、若い女性が苦手なだけです。若くなければ大丈夫」
「ふうん」
若くなければ、っていうところに微妙にひっかかったが、ここでもマデリーンは無理に聞き出そうとはしない。ダニエルは後が怖いかな、と思ったがまあここで逃げられるならそれでいいかと考えていた。
「まあいいわ。今はガラティーンよね」
マデリーンは、娘のミルドレッドとダニエルの兄のアンソニーの姿を思い出す。大柄なことを気にしていたミルドレッドに、自分と一緒に居れば小さく見えるからといって結婚の申し込みをしてきた時の緊張具合が、この夜のアルジャーノンと少しかぶって見えたのだ。
「私、ホルボーン子爵は良い方だと思います」
まあ私は家長ではないのでね、と付け加えて、マデリーンは微笑みながらガラティーンを見つめていた。
「ダンスは踊れるの?女性のパートよ?」
心配が止まない祖母に対して、ダニエルは「ガラティーンはどちらも踊れますよ!」とにこにこしながら返事をする。彼は、どちらのパートもこなせる娘のことが誇らしくてたまらないらしい。
「それなら良かった…のかしらね…?」
困ったように首をかしげる祖母を見て、ガラティーンは笑った。
「大丈夫ですよ。でも心配なら、私がパートナーの足を踏まないかどうか見ていてくださいね」
いたずらっぽく笑うガラティーンを見て、マデリーンも微笑み返す。
「ちゃんと見てますよ」
「よろしくお願いします」
微笑みあう二人の前に、ガチガチに緊張をしているのが見てとれるアルジャーノンがやってきた。
「来たね」
あまり女性らしくない口調でアルジャーノンを迎えるガラティーンを、マデリーンは軽くたしなめる。そしてアルジャーノンを励まそうと彼に声をかける。
「ホルボーン子爵」
「ありがとう」
伸ばされたアルジャーノンの手を取り、ガラティーンは立ち上がる。そして、少し高い位置にあるアルジャーノンの顔を見上げる。そして二人はダンスの輪に加わりに行く。
その姿をダニエルは眉間にしわを寄せて見守っている。
「ホルボーン子爵は、あなたの部下ではなかったかしら」
マデリーンは、そんなダニエルに声をかける。
「そうです」
「仕事ぶりは?」
「問題ありませんよ。まったく問題はありません」
ダニエルはため息をつく。
「ただ、なぜガラに対してだけあんなに……その……」
なるほど、とマデリーンはうなずく。
「あなたみたいなものなのでは?」
マデリーンは、若い女性に対して雑な態度になったり、挙動不審になったりするダニエルをあてこする。
「いや、でも……アルは、私みたいな目にはあっていないですから」
マデリーンは、傍らに立つダニエルを黙って見上げて、「あなたはどんな目にあったの」と目で問いかける。
「……それは、ちょっと」
「ふうん」
マデリーンは問い詰めることはしなかった。
「ガラティーンを育ててくれてありがとうございました」
突然、マデリーンはダニエルの目を見ながら礼を言う。
「あなたが引き取って、どう育てているかというのをあなたの家令から少し聞いていて、心配はしていたの」
ダニエルはマデリーンを見下ろして、何を言われるかと一瞬身構えた。
「女の子を育てたとは思えないけれど。でも、いい教育をしてくれたというのはよくわかります」
「マデリーン殿」
「あの子がまっすぐに育って良かった」
マデリーンは、ワルツを踊り始めたガラティーンのまっすぐ見ていた。
「ほんとだわ、きちんと踊れているわね」
「…ガラティーンを私の手元に残してくださってありがとうございました」
ダニエルは両親も早くに亡くし、兄夫婦も亡くし20歳そこそこで近い血の親類はガラティーンくらいということになってしまっていたのだ。
「私は、ガラティーンがいたから今まで生きてこられたんだと思います。こんなですけど、あの子がいると思えば頑張れた。自分の家族ごっこに付き合わせてしまったのかな、というのは最近気づきましたけど」
詰まりながら、マデリーンの方ではなく下を向いて話すダニエルをちらっと見てから、マデリーンはまたガラティーンに視線を戻す。
「ガラティーンのことが落ち着いたら、あなたも結婚を考えなさいよ。あなただって自分の家族を作っていいはずよ」
「……そうですね」
「私がいいお嬢さんを紹介して差し上げてもよくってよ」
「……ありがとうございます」
さらに声が小さくなるダニエルに向かって、声を低くしてマデリーンは確かめる。
「あなた、男色家なの?」
「いや、違いますが」
「ここだけの話にしておくから大丈夫よ」
「いえ、本当に違うんですよ」
「本当に?」
疑いの目で見るマデリーンにダニエルは答える。
「ちょっと、昔いろいろあったので、若い女性が苦手なだけです。若くなければ大丈夫」
「ふうん」
若くなければ、っていうところに微妙にひっかかったが、ここでもマデリーンは無理に聞き出そうとはしない。ダニエルは後が怖いかな、と思ったがまあここで逃げられるならそれでいいかと考えていた。
「まあいいわ。今はガラティーンよね」
マデリーンは、娘のミルドレッドとダニエルの兄のアンソニーの姿を思い出す。大柄なことを気にしていたミルドレッドに、自分と一緒に居れば小さく見えるからといって結婚の申し込みをしてきた時の緊張具合が、この夜のアルジャーノンと少しかぶって見えたのだ。
「私、ホルボーン子爵は良い方だと思います」
まあ私は家長ではないのでね、と付け加えて、マデリーンは微笑みながらガラティーンを見つめていた。
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