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3 金髪の美丈夫
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翌週、また職場で顔を合わせたエッジウェア伯ハーバート・ハリスとラトフォード伯ダニエル・クーパーだったが、ダニエルは肩をすくめて、体を縮こまらせるように立っている。
「……で、うちのバトラーとレディーズ・メイドが確認をしたところ、何もかもが足りないと」
「……はい」
あきれ顔のハーバートに、ダニエルは頭を下げて言われるままだ。
「……面目ない」
具体的な案を何も言えずに頭を下げているダニエルの後ろに、長い金髪の美丈夫が控えている。
「で、ハーバート。これがうちの娘のガラ、ガラティーンだ」
「ガラティーン・クーパーです。エッジウェア伯、父が大変申し訳ありません。また私もあまり世慣れておりませんで」
ハーバートは、金髪の青年と握手をするつもりで手を差し伸べようとして一瞬手が止まる。
「ガラティーン嬢?」
「はい。先のラトフォード伯の娘です」
確かに首回りは華奢で、顎も細い。手もそこまで骨ばってはいない。しかし堂々とした立ち姿は、少女というよりは青年のものだった。その姿を見て、ハーバートは以前、この青年を見たことがあるとふと思い出す。
「以前、お見かけしたことがあったような」
「ええ、父上の執務室でお会いしました。その時はご挨拶をしそびれてしまいました」
その時はあまりにもずさんな予算申請書をダニエルが提出したので、ハーバートが書類の再提出を求めて来ていた時だったので、ガラティーンは挨拶の機会もなく、黙っていたのだ。
二人は力強い握手を交わし、ハーバートは感心したようにつぶやく。
「ダニエル。君は男子を育てるのは上手なんだな…」
「褒められるなんて照れるな!」
「褒めてないよ!」
すっかり仲が良くなっている叔父とエッジウェア伯を見てガラティーンは、呑気に「自分も仲の良い友人が欲しいなあ」と思っていた。ガラティーンには、あまり友達らしい友達はいなかった。同世代の女性とは縁が遠いし、ダニエルの部隊の同年代の青年たちともうまくやってはいるが、友達と言えるのかというとどうもそれは違うような気がしている。ガラティーンの側から少し線を引いた付き合いにしてしまっているのだ。
彼女は父から与えられる教育と、それ以外に「女性の姿に戻ったときのため」としての教育で予定がいっぱいになり、友人と過ごす時間の余裕のようなものは特になく、本人もそれで特に違和感を感じてはいなかったため、18歳を目前にして初めて「友人が欲しい」と思ったのだ。
ダニエルの家にも女性の使用人がいなかったわけではない。
しかし、ある程度の年齢になったら女性向けの家庭教師をつけるということに思い至らなかったダニエルのせいで、乳母が衣類について何か言っても「父上と同じがいい」というガラティーンに対して、ダニエルが「ガラティーンがそれで良いならそれでいいじゃないか」とやにさがって済ませられていた。そこに付け込んでガラティーンは、10年以上シャツとトラウザーズで過ごしてきていたのだ。
ガラティーンの体は女性のものだったので、成長をしてくれば胸もふくらみ、月経も来る。どうやっても「父上と同じ」で済むことばかりではなくなる。さすがに家令はガラティーンをそのままにすることはできず、淑女として最低限の知識は必要と考えダニエルが教える武術や、ダニエルがつけたチューター以外に、女性として必要とする、どちらかといえば実践的な知識を乳母や女中から伝えるようには手配をしていた。その後には通いの家庭教師もつけ、貴族女性らしい知識も習得するということに当たっては、フランス語、そしてイタリア語とドイツ語も、縫物やピアノ、ヴァイオリンもさらっと、ある程度の得手不得手はあっても「できると言っても問題はない」程度には身に着けてしまい、周囲を驚かせた。
しかしドレスについては、どうにもガラティーンが「あんな動きにくいものはなるべく着たくないから、どうしても着なければならない時になるまでは黙っていてくれ」と乳母や家令、教師たちにまで頼み込んでいてごまかしてきていたのだが、とうとうその「どうしても着なくてはいけない日」が来てしまったのだ。
「……で、うちのバトラーとレディーズ・メイドが確認をしたところ、何もかもが足りないと」
「……はい」
あきれ顔のハーバートに、ダニエルは頭を下げて言われるままだ。
「……面目ない」
具体的な案を何も言えずに頭を下げているダニエルの後ろに、長い金髪の美丈夫が控えている。
「で、ハーバート。これがうちの娘のガラ、ガラティーンだ」
「ガラティーン・クーパーです。エッジウェア伯、父が大変申し訳ありません。また私もあまり世慣れておりませんで」
ハーバートは、金髪の青年と握手をするつもりで手を差し伸べようとして一瞬手が止まる。
「ガラティーン嬢?」
「はい。先のラトフォード伯の娘です」
確かに首回りは華奢で、顎も細い。手もそこまで骨ばってはいない。しかし堂々とした立ち姿は、少女というよりは青年のものだった。その姿を見て、ハーバートは以前、この青年を見たことがあるとふと思い出す。
「以前、お見かけしたことがあったような」
「ええ、父上の執務室でお会いしました。その時はご挨拶をしそびれてしまいました」
その時はあまりにもずさんな予算申請書をダニエルが提出したので、ハーバートが書類の再提出を求めて来ていた時だったので、ガラティーンは挨拶の機会もなく、黙っていたのだ。
二人は力強い握手を交わし、ハーバートは感心したようにつぶやく。
「ダニエル。君は男子を育てるのは上手なんだな…」
「褒められるなんて照れるな!」
「褒めてないよ!」
すっかり仲が良くなっている叔父とエッジウェア伯を見てガラティーンは、呑気に「自分も仲の良い友人が欲しいなあ」と思っていた。ガラティーンには、あまり友達らしい友達はいなかった。同世代の女性とは縁が遠いし、ダニエルの部隊の同年代の青年たちともうまくやってはいるが、友達と言えるのかというとどうもそれは違うような気がしている。ガラティーンの側から少し線を引いた付き合いにしてしまっているのだ。
彼女は父から与えられる教育と、それ以外に「女性の姿に戻ったときのため」としての教育で予定がいっぱいになり、友人と過ごす時間の余裕のようなものは特になく、本人もそれで特に違和感を感じてはいなかったため、18歳を目前にして初めて「友人が欲しい」と思ったのだ。
ダニエルの家にも女性の使用人がいなかったわけではない。
しかし、ある程度の年齢になったら女性向けの家庭教師をつけるということに思い至らなかったダニエルのせいで、乳母が衣類について何か言っても「父上と同じがいい」というガラティーンに対して、ダニエルが「ガラティーンがそれで良いならそれでいいじゃないか」とやにさがって済ませられていた。そこに付け込んでガラティーンは、10年以上シャツとトラウザーズで過ごしてきていたのだ。
ガラティーンの体は女性のものだったので、成長をしてくれば胸もふくらみ、月経も来る。どうやっても「父上と同じ」で済むことばかりではなくなる。さすがに家令はガラティーンをそのままにすることはできず、淑女として最低限の知識は必要と考えダニエルが教える武術や、ダニエルがつけたチューター以外に、女性として必要とする、どちらかといえば実践的な知識を乳母や女中から伝えるようには手配をしていた。その後には通いの家庭教師もつけ、貴族女性らしい知識も習得するということに当たっては、フランス語、そしてイタリア語とドイツ語も、縫物やピアノ、ヴァイオリンもさらっと、ある程度の得手不得手はあっても「できると言っても問題はない」程度には身に着けてしまい、周囲を驚かせた。
しかしドレスについては、どうにもガラティーンが「あんな動きにくいものはなるべく着たくないから、どうしても着なければならない時になるまでは黙っていてくれ」と乳母や家令、教師たちにまで頼み込んでいてごまかしてきていたのだが、とうとうその「どうしても着なくてはいけない日」が来てしまったのだ。
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