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14 昔の仲間(2)
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ハリーがクーパー邸を訪れた翌日、朝から仲間のトミー、ジョニー、バーティ、そしてアルに対して「ガラがよろしくと言っていた」ということを伝えて回っていたら、周囲がガラのことを聞きたがる。
ハリーは口下手ではないので、周囲に聞かれるがままにガラティーンの様子を話している。ガラがドレスを着ていた話や、女言葉でも話すこともでき、カーツィもきちんとすることができたことなどを一通り話した後、彼の感想を付け加える。
「前に、ガラに姉さんがいたら紹介してくれって言ったことあったけど、俺はガラでもいいわ、全然イケる」
あまり聞いていないふりをしながら聞き耳を立てていたアルはその一言で動揺する。
「あいつ、案外胸もあったんだよ」
アルは、自分の胸の前で「このくらい」と山を作って見せているハリーを、じっと見つめてしまう。
「アル、ガラに会いたかったのか?」
ハリーは不思議そうな顔をして声をかけてくる。アルは返事を濁す。
「普通にクーパー家を訪問したら、ガラに会えると思うぞ」
「ああ、うん。でもまあ」
変な顔をしているアルに、何か言いづらそうなことがあるんだな、とそれ以上追求しないハリーにアルは心の中で感謝した。
しかし、心の中は穏やかではない。あの張りのある乳房の感触を知っているのは自分だけだと信じたい。そして、「あんなこと」をしたのも自分だけだと信じたい。
あの事がなければガラとはどういう関係だったかといえば、ハリーやトミー、ジョニー、バーティほどは仲が良いわけではなかったので、彼女が女だったからと言って気になったかというとそれはなかっただろうと考えている。
しかし、あの日のガラティーンの態度――裸の胸を見られても、いつもと変わらず青年らしい態度――がアルには忘れられないのだ。自分は被虐的な趣味があるのか、とも考えたが、例えば他の女に強い態度で出られたとしても、あのガラティーンのまっすぐな瞳でない限り、胸が熱くなることもなさそうだった。
ガラティーンは、自分が男のふりをしていたことに後ろめたさのようなものがなかったのだろう。男の恰好をしていて何が悪い、という開き直りのようなものもあったのかもしれない。その辺はアルにはわかりかねるところだったが、ハリーに言われた通りにクーパー邸を訪問して話をしに行くほどの勇気が出なかった。
女きょうだいのおかげで女性に対してのふるまいというのはしっかり身についていたので他の隊員たちやダニエルには大きいことが言えるけれども、自分が恋をしてみるとなんともできないことが、アル自身が歯がゆく思えてならなかった。
アルはため息をついて、薄茶の髪をかき上げた。
ハリーがクーパー家を訪問してガラティーンと会った後、ほかの仲間たち数人がガラティーンの姿を見にやってきた。
「みんな、久しぶり!」
ガラティーンは「どうせみんなはこの姿を見てみたいのだろう」と、髪を結い、ドレスを着て仲間たちを迎えた。だいぶ着慣れてきたとはいえ、自分でもまだ違和感があり、仮装や変装をしている気分がなくならない。
その姿を見て絶句しているものもいれば、褒めたたえる者もいる。ガラティーンは、そう悪い見た目ではないのかもと安心もするが、どうも気分が良くない。
気の置けない仲間たちと久しぶりに会えて嬉しいけれども、何か違和感がある。それは自分がドレスを着ているからか、それとも自分がドレスを着て出てきてしまったからだろうか、とガラティーンは頭の隅で考えていた。
それでも昔の話は楽しかった。以前は自分を訪問してくれて、話をするような仲間はいなかったなと考えていた。自分もパブリックスクールに通いたかったなと思い出すが、まあ通えるわけもなかったなとその考えを打ち消す。
「いや、綺麗になったなあ…っていうか、綺麗だよなあ」
バーティがガラに見惚れながら素直に感想を述べる。
ガラティーンが他のことを考えて物憂げな顔になっていたらしい。そしてガラティーンは気づく。自分に対して開けっぴろげな仲間たちに対して、同じ姿勢で臨めなかった自分に対して違和感があったのだ。
「ありがとう、でいいのかな?」
ふふ、と微笑むガラティーンにバーティたちは声を上げる。
「ほんとにそんな顔までするようになって。ガラもレディだったんだなあ」
「俺たちはこの淑女の前でなんてことをしてきたんだろうな」
「君達でもそんなこと気にするんだねえ!」
笑いながらもガラはハリーからの視線に気づき、そちらをちらっと見る。
「…なに?ハリー」
「なんでもないよ。いや、俺は先にお前のことを一人でゆっくり眺められて、役得だったんだなあと」
「役得ねえ」
ガラは下を向いて笑う。
自分が本当は女だって先に気づいた人は他にいるんだよ、と心の中でつぶやいた。
クーパー家を訪れたハリー、そしてトミー、ジョニー、バーティ達は帰りにクラブへ寄り、ガラティーンの話で盛り上がる。
ガラティーンがちゃんと女に見えたこと、それどころか美人だったこと、胸が大きかったこと、中身は変わっていなさそうなこと――それぞれが思ったことを、ほぼ同じ内容を別の口で繰り返す。
先に一度会っているハリーは比較的冷静になのでトミー達の話を聞いているだけになっているが、トミー達は複数人と話をしているうちに自分たちの心の中でなんとなく盛り上がってきてしまったらしい。
ほぼ同じ話を繰り返しているのでハリーは大体のことを聞き流しながら葉巻に火をつけていたが、さすがに聞き流せない言葉が出てきた。
「よし、じゃあ誰がガラと結婚できるか。賭けようぜ」
「俺が勝ったらお前の父上のごひいきのあの画家にガラの肖像画を描いてもらうように頼んでくれよ。あのフランスの画家に。料金はお前持ちで」
「よし、じゃあ俺が勝ったら…」
酒が入ったところでの冗談だろうとは思っていても、さすがに良くないのではとハリーは思ったが、口をはさむ間がつかめない。
ハリーは、そのうちに彼らも落ち着くだろう、いや落ち着いてやってくれと期待しながら葉巻の煙を深く吸い込んだ。
ハリーやトミー、ジョニー、バーティはその後も数回クーパー邸を訪問して、ガラティーンと会っていたようだったが、どうしてもアルはそれに一緒について行くこともできなかった。
ガラティーンは「顔を見せてくれ」と言ってくれていたようだが、アルがしたい話はハリー達がいるとできない気がしている話だった。そのためには一人で行かなければならない。しかし一人で行く勇気がどうしても出ない……と堂々巡りになり、結局アルは、ガラティーンにはデビュタント・ボールまで顔を合わせないことになってしまった。
ハリーは口下手ではないので、周囲に聞かれるがままにガラティーンの様子を話している。ガラがドレスを着ていた話や、女言葉でも話すこともでき、カーツィもきちんとすることができたことなどを一通り話した後、彼の感想を付け加える。
「前に、ガラに姉さんがいたら紹介してくれって言ったことあったけど、俺はガラでもいいわ、全然イケる」
あまり聞いていないふりをしながら聞き耳を立てていたアルはその一言で動揺する。
「あいつ、案外胸もあったんだよ」
アルは、自分の胸の前で「このくらい」と山を作って見せているハリーを、じっと見つめてしまう。
「アル、ガラに会いたかったのか?」
ハリーは不思議そうな顔をして声をかけてくる。アルは返事を濁す。
「普通にクーパー家を訪問したら、ガラに会えると思うぞ」
「ああ、うん。でもまあ」
変な顔をしているアルに、何か言いづらそうなことがあるんだな、とそれ以上追求しないハリーにアルは心の中で感謝した。
しかし、心の中は穏やかではない。あの張りのある乳房の感触を知っているのは自分だけだと信じたい。そして、「あんなこと」をしたのも自分だけだと信じたい。
あの事がなければガラとはどういう関係だったかといえば、ハリーやトミー、ジョニー、バーティほどは仲が良いわけではなかったので、彼女が女だったからと言って気になったかというとそれはなかっただろうと考えている。
しかし、あの日のガラティーンの態度――裸の胸を見られても、いつもと変わらず青年らしい態度――がアルには忘れられないのだ。自分は被虐的な趣味があるのか、とも考えたが、例えば他の女に強い態度で出られたとしても、あのガラティーンのまっすぐな瞳でない限り、胸が熱くなることもなさそうだった。
ガラティーンは、自分が男のふりをしていたことに後ろめたさのようなものがなかったのだろう。男の恰好をしていて何が悪い、という開き直りのようなものもあったのかもしれない。その辺はアルにはわかりかねるところだったが、ハリーに言われた通りにクーパー邸を訪問して話をしに行くほどの勇気が出なかった。
女きょうだいのおかげで女性に対してのふるまいというのはしっかり身についていたので他の隊員たちやダニエルには大きいことが言えるけれども、自分が恋をしてみるとなんともできないことが、アル自身が歯がゆく思えてならなかった。
アルはため息をついて、薄茶の髪をかき上げた。
ハリーがクーパー家を訪問してガラティーンと会った後、ほかの仲間たち数人がガラティーンの姿を見にやってきた。
「みんな、久しぶり!」
ガラティーンは「どうせみんなはこの姿を見てみたいのだろう」と、髪を結い、ドレスを着て仲間たちを迎えた。だいぶ着慣れてきたとはいえ、自分でもまだ違和感があり、仮装や変装をしている気分がなくならない。
その姿を見て絶句しているものもいれば、褒めたたえる者もいる。ガラティーンは、そう悪い見た目ではないのかもと安心もするが、どうも気分が良くない。
気の置けない仲間たちと久しぶりに会えて嬉しいけれども、何か違和感がある。それは自分がドレスを着ているからか、それとも自分がドレスを着て出てきてしまったからだろうか、とガラティーンは頭の隅で考えていた。
それでも昔の話は楽しかった。以前は自分を訪問してくれて、話をするような仲間はいなかったなと考えていた。自分もパブリックスクールに通いたかったなと思い出すが、まあ通えるわけもなかったなとその考えを打ち消す。
「いや、綺麗になったなあ…っていうか、綺麗だよなあ」
バーティがガラに見惚れながら素直に感想を述べる。
ガラティーンが他のことを考えて物憂げな顔になっていたらしい。そしてガラティーンは気づく。自分に対して開けっぴろげな仲間たちに対して、同じ姿勢で臨めなかった自分に対して違和感があったのだ。
「ありがとう、でいいのかな?」
ふふ、と微笑むガラティーンにバーティたちは声を上げる。
「ほんとにそんな顔までするようになって。ガラもレディだったんだなあ」
「俺たちはこの淑女の前でなんてことをしてきたんだろうな」
「君達でもそんなこと気にするんだねえ!」
笑いながらもガラはハリーからの視線に気づき、そちらをちらっと見る。
「…なに?ハリー」
「なんでもないよ。いや、俺は先にお前のことを一人でゆっくり眺められて、役得だったんだなあと」
「役得ねえ」
ガラは下を向いて笑う。
自分が本当は女だって先に気づいた人は他にいるんだよ、と心の中でつぶやいた。
クーパー家を訪れたハリー、そしてトミー、ジョニー、バーティ達は帰りにクラブへ寄り、ガラティーンの話で盛り上がる。
ガラティーンがちゃんと女に見えたこと、それどころか美人だったこと、胸が大きかったこと、中身は変わっていなさそうなこと――それぞれが思ったことを、ほぼ同じ内容を別の口で繰り返す。
先に一度会っているハリーは比較的冷静になのでトミー達の話を聞いているだけになっているが、トミー達は複数人と話をしているうちに自分たちの心の中でなんとなく盛り上がってきてしまったらしい。
ほぼ同じ話を繰り返しているのでハリーは大体のことを聞き流しながら葉巻に火をつけていたが、さすがに聞き流せない言葉が出てきた。
「よし、じゃあ誰がガラと結婚できるか。賭けようぜ」
「俺が勝ったらお前の父上のごひいきのあの画家にガラの肖像画を描いてもらうように頼んでくれよ。あのフランスの画家に。料金はお前持ちで」
「よし、じゃあ俺が勝ったら…」
酒が入ったところでの冗談だろうとは思っていても、さすがに良くないのではとハリーは思ったが、口をはさむ間がつかめない。
ハリーは、そのうちに彼らも落ち着くだろう、いや落ち着いてやってくれと期待しながら葉巻の煙を深く吸い込んだ。
ハリーやトミー、ジョニー、バーティはその後も数回クーパー邸を訪問して、ガラティーンと会っていたようだったが、どうしてもアルはそれに一緒について行くこともできなかった。
ガラティーンは「顔を見せてくれ」と言ってくれていたようだが、アルがしたい話はハリー達がいるとできない気がしている話だった。そのためには一人で行かなければならない。しかし一人で行く勇気がどうしても出ない……と堂々巡りになり、結局アルは、ガラティーンにはデビュタント・ボールまで顔を合わせないことになってしまった。
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