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6 ガールズトーク
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とはいえ、ガラティーンも女性のドレスを着れば、人並みにきちんと以上に女性に見えるのだ。ガラティーンを見てリンダはとても誇らしくなった。この、ギリシャ彫刻の女神のような女性が「私のお嬢様」なのだ、と。
リンダは、ガラティーンのことを「ギリシャ神話の女神さまのよう」と評したヴァレリーのことをすっかり気に入っていた。ヴァレリーもリンダとは気が合うようで、二人は楽しそうにガラティーンの衣類について話をしていた。
この日以降、とりあえず女性のドレス――レディメイドの乗馬服を購入して着用するようになったが、ガラティーンはどうも落ち着かないままだった。
「こんな美しいかたが乗馬していたら、乗馬どころじゃなくなってしまいそう」
ドレスメーカーのマダム・ヴァレリーがけらけら笑う。
「私、ガラティーン様のファンになってしまいましたわ」
初めてドレスの注文をしてから数週間後、ドレスの仮縫いのためにヴァレリーの店舗を訪れたガラティーンは、ヴァレリーのその言葉に頬を赤くする。
「どうにもまだ、女装しているような気持ちがなくならないよ。困ったね」
「でも日焼けもだいぶ落ち着いてきて、これならおしろいを塗る必要もなくなりそうですよ」
「助かった…」
ガラティーンは頬を撫でる。あのおしろいというものは顔をこすれば手につくし、どことなく気持ちが悪かったのだ。
「でも口紅はね、薄くつけておかないと顔色があまりよく見えないから……日焼けしすぎですよ、ガラティーン様」
ヴァレリーはため息をつく。
「男性ならそんなの問題にならないのに」
ガラティーンは唇を軽くとがらせる。
「ふふふ、そんな顔をしてもだめですよ」
ヴァレリーはガラティーンをからかう。
「大体この乗馬服だって、馬には乗りづらい。横座りしないといけないなんて」
「今までガラティーン様は、またがって乗っていらっしゃいましたものねえ」
ガラティーンの付き添いのリンダはため息をつく。
「どうしても我慢できなくなったらまた男物の服を着るさ」
「デビュタント・ボールの後にしてくださいね」
リンダはガラティーンを軽くにらむ。ガラティーンは5歳の時から13年間弱、パブリックスクールにこそ通うことはなかったが、身に着けた知識も風俗も基本的に男性向けなのだ。一気に女性に戻せというのは酷だ――ということはリンダはわかっている。男性が身に着ける知識や教養と合わせて女性が身に着けるべきこととされているものも学んできたガラティーンは、通常の令嬢の倍以上は努力してきたと、リンダは自分が仕えているガラティーンのことを誇りに思っているのだ。彼女が生きたいように生きられればそれが一番だとリンダは思っている。
「ねえガラティーン様、あなたのお父様、お若いのね」
マダム・ヴァレリーがガラティーンに試着をさせながら、世間話と言ったていでダニエルの話を振る。
「若くて素敵なお父様で、いいじゃない」
「…ああ、父は本当は叔父なんですよね。私の本当の父の弟なんです。そして、まだ独身なんですよ」
「…ごめんなさい」
ヴァレリーは、ガラティーンがあまりにも自然に「父」と呼んでいたので、そのような可能性を全く考えていなかった。
「いいんです、私は両親のことはあまり覚えていない。でも――ダニエル父様や周りの人たちに、かわいがってもらいました」
あの図体の人が私に絵本を読んでくれたんですよ、とガラティーンは笑う。
「父は、私が産んだ子供にラトフォード伯を譲りたいんだそうです。私からすると、さっさと結婚して自分の子供に継がせたらいいのに、と思うんですけどね」
「どなたか、いい人がいらっしゃるの?」
「いや、それらしき人は見たことがないですね。隊のみんなからもそれらしい話も聞いたことはないですし。ひょっとしたらまだ純潔を守っているのかも」
「ガラティーン様ったら!」
冗談めかしてはいるが、淑女としては大変に不適切な内容のガラティーンの発言に、ヴァレリーもリンダもつられて笑う。ここには女性しかいない。そしてどちらかと言えば進歩的な、あけっぴろげな性格の女たちしかいないのだ。それをガラティーンはわかっていたらしい。
「まあそれはさておき……身内びいきではなく、男ぶりも悪くないと思うんですよ。けれど女性に対してはどうにも……」
「純情そうで素敵じゃない」
笑いがまだ止まらないヴァレリーに、ガラティーンはダニエルを売り込んでみることにした。
「マダムからしたら、子供っぽすぎやしないですか」
「そんなことないわ。とても可愛らしくて素敵よ」
「良かったらもらってやってくれませんか」
「あら、本気にしちゃうわよ」
「本気にしてほしいですよ。父にもいい縁が欲しいんです」
ガラティーンは、ヴァレリーのような女性が家にいてくれたら楽しいだろうけれどもヴァレリーは「自立した女性」だから、家にいてくれるかはわからないな、などと考えながら退屈な試着の中に、ヴァレリーやリンダとの気楽な会話という楽しみを見つけていた。
憧れていた「友達」との会話というものに少し近いと良いけれど、と、自業自得とはいえ同年代の友達がほぼいないことの寂しさを埋めようとしていた。
リンダは、ガラティーンのことを「ギリシャ神話の女神さまのよう」と評したヴァレリーのことをすっかり気に入っていた。ヴァレリーもリンダとは気が合うようで、二人は楽しそうにガラティーンの衣類について話をしていた。
この日以降、とりあえず女性のドレス――レディメイドの乗馬服を購入して着用するようになったが、ガラティーンはどうも落ち着かないままだった。
「こんな美しいかたが乗馬していたら、乗馬どころじゃなくなってしまいそう」
ドレスメーカーのマダム・ヴァレリーがけらけら笑う。
「私、ガラティーン様のファンになってしまいましたわ」
初めてドレスの注文をしてから数週間後、ドレスの仮縫いのためにヴァレリーの店舗を訪れたガラティーンは、ヴァレリーのその言葉に頬を赤くする。
「どうにもまだ、女装しているような気持ちがなくならないよ。困ったね」
「でも日焼けもだいぶ落ち着いてきて、これならおしろいを塗る必要もなくなりそうですよ」
「助かった…」
ガラティーンは頬を撫でる。あのおしろいというものは顔をこすれば手につくし、どことなく気持ちが悪かったのだ。
「でも口紅はね、薄くつけておかないと顔色があまりよく見えないから……日焼けしすぎですよ、ガラティーン様」
ヴァレリーはため息をつく。
「男性ならそんなの問題にならないのに」
ガラティーンは唇を軽くとがらせる。
「ふふふ、そんな顔をしてもだめですよ」
ヴァレリーはガラティーンをからかう。
「大体この乗馬服だって、馬には乗りづらい。横座りしないといけないなんて」
「今までガラティーン様は、またがって乗っていらっしゃいましたものねえ」
ガラティーンの付き添いのリンダはため息をつく。
「どうしても我慢できなくなったらまた男物の服を着るさ」
「デビュタント・ボールの後にしてくださいね」
リンダはガラティーンを軽くにらむ。ガラティーンは5歳の時から13年間弱、パブリックスクールにこそ通うことはなかったが、身に着けた知識も風俗も基本的に男性向けなのだ。一気に女性に戻せというのは酷だ――ということはリンダはわかっている。男性が身に着ける知識や教養と合わせて女性が身に着けるべきこととされているものも学んできたガラティーンは、通常の令嬢の倍以上は努力してきたと、リンダは自分が仕えているガラティーンのことを誇りに思っているのだ。彼女が生きたいように生きられればそれが一番だとリンダは思っている。
「ねえガラティーン様、あなたのお父様、お若いのね」
マダム・ヴァレリーがガラティーンに試着をさせながら、世間話と言ったていでダニエルの話を振る。
「若くて素敵なお父様で、いいじゃない」
「…ああ、父は本当は叔父なんですよね。私の本当の父の弟なんです。そして、まだ独身なんですよ」
「…ごめんなさい」
ヴァレリーは、ガラティーンがあまりにも自然に「父」と呼んでいたので、そのような可能性を全く考えていなかった。
「いいんです、私は両親のことはあまり覚えていない。でも――ダニエル父様や周りの人たちに、かわいがってもらいました」
あの図体の人が私に絵本を読んでくれたんですよ、とガラティーンは笑う。
「父は、私が産んだ子供にラトフォード伯を譲りたいんだそうです。私からすると、さっさと結婚して自分の子供に継がせたらいいのに、と思うんですけどね」
「どなたか、いい人がいらっしゃるの?」
「いや、それらしき人は見たことがないですね。隊のみんなからもそれらしい話も聞いたことはないですし。ひょっとしたらまだ純潔を守っているのかも」
「ガラティーン様ったら!」
冗談めかしてはいるが、淑女としては大変に不適切な内容のガラティーンの発言に、ヴァレリーもリンダもつられて笑う。ここには女性しかいない。そしてどちらかと言えば進歩的な、あけっぴろげな性格の女たちしかいないのだ。それをガラティーンはわかっていたらしい。
「まあそれはさておき……身内びいきではなく、男ぶりも悪くないと思うんですよ。けれど女性に対してはどうにも……」
「純情そうで素敵じゃない」
笑いがまだ止まらないヴァレリーに、ガラティーンはダニエルを売り込んでみることにした。
「マダムからしたら、子供っぽすぎやしないですか」
「そんなことないわ。とても可愛らしくて素敵よ」
「良かったらもらってやってくれませんか」
「あら、本気にしちゃうわよ」
「本気にしてほしいですよ。父にもいい縁が欲しいんです」
ガラティーンは、ヴァレリーのような女性が家にいてくれたら楽しいだろうけれどもヴァレリーは「自立した女性」だから、家にいてくれるかはわからないな、などと考えながら退屈な試着の中に、ヴァレリーやリンダとの気楽な会話という楽しみを見つけていた。
憧れていた「友達」との会話というものに少し近いと良いけれど、と、自業自得とはいえ同年代の友達がほぼいないことの寂しさを埋めようとしていた。
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