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18 デビュタント・ボール(2)

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 ダニエルが、次に挨拶させる先を目で探しているときにマデリーンがガラティーンのことを心配そうに見つめる。
「またそんな適当なことを言って」
「私は彼で構わないんですけどね」
「そんな早い者勝ちでいいの?」
「彼のことは昔から知ってるし」
「この後は昔から知っている奴しか出てこないぞ」
 ダニエルとマデリーンは、ガラティーンが適当なことを言っているとしか思えないので、先ほどのアルジャーノンからの求婚はなかったことにしようとしているが、ガラティーンはもう面倒だとでも言いたげな返事をしている。
「あ、バーティがいた」
 ガラティーンは知っている顔を見つけて手でも振りそうな口調でごまかしにかかる。
「次、バーティ!」
「やあ」
「だからやあじゃなくて!」
 異口同音でダニエルとマデリーンが指摘をする。ダニエルとマデリーンは案外気が合うのか、焦るポイントが同じで面白いなあと思いながらガラティーンはバーティにきちんとした挨拶をしなおした。
「ガラティーン・クーパーと申します」
 ガラティーンは、そういえば先ほどのアルにはきちんと挨拶もしなかったな、と思いながら淑女らしい挨拶をする。
 ガラティーンに対して、バーティはアルと違ってきちんと挨拶をする。ガラティーンに対してきちんと世辞も言えて、きちんとダンスの申し込みもできる。
 しかし、「女性」としてのキャリアが短いガラティーンに対してもわかりやすく、自分に夢中になってくれているのが伝わってくるアルジャーノンが、ガラティーンにとってはとても可愛らしく思えて来ていた。
 冗談ではなく「早い者勝ち」なところもあるのかな、とガラティーンは考えた。そして、ひょっとしたらアルなら、自分が自分らしくあろうと――家でトラウザーズをはいて歩いていても――許してくれるかもしれない。そんなことを考えながらバーティやトミー、ジョニー、その他ダニエルの同僚や知人に挨拶をして回り、着々とダンスカードを埋めていく。
 そんな中、コーネリアが彼女の両親と一緒にいるのがガラティーンの視界に入った。
「父上!コーネリアのご両親に挨拶をさせてくださいよ。デビュタントの準備ではとてもお世話になったのだから」
「そうだな、ハーバートにも挨拶をしておこうか」
「エッジウェア伯ね」
 マデリーンはハーバートの顔を見てすぐに爵位が出てくる。さすがキャリアが違う、とガラティーンもダニエルも感心をする。
 ガラティーンは、コーネリアとの約束――コーネリアとダニエルをダンスさせるという約束――を守らせるのだ、と気合を入れる。コーネリアの母上がいるところで言ってしまえばハーバートにもダニエルにも断らせることはできまいという判断だ。
「ハーバート」
 ダニエルは、そんなガラティーンの考えはつゆ知らず、普通にハーバートに声をかける。
「ああ、ダニエルにガラティーン嬢。ケンジントン候夫人」
「お世話になっております」
 ガラティーンはハーバートにカーテシーを取って見せる。以前会ったときは握手をしたが、今回はドレスを着ているので女らしいところを見せようというわけだ。
「こちらこそコーネリアと仲良くしていただいて感謝していますよ」
「とんでもない。エッジウェア伯には素敵なお友達を紹介していただき、感謝という言葉では全く足りません」
 ガラティーンは、どうにもコーネリアの前ではテイルコートを着ているのは誰なのかわからないような挨拶をしてしまい、ダニエルやマデリーンを苦笑させる。しかしコーネリアとコーネリアの母は本当にうれしそうに笑顔で応える。
「ところでコーネリア。これは私の父、いや叔父のラトフォード伯のダニエル・クーパーです。よろしければ、あなたとのダンスを申し込みたい」
「ガラ!」
 ダニエルとハーバート、マデリーンも慌てるが、コーネリアの母は嬉しそうにその申し出を受けてしまう。その様子を見て、コーネリアの母はある程度事情を知っているのかな、とガラティーンは思った。
「お受けいただいてありがとうございます」
 固まってしまっているダニエルを見てガラティーンは肩をすくめるが、コーネリアは嬉しそうに頬を染めてほほ笑む。
「とても嬉しいですわ。ありがとうございます」
 ハーバートは微妙な顔をしつつダニエルを眺める。
「うちの娘の足を踏むなよ」
「……踏まない、と思う」
 突然ぶっきらぼうになっているダニエルを見てガラティーンは笑う。ああ、アルは父上と少し似ているんだな、と気づく。
 ダニエルに対しての思いはあくまで家族に対してのものだが、アルに対してはまた少し違う。自分を欲しいと思ってくれているということに対して自分の心のどこかが少しむずがゆくなる。
「良かった。…また遊びに来てくれるよね?」
 コーネリアにガラティーンは声をかける。今日は、残念ながら一家族と長話をする日ではないのだ。
「もちろんよ」
 私の家に遊びに来て、ダニエルに会いにおいで――という意味をきちんと受け取って、コーネリアはガラティーンに会釈をする。
「エッジウェア伯、今後ともよろしくお願いいたします」
 ここではしっかりと挨拶をしたガラティーンは、ダニエルを軽くつついて、次の挨拶に行きましょうと引っ張って行った。

 コーネリアとのダンスの件で挙動不審になっていたダニエルだったがすぐに落ち着きを取り戻し、またガラティーンを紹介して回る。どうして本当にこんなにも若い女性に対して挙動不信になるのか。何があったのか、とマデリーンとガラティーンは顔を見合わせた。
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