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10 母にも似ているなら
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ガラティーンは社交界デビューを目指して、まずはどこかの夫人の主催のティーパーティに参加でもしてみるべきだという話をダニエルから伝えられた。それはもちろん、ドレスのオーダーの店舗などを手配してくれたエッジウェア伯からの入れ知恵以外の何物でもない。
「でも、父上は私をティーパーティに誘ってくれるような貴婦人をご存じなのですか」
「…ハーバートの奥方から、追って紹介状が来る予定だ」
「父上、私たちはエッジウェア伯にお世話になりっぱなしですねえ。あそこに独身のご子息がいたら嫁に行った方が良いですか?」
「いないから大丈夫だ!」
「それは何より」
肩をすくめるガラティーンは女ものの服を着ている。その姿を見てダニエルはふと、亡くなった義理の姉のことを思い出した。
「お前、ミルドレッド様に似て来たなあ」
「どうしたんですか、突然」
今までほとんど誰にも母に似ていると言われたことがなのでガラティーンは驚いた。と同時に、自分にも母はちゃんといたのだ、ということを改めて思い出すことができた。
彼女は今まで実の両親を失ったことについての寂しさを感じたことはほとんどなかった。そもそも父についてはほぼ記憶がない。部屋で肩車をしてもらっていたら、部屋から出ようとした父は自分の高さのことを考えていなかったらしくそのままドアを通ろうとしてしまい、思い切り頭をぶつけて大泣きしたことがあった。それがガラティーンの一番古い記憶だ。母についてはもう少し覚えがあるけれども、基本的には病気の時に優しくしてくれた時のことしか覚えていない。
確かに両親を亡くした後にもう会えないことは寂しかったが、家族からの愛情というようなものはダニエルや、乳母のマーサ、その娘のリンダ、家令たちからあふれるほどに受けてきた。そして、学校に通うことはなかったけれども周囲の助けで教育も受けてきた。生活に何の不足も感じたことはなかった。それでも、母と似ているところがあるとダニエルに言われ、胸の底から熱いものがこみあげてきた。
「まさか、ドレスを着ているからなだけじゃないでしょうね」
「そうかもなあ。どこが、とはわからんのだがな。なんとなくな」
ダニエルも首をかしげるが、実際にドレスを着ているということだけで「女性らしい」と思ってしまっているのかもしれないというのは否定がしづらそうな顔つきだ。
「嬉しいものですね。今まで父上に似ているとしか言われていない。それが嫌なわけではないけれど、私にもちゃんと母がいたんだと思える」
そのことを口にしたら、ガラティーンの目に突然涙が浮かんできた。ダニエルは慌てて、ガラティーンの頭を胸に抱え込む。
「俺は、至らぬところしかない父親――父親まがいの存在でしかなくて……」
「そんなことないです。父上がいてくれたから、私は普段亡くなった両親のことを考えずに済んでいるのです」
それに言葉では答えずに、ダニエルはガラティーンの髪を撫でる。
「父上は、どうしてこれで女性に不人気なんでしょうね。こんなにいい人なのに」
ダニエルの胸に頭を押し付けたまま、少し鼻声のガラティーンは軽口をたたく。
「そう言ってくれるのはお前だけだよ」
ダニエルは苦笑する。基本的にダニエルは悪い男ではない。外見も悪くはないのに女性に不人気なのは、女性を相手にするとあがってしまい、もともとそそっかしいところがあるのが、非常にそそっかしくなってしまい、率直な性格が裏目に出たりしていることなどが原因だ。
「私の後は、次は父上ですからね」
「……頑張るよ……」
ダニエルは自分のこととなると非常に歯切れが悪かった。
「でも、父上は私をティーパーティに誘ってくれるような貴婦人をご存じなのですか」
「…ハーバートの奥方から、追って紹介状が来る予定だ」
「父上、私たちはエッジウェア伯にお世話になりっぱなしですねえ。あそこに独身のご子息がいたら嫁に行った方が良いですか?」
「いないから大丈夫だ!」
「それは何より」
肩をすくめるガラティーンは女ものの服を着ている。その姿を見てダニエルはふと、亡くなった義理の姉のことを思い出した。
「お前、ミルドレッド様に似て来たなあ」
「どうしたんですか、突然」
今までほとんど誰にも母に似ていると言われたことがなのでガラティーンは驚いた。と同時に、自分にも母はちゃんといたのだ、ということを改めて思い出すことができた。
彼女は今まで実の両親を失ったことについての寂しさを感じたことはほとんどなかった。そもそも父についてはほぼ記憶がない。部屋で肩車をしてもらっていたら、部屋から出ようとした父は自分の高さのことを考えていなかったらしくそのままドアを通ろうとしてしまい、思い切り頭をぶつけて大泣きしたことがあった。それがガラティーンの一番古い記憶だ。母についてはもう少し覚えがあるけれども、基本的には病気の時に優しくしてくれた時のことしか覚えていない。
確かに両親を亡くした後にもう会えないことは寂しかったが、家族からの愛情というようなものはダニエルや、乳母のマーサ、その娘のリンダ、家令たちからあふれるほどに受けてきた。そして、学校に通うことはなかったけれども周囲の助けで教育も受けてきた。生活に何の不足も感じたことはなかった。それでも、母と似ているところがあるとダニエルに言われ、胸の底から熱いものがこみあげてきた。
「まさか、ドレスを着ているからなだけじゃないでしょうね」
「そうかもなあ。どこが、とはわからんのだがな。なんとなくな」
ダニエルも首をかしげるが、実際にドレスを着ているということだけで「女性らしい」と思ってしまっているのかもしれないというのは否定がしづらそうな顔つきだ。
「嬉しいものですね。今まで父上に似ているとしか言われていない。それが嫌なわけではないけれど、私にもちゃんと母がいたんだと思える」
そのことを口にしたら、ガラティーンの目に突然涙が浮かんできた。ダニエルは慌てて、ガラティーンの頭を胸に抱え込む。
「俺は、至らぬところしかない父親――父親まがいの存在でしかなくて……」
「そんなことないです。父上がいてくれたから、私は普段亡くなった両親のことを考えずに済んでいるのです」
それに言葉では答えずに、ダニエルはガラティーンの髪を撫でる。
「父上は、どうしてこれで女性に不人気なんでしょうね。こんなにいい人なのに」
ダニエルの胸に頭を押し付けたまま、少し鼻声のガラティーンは軽口をたたく。
「そう言ってくれるのはお前だけだよ」
ダニエルは苦笑する。基本的にダニエルは悪い男ではない。外見も悪くはないのに女性に不人気なのは、女性を相手にするとあがってしまい、もともとそそっかしいところがあるのが、非常にそそっかしくなってしまい、率直な性格が裏目に出たりしていることなどが原因だ。
「私の後は、次は父上ですからね」
「……頑張るよ……」
ダニエルは自分のこととなると非常に歯切れが悪かった。
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