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16 ガラのことが好きなんだ
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デビュタント・ボールも近づいてきたある日。アルジャーノンの周囲からは、デビュタント・ボールの招待状を手に入れたという話が聞こえてくる。アルジャーノンはもちろん入手していて、ダニエルにも折々にガラティーンとのダンスをねだっている。そういう根回しはできるのにどうして自分はガラティーンに会いに行けないのかと一人で悩み続けていた。
また、周囲からの声で小さくため息をつくアルジャーノンを見かねて、ハリーはとうとう声をかけてしまう。デビュタント・ボールやガラティーンの話が聞こえてくるたびにアルの様子が明確におかしくなるので、まあ何かあったのだろうかという好奇心と、多少の心配とで声をかけざるを得なくなってしまったのだ。
「アル」
「なんだ?」
アルジャーノンはまだどことなく物憂げに答える。
「お前、その…ガラのこと、そんなに好きなのか?」
その言葉にアルジャーノンの表情が固まったのを、ハリーは見逃さずに話を続ける。
「クーパー隊長から、ガラがデビューするっていうときに一緒に踊らせろって最初に言ってきたのはお前だって聞いたぞ」
「…ああ」
ハリーの目を見ずにアルは返事をする。
「ガラに、会いに行った方がいいんじゃないのか?」
「あ、ああ…」
アルジャーノンは歯切れの悪い返事しかできない。ハリーは、こいつはこんなに奥手な奴だったか?と首をかしげながら話を続ける。
「前に、来いって言ったのにアルだけ来てくれないって気にしてた」
「…ああ」
アルジャーノンは、ガラが自分のことを少しでも気にしていてくれたということが嬉しいのとそれを表に出すには気恥ずかしいのとで、まともな返事もできずにハリーの話を流す。
「俺はともかく、トミーとジョニーとバーティは本当に狙いに行ってるからな」
「…お前は?」
恋敵は少ない方が良いとも思うが、ガラティーンが魅力的でないと思う男はそれはそれで気に入らない。アルジャーノンはハリーに問いかけた。
「俺は、話がまとまりそうな子がいるからさ」
「そうだったのか」
ハリーからの情報をアルはかみしめ、トミーとジョニーとバーティは明確にライバルだということを頭に刻み付ける。
「でも、俺でもちょっと考えちゃうからな。ガラと結婚したら、あのガラが家で待っていてくれるっていうことだから」
アルジャーノンは初めて、妻としてガラが家にいて、自分を待っていてくれるという状況を想像した。彼が今まで想像していたのはガラティーンがシャツとトラウザーズ姿で普通に暮らしているところ、そしてベッドの上でのあれこれということだけだったのだ。想像力が足りていない。そして、思春期の少年と何も変わらない思考をしていたことを反省した。そうだ。ガラを手に入れたら一緒に家庭をつくって、未来を共に歩んでいくのだ。
「ああ…」
「大丈夫か、お前」
ぼんやりしているアルジャーノンの肩をハリーは叩く。
「あんまり大丈夫じゃない。けど大丈夫だよ。悪いな」
「全然大丈夫じゃないように見えるけどなあ」
アルジャーノンは今まで一人でやってきた家庭のことにガラが一緒にいることを想像していた。
「俺、ガラのことが好きなんだ」
アルジャーノンは、初めてそのことを口に出した。そしてその瞬間に、かならず手に入れなければならないという決意が沸き上がってきた。
「みんなより出足は遅いかもしれないけど、それでも」
「…おう、頑張れよ」
なぜかいきなりアルジャーノンがやる気になったのを見てハリーは「これで良かったのか悪かったのか」と考える。ハリーからすればアルジャーノンよりもトミーやジョニー、バーティの方が距離が近い同僚だ。しかしハリーの目から見ると、トミー達は浮かれて、仲間内で誰がガラを手に入れるかというようなゲームでもしているようで、なんとなくそれが気に入らなかった。それよりもガラのことを好きと言い――しかし一人で思い詰めている――アルジャーノンの方を応援したくなってしまったのだ。
「ありがとう」
アルジャーノンは真面目な顔でうなずく。いかにも「頑張る」という顔をしているのでハリーは大笑いする。
「お前、部隊に入りたての頃みたいな顔してるよ」
「…そうか !?」
「頑張れよ」
「うん、頑張る」
アルジャーノンはなぜハリーがそんなに自分の恋を応援してくれるのかもわかっていなかったが、頑張れと言われたら頑張らないわけにもいかない。
頑張ると言ってももう、今からできることはと考えると、当日まで自分が死なないこと、ダンスの際には何か気の利いたことでも言うか、素直にガラティーンに愛の告白をすることしかないのだ。
アルジャーノンは脳内で当日に向けてひたすら予行演習をするしかなかった。
また、周囲からの声で小さくため息をつくアルジャーノンを見かねて、ハリーはとうとう声をかけてしまう。デビュタント・ボールやガラティーンの話が聞こえてくるたびにアルの様子が明確におかしくなるので、まあ何かあったのだろうかという好奇心と、多少の心配とで声をかけざるを得なくなってしまったのだ。
「アル」
「なんだ?」
アルジャーノンはまだどことなく物憂げに答える。
「お前、その…ガラのこと、そんなに好きなのか?」
その言葉にアルジャーノンの表情が固まったのを、ハリーは見逃さずに話を続ける。
「クーパー隊長から、ガラがデビューするっていうときに一緒に踊らせろって最初に言ってきたのはお前だって聞いたぞ」
「…ああ」
ハリーの目を見ずにアルは返事をする。
「ガラに、会いに行った方がいいんじゃないのか?」
「あ、ああ…」
アルジャーノンは歯切れの悪い返事しかできない。ハリーは、こいつはこんなに奥手な奴だったか?と首をかしげながら話を続ける。
「前に、来いって言ったのにアルだけ来てくれないって気にしてた」
「…ああ」
アルジャーノンは、ガラが自分のことを少しでも気にしていてくれたということが嬉しいのとそれを表に出すには気恥ずかしいのとで、まともな返事もできずにハリーの話を流す。
「俺はともかく、トミーとジョニーとバーティは本当に狙いに行ってるからな」
「…お前は?」
恋敵は少ない方が良いとも思うが、ガラティーンが魅力的でないと思う男はそれはそれで気に入らない。アルジャーノンはハリーに問いかけた。
「俺は、話がまとまりそうな子がいるからさ」
「そうだったのか」
ハリーからの情報をアルはかみしめ、トミーとジョニーとバーティは明確にライバルだということを頭に刻み付ける。
「でも、俺でもちょっと考えちゃうからな。ガラと結婚したら、あのガラが家で待っていてくれるっていうことだから」
アルジャーノンは初めて、妻としてガラが家にいて、自分を待っていてくれるという状況を想像した。彼が今まで想像していたのはガラティーンがシャツとトラウザーズ姿で普通に暮らしているところ、そしてベッドの上でのあれこれということだけだったのだ。想像力が足りていない。そして、思春期の少年と何も変わらない思考をしていたことを反省した。そうだ。ガラを手に入れたら一緒に家庭をつくって、未来を共に歩んでいくのだ。
「ああ…」
「大丈夫か、お前」
ぼんやりしているアルジャーノンの肩をハリーは叩く。
「あんまり大丈夫じゃない。けど大丈夫だよ。悪いな」
「全然大丈夫じゃないように見えるけどなあ」
アルジャーノンは今まで一人でやってきた家庭のことにガラが一緒にいることを想像していた。
「俺、ガラのことが好きなんだ」
アルジャーノンは、初めてそのことを口に出した。そしてその瞬間に、かならず手に入れなければならないという決意が沸き上がってきた。
「みんなより出足は遅いかもしれないけど、それでも」
「…おう、頑張れよ」
なぜかいきなりアルジャーノンがやる気になったのを見てハリーは「これで良かったのか悪かったのか」と考える。ハリーからすればアルジャーノンよりもトミーやジョニー、バーティの方が距離が近い同僚だ。しかしハリーの目から見ると、トミー達は浮かれて、仲間内で誰がガラを手に入れるかというようなゲームでもしているようで、なんとなくそれが気に入らなかった。それよりもガラのことを好きと言い――しかし一人で思い詰めている――アルジャーノンの方を応援したくなってしまったのだ。
「ありがとう」
アルジャーノンは真面目な顔でうなずく。いかにも「頑張る」という顔をしているのでハリーは大笑いする。
「お前、部隊に入りたての頃みたいな顔してるよ」
「…そうか !?」
「頑張れよ」
「うん、頑張る」
アルジャーノンはなぜハリーがそんなに自分の恋を応援してくれるのかもわかっていなかったが、頑張れと言われたら頑張らないわけにもいかない。
頑張ると言ってももう、今からできることはと考えると、当日まで自分が死なないこと、ダンスの際には何か気の利いたことでも言うか、素直にガラティーンに愛の告白をすることしかないのだ。
アルジャーノンは脳内で当日に向けてひたすら予行演習をするしかなかった。
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