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15 将来は?

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 ある日、ガラティーンは自分を訪ねてきたコーネリアにダニエルの話を振ってみた。この日のガラティーンはまたトラウザーズを履いている。もうドレスにも慣れたのだからということと、コーネリアが喜ぶからということを大義名分にしていた。
「父上もデビュタント・ボールには参加するわけだから、あなたと当日踊るようにけしかけてみようと思うのだけれど」
「きゃあ!」
 コーネリアは頬を染めてかわいい悲鳴を上げる。
「父上は独身だから、特に問題はないと思うけれど」
「私の父が、いい顔をするかどうかが問題なのよねえ」
「条件は悪くないと思うけれど、父上がちょっと年上すぎるかな」
 コーネリアとダニエルの年齢差は18歳だ。コーネリアはため息をつく。
「どうして私はあと10年でも早く生まれなかったのかしら!」
「そうしたら父上と知り合っていないかもしれないよ」
「世の中、うまくいかないわねえ」
 コーネリアは紅茶を口に運ぶ。
「でも、デビュタント・ボールでダニエル様と踊れたら、一生の思い出になると思うわ」
 微笑みながら紅茶を飲むコーネリアを見て、ガラティーンと侍女のリンダは顔を見合わせる。
「コーネリア、何か結婚の話とかがもう来ているのか?」
「来てないわ。だけどね、まあ自分の希望通りに行くとは思っていないだけよ」
 そういうものか、それが普通なのか、とガラティーンは切なくなる。
「あなたがそういうことを気にしてくれると思っていなかったわ。私が貸した恋愛小説も無駄じゃなかったってことかしら」
 コーネリアは訳知り顔でほほ笑む。
「世の中そううまくいかないから、うまくいった作り話が好きなのよ」
「そういうものか」
「そうじゃないといいんだけどね」
「私は、あなたには幸せな物語の主人公のような人生を歩んで欲しい」
 真顔でコーネリアの手を取り、彼女の瞳をじっと見つめるガラティーンを見て、コーネリアは笑いだしてしまう。
「あなたって人は、本当に…あなた自身が物語の王子様のようだわ」
 笑ってごめんなさいね、と付け加えながらコーネリアは涙をぬぐう。笑いすぎちゃった、と言いながらではあるが、本当かどうかはわからない。
「私、あなたと結婚したかった」
「過去形か!私はコーネリアとなら結婚したいよ」
「あなたとならお父様も反対しないかも」
 涙をぬぐいながら笑い話を続けるコーネリアを見ながら、ガラティーンは自分が今後恋をすることはあるのだろうかとも考える。
「ガラティーン、ダニエル様に本当に…私とダンスしてくれるようにお願いしてみてくれる?」
「もちろん!」
「ありがとう!」
 コーネリアはデビュタント・ボ―ルがより楽しみになったと微笑むが、ガラティーンは自分以外のことしか楽しみではない、とついつぶやいてしまった。
「あら、どうして?」
 コーネリアは流しても良かったが、ここは聞いた方が良いだろうと判断をした。
「うーん…女としての責任から逃れられなくなるのが怖い、のかも」
 ガラティーンはティーカップを軽く指ではじく。
「今までずっと逃げてきていたから、向き合わないといけないのはわかっているのだけど。ここから本気で結婚相手を探して、結婚して、子供を産む」
 コーネリアは黙ってうなずく。
「まあそれはいい」
 ガラティーンはミルクティを一口飲んで、ため息をつく。
「相手が、私のわがままをどれだけ聞いてくれるかっていうと…。今みたいに気楽な恰好を許してくれるか、っていう点で」
「……これから知り合う男性だと、難しそうな気もするわね」
「やっぱり?」
「ドレスを着たあなたしか知らなかったら、ねえ。いきなりトラウザーズを履いて馬にまたがって、とか見ちゃったら、ねえ」
 そんなところが素敵だと思うんだけれど、とコーネリアもミルクティーを口にする。
「でも以前からの知り合いの……父上の隊のやつらだと、ねえ。私相手…男だと思っていた相手と結婚しようかっていう気になるやつがいるかどうか」
 ガラティーンは首をかしげる。
「私の姉がいたら紹介してくれなんて言ってきたやつはいたけど、私本人が女っていうのは…どうなんだろうねえ…。まあ悩んでいても仕方ないけど。心が広い夫を見つけられることを祈るしかない」
「そうよねえ」
 コーネリアは、叔父と姪を結婚させるなんてことを考える人がいなくてよかった、と思いながら菓子をつまむ。
「まあなんとかなるわよ、きっと」
「そうだねえ」
 ガラティーンも菓子をつまみ、またミルクティーを口に運ぶ。
「子供のころから女をやっている人たちはすごいよ」
「私からしたら、男も、女もやっているあなたがすごいと思うわ」
 コーネリアは素直にそう思っていると口にする。
「私だったら、男の人のようなスポーツもできないし、難しいお勉強も無理。あなたはダンスも男女どちらのパートも踊れるのでしょう?私はこんがらがっちゃう」
「人には得手不得手があるんだよ」
「まあ、そうね」
 お互いの家を訪問しあって紅茶の時間を共に過ごすうちに、二人は、まだ知り合ってから数か月しかたっていないというのに生まれたころからの付き合いのように二人はなぜか気が合っている。人生は面白いな、とガラティーンは思っていた。
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